「UIP」を含む日記

■anond:20251113111015

逆に「積極財政は円高要因」という意見へのCaveatを記載します

これはマクロ経済の標準モデル（IS-LM・マンデル＝フレミングなど）に基づくものです

「マンデル＝フレミングではこうなる」と言った瞬間に、

でもMFモデル自体が現実にはかなり無理筋な前提置いてない？

って話は必ず出てきます。

ざっくり、どんな批判があるか＆それでもなぜ“たたき台”としては使われるのかを整理します。

1. そもそもの前提がかなりキツい

マンデル＝フレミング（MF）は、IS–LMを「小さな開放経済」に拡張したモデルです。

そのとき置いている代表的な前提は：

• 世界金利は所与（小国なので世界金利を動かせない）
• 資本移動は（しばしば）完全、かつ国内外証券は完全代替
• 物価は固定（短期）、失業資源あり、供給は弾力的
• 為替の期待は扱わず、スポットとフォワードが同じ（＝今のレートがずっと続く前提）

このへんが現実と合わないじゃん問題としてよく叩かれます。

(1) 完全資本移動 & 完全代替ってどの世界線？

MFの有名な結果（柔軟レート＋完全資本移動だと財政政策は実質効かない等）は、

・国債買おうと思えばコストゼロですぐ世界中にお金が飛ぶ

・リスクや規制の差もなく、国債はどこの国のものでも完全代替

みたいな前提に強く依存しています。

でも現実は：

• 為替リスク・政治リスク・規制・ホームバイアス
• 銀行や機関投資家の運用ルール
• 資本規制（特に新興国）

などがあって、金利差だけで無限に資本が動く世界ではない。

実証研究でも、完全資本移動は明らかに成り立っておらず、「資本移動は結構制限されている」という結果が多いです。

なので、

「完全資本移動＋小国」前提のMFの結論を、そのまま日本（大国寄り）に当てるのは雑

という批判はかなり筋が良いです。

2. 「短期の静学モデル」すぎる問題

MFは超短期・静学のたたき台です。

• 物価水準は固定（インフレ・期待は基本無視）
• 政策の時間的な調整プロセスや期待形成を入れていない
• 債務の蓄積・財政の持続可能性・将来の増税期待（リカード的効果）なども扱わない

現代のマクロでは、動学的・前方視的なオープンエコノミーDSGE（New Keynesianの開放経済版）で、

• 期待インフレ
• リスクプレミアム
• 金融摩擦

などを入れて分析するのが標準で、MFは「かなりラフな近似」に格下げされています。

3. 為替レート“期待”を無視している

MFの重大な弱点のひとつがこれです。

「国内金利 ＝ 世界金利＋ちょっと」→ その“ちょっと”を生むのが為替レートの期待なのに、そこをほぼ無視している

この点を突いたのがドーンブッシュのオーバーシュート・モデルで、

• 投資家は将来の為替を予想する（UIP）
• 期待に沿うように短期の為替・金利がジャンプする
• その結果、金融緩和でむしろ貿易収支が悪化するケースもありうると示した（MFの単純な「通貨安→純輸出↑」という結論と違う）

つまり、

為替期待をちゃんと入れると、

MFが描くようなキレイな因果（政策→金利→為替→NX）は崩れやすい

という批判です。

4. 実証的にも「MFどおり」とはあまり出てこない

MFの一番シンプルな結論の一つは：

柔軟レート＋完全資本移動

→ 金融政策：強力

→ 財政政策：無効（クラウディングアウト ＋ 為替レート調整で相殺）

でも実証研究では、

フロート制の国でも財政政策にそれなりの実体効果が確認される

「完全にゼロ」なんてきれいな結果にはならない

という報告が普通にあります。

要は、

MFの“財政無効”は、

「完全資本移動＋小国＋短期＋価格固定」という

少しでも外せば崩れるかなり特殊なケースの結果

と見なされているわけです。

5. じゃあ「MFはダメだから全部無視」でいいの？

ここはバランスで、

MFの良いところ

開放経済で「金利・為替・資本移動・財政・金融」がどう絡むかを

直感的に整理する教科書としてはすごく便利

「トリレンマ（固定相場・資本自由化・金融政策の独立は3つ同時には無理）」という

直感は今でも政策議論の基本ツールとしてよく使われる

限界

「実際の日本で積極財政が円高／円安どっちか？」みたいな

定量的・実務的な問いに、そのまま当てはめるのは危険

資本移動の不完全さ、リスクプレミアム、期待、財政の持続性などを無視しているので、

サイン（円高・円安）が簡単に反転しうる

なので立ち位置としては、

■ MF：

　・“積極財政→金利↑→資本流入→通貨高”という標準メカニズムを説明するための黒板モデル

■ 現実の議論：

　・そこに「期待・リスク・金融政策・資本移動の制限・財政の中身」を上乗せして考える必要がある

という感じです。

6. 今やっている「積極財政→円高？円安？」の議論との関係

「（教科書的には）積極財政→金利上昇→通貨高」

という整理は、まさにMF型の標準メカニズムを説明したもので、これは理論的には全然OKです。

一方で、

「でもMFは現実から乖離が大きい」という批判を踏まえると、

資本移動が不完全なら、金利↔為替の連動は弱くなりうる

中央銀行が金利を抑え込めば、インフレ期待・実質金利ルートで通貨安もありうる

財政の中身次第では「信用悪化→通貨安」というルートもある

といった話も乗せられます。

だから、一言でまとめるなら：

マンデル＝フレミングの批判はもちろんあるけど、

それは「積極財政＝必ず円安」というあなたの主張を

裏付けるわけじゃなくて、

“どっちにも転びうるから、金融政策・期待・信用まで含めて考えよう”

って話になるだけだよね？

という立て付けにすると、かなりキレイに整理できます。

Permalink | 記事への反応(0) | 11:24

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