映画『ハッピーアワー』観てきた


5時間17分に3900円はハードルが高かったが、地元神戸で作られていること、そして監督・濱口竜介の発言が興味深く、足を運んだ(@元町映画館)。結果として、重大な示唆をもらうことになった。この件はずっと考えたいし、知人たちと話し合ってみたい。*1

    • 以前には読み合わせという方法論を考えたが――対人の支援が、演技指導や演出論と重ならないだろうか。「自分で自分への演出をする」ということも含め。
    • 《当事者》という名詞形には、《演じる》という動詞形の要因がある。「役割を押し付けられて利用される」「それを当事者側も利用する」「自分の役割を考え直す」といったこと。
    • 昨今の言説においては、表向きの看板と論者の実態がかけ離れている。つまり言説そのものが、「演じる」という形をしている。
    • 冗長に見える場面も、現実そのものの時間の感覚に近い。『ハッピーアワー』という作品に付き合うことで、自分の時間の感覚を取り戻せるところがある。ヴィム・ヴェンダースがどこかで、「小津安二郎は私の目を治してくれた」と言っていたことを思い出した。
    • いわゆる「アイドル」とは別の、生活に密着した存在感。→有名人の演出のされ方に私が強いストレスを感じていることを思い出させてくれた。
    • 一部の素人っぽい演技にもかかわらず、作品世界には説得力があり、5時間17分を長すぎるとは感じなかった(むしろもう少し顛末を追いたかった)。
    • この映画を観終えた帰りの電車で、女性たちの顔が違って見えた。


書籍

カメラの前で演じること

カメラの前で演じること

出版社の書籍紹介ページより:

 演技経験のない4人の女性たちがロカルノ国際映画祭で最優秀女優賞を受賞し話題となった映画『ハッピーアワー』。【拙ブログによる補注:その後さらに、ナント三大陸映画祭で銀の気球賞(準グランプリ)および観客賞を受賞(参照)、シンガポール国際映画祭・アジア長編映画コンペ部門では監督賞を受賞(参照)】
 市民参加による即興演技ワークショップ in Kobeから誕生し、ほとんどの登場人物を演技未経験者がつとめるという本作は、総尺5時間17分という驚くべき大作となった。
 これまでにない試みで映画をつくりあげたのは、映画学校の生徒たちを起用した4時間を超える大作『親密さ』や、トータル7時間を超える東北記録映画三部作(『なみのおと』『なみのこえ』『うたうひと』)など、常に挑発的な作品づくりを続けてきた濱口竜介

 カメラの前に立つ者は皆、本人が思う以上のことを為す。カメラの前で為したあなたの振る舞いが、これから日々、この世界の価値を支える、もしくは貶める。(濱口竜介「はじめに」より)




関連情報


制作資金は、クラウド・ファンディングで集められた参照

『KIITO』「成果発表:『BRIDES(仮)』公開本読み」より:

 「濱口竜介 即興演技ワークショップ in Kobe」は「カメラの前で演じること」をテーマに、2013年9月より5ヶ月間のワークを重ねてきた。ワークショップ終了後、有志による長編映画制作に入る。
 ワークショップ参加者全員で、シナリオ『BRIDES(仮)』*2の本読みを全編通しで行なう。シナリオはワークショップ参加者によるブラッシュアップを経て完成したもので、今後制作される映画を「テキスト」の側面から予告する。台詞・ト書きの読み上げは、テキストに内在する「声」を聞き取るようにして、行なわれる。




*1:とりわけ『医療環境を変える―「制度を使った精神療法」の実践と思想』の関係者には、この映画を(制作過程の経緯と合わせ)知ってほしい。

*2:のちに『ハッピーアワー』に改題され正式発表された。