強誘電体
強誘電体(きょうゆうでんたい、英: Ferroelectric)とは誘電体の一種で、外部に電場がなくても電気双極子が整列しており、かつ双極子の方向が電場によって変化できる物質を指す。また、このように電気双極子モーメントが自発的に整列した状態を強誘電状態、この性質を強誘電性と呼ぶ。
代表的な物質としてチタン酸バリウム BaTiO3 やチタン酸ジルコン酸鉛 Pb(Zr,Ti)O3 があり、FeRAM(強誘電体メモリ)などに使用されている。また強誘電体は全て圧電効果を有するため、アクチュエータなどとして使用されるものも多い。
電場に対する応答
強誘電体の表面に存在する単位体積当たりの電気双極子は、自然に正と負の電荷の重心が分かれることから「自発分極」と呼ばれる。外部から電場を加えると自発分極の向きは反転する。これを表したのが右のグラフで、外部電場を0にした時に表面に残っている分極の値は「残留分極」、分極の符号が反転する(すなわち分極の向きが逆転する)時の電場の強さは「抗電界」、とそれぞれ呼ばれる。
グラフの右端ないし左端にあたる十分に強い電場を印加すると、移動可能な電荷がすべて表面に移り、それ以上の電場をかけても分極はある上限(または下限)値で一定となる。これを飽和した状態、この時の分極の値を「飽和分極値」と呼ぶ。
グラフの形状は物質本来の性質だけでなく、単結晶か多結晶かといった構造の違いにも依存する。その他、微小な分極領域の境界に当たる分極壁の移動が、電場の変化にどの程度追随できるかなどによっても傾きなどが変化する。
分類
機構の違いから、強誘電体は「変位型」と「秩序-無秩序型」の2つに分類される。
変位型
チタン酸バリウム BaTiO3 をはじめ、強誘電体の多くは変位型強誘電体に分類される。このタイプでは、高温相(=常誘電体)では自発的に整列する永久双極子を持たないが、キュリー温度(Tc、相転移温度)以下の温度では結晶が少し縦長になって正負のイオンが相対的に変位するため自発分極が発生する。この時の結晶構造(=イオンの配置)や誘電率の変化は下図のようになっている。
秩序‐無秩序型
電気双極子が高温ではランダムに配置し、温度の低下とともに整列する強誘電体を秩序‐無秩序型強誘電体と呼ぶ。亜硝酸ナトリウムNaNO2などが代表的な物質であり、強誘電状態では右図のようにNO2双極子の向きが整列して自発分極が生じる。なお、高温では熱エネルギーによってNO2がランダムに配向するため、巨視的な分極は0になる。
- チタン酸バリウムの相転移時の結晶構造変化
- NaNO2の強誘電状態での結晶構造
相転移の機構
強誘電体は温度が上昇すると相転移し、自発分極が消滅して常誘電体となる。これはエネルギー的には以下のように考えられる。
自由エネルギーを G、分極を P とすると、
変位型強誘電体の誘電率の温度依存性 キュリー温度以上の温度領域では、誘電率はキュリー・ワイスの法則に従って下記のように変化する。