わがまちにプロ野球の試合がやってくるというのは、それはそれは大イベントだった。
たとえそれが2軍戦であっても。
記憶に残る、プロ野球観戦と「タダ見」の思い出。
突如よみがえった「タダ見」の記憶
新潟県の長岡市で育った私にとって、野球場といえば悠久山球場。
↑正式名称は「悠久山野球場」とある。でもみながそう呼ぶように「悠久山球場」と呼びたい。
私が子どもの頃はここで2~3年に1回ほどの頻度でプロ野球(多分2軍戦が多かったと思う)の試合が行われ、親父に連れられ見に来ていた記憶がある。
近鉄、ヤクルト、巨人…
幼稚園の卒園アルバムには、夏祭りに試合で買ってもらった近鉄バファローズの法被着て参加する私の写真も残っている。
だけど、記憶にある試合のアングルや観戦スタイルがどうもおかしい。
外野席のさらに後方から、折りたたみイスに座って…
あれは、球場の外から試合を見る「タダ見」だったのではないかと思うのだ。
そんなことを思い出したのは、NHK-BSでやっている火野正平の「こころ旅」を見たから。
番組内で悠久山球場を訪れた火野正平。
視聴者からの「球場の裏手にある山から、球場で行われている試合が見えます」との手紙をもとに、「タダ見」にいそしんでいた。
このアングルはまさしく記憶にあるそれ。
そうだ、記憶を頼りに「タダ見」の現場に行ってみよう。
あの日見た「タダ見」の光景
↑悠久山球場に来ました(再掲写真)
↑チケットではなく切符
球場に来て、いろんな思い出がよみがえってきた。
- 近鉄バファローズのグッズを買ってもらって近鉄を好きになったこと(落書きでよく近鉄のマークを描いていた)
- ヤクルト対巨人の2軍戦が来たとき、グッズ売り場では1軍選手のものばかりが売られている光景に微妙に切ない気持ちになったこと
- 中学生のころ、チャリンコを飛ばして甲子園の予選を見に来たこと
↑大学生のころ、免許を取りたての身でドライブがてら悠久山球場にヤクルト対巨人の2軍戦を見に来たことも
球場の外野席の裏手に回り、「タダ見」のポイントに行ってみる。
球場の裏手が蒼柴神社という神社がある小高い森になっており、そこから球場内部を覗くのだ。
↑蒼柴神社の表参道、左手が球場側
↑このへんかな?
↑見える?
↑見える!
この日は試合が行われていなかった悠久山球場だが、私には見える。
あの日見た近鉄の赤と青のユニフォームが。
悠久山球場のタダ見スポットでは、私と親父だけではなくお客さん数人が陣取って、それぞれレジャーシートや折りたたみ椅子で観戦していたものだ。
いま考えれば、子どもをめったに来ないプロ野球に連れていくのにチケット代をケチるなよと思うが、「タダ見の悦楽」というのもわかる気がする。
そして、タダ見だったからこそこうして記憶に残っているということもあるのかもしれない。
しんと静まり返った試合のない日の球場で、プロ野球がやってきた「非日常」の空気を思い出していた。
↑結構しっかり見える
サッカー・アルビ、新潟市陸上競技場の「タダ見」の思い出
野球が好きです、でもサッカーのほうがもっと好きです(松本引越センター)。
「タダ見」でもう一つ思い出されるのが、サッカー・アルビレックス新潟(アルビ)の試合。
アルビを熱心に応援していた少年時代、ホームスタジアムである新潟市陸上競技場に親父に連れられよく試合を見に行っていた。
まだアルビがJFL(Jリーグの下部リーグ)やJリーグに参戦して間もないころ。
そんな新潟市陸上競技場にもタダ見スポットがあったのだ。
それが、競技場の近くに設けられた歩道橋。
↑競技場を俯瞰した様子、右側がホームチーム側の応援席
↑その後方にある通路が歩道橋
ホームチームの応援席の裏手にある歩道橋に、電線にとまるカラスのように人がびっしりと並んで試合を眺めている光景を覚えている。
アルビに関しては野球と違って毎回きちんとチケットを買って入場しており、観客席からタダ見をする人たちを見て
「なんと卑しい…」
「タダ見で応援するなんて熱が入ってない!」
などと思っていた。
「立場変われば…」というやつである。
だけど、一度そんな「タダ見」で見える光景も見てみたくて。
あそこからは、競技場の中がどんなふうに見えるのだろう。
↑例の歩道橋にやってきました
↑歩道橋をたどっていくと
↑見えた!
これはすごい。
悠久山球場よりもよく見えるタダ見だ。
少し場所を変えれば、コーナーからの景色もバッチリ。
これはタダ見のしがいがある。
新潟スタジアム(ビッグスワン)というスタジアムができてからは、アルビが新潟市陸上競技場で試合を行うことはほとんどなくなった。
そしていつの間にか私もアルビの試合から足が遠のいていた。
アルビが好きだったのか、もしくは新潟市陸上競技場で過ごす時間が好きだったのか。
競技場で流れていたBGMはいまでも思い出せる。
チケットをもぎってもらい、階段を上り、スタンドに出て最初にフィールドを見渡すときの興奮をいまも覚えている。
タダ見で見えた景色の先に、10歳の自分が見える気がした。
タダ見に思い出あり
受益者負担の原則でいえば、「タダ見」はよろしいことではないだろう。
各地の花火大会では、無料で見れたスポットも次第に有料席に割り当てられているとも聞く。
だけど「タダ見」の裏に流れる、どこか「河川敷で子どもの野球を見る」的な牧歌的な空気はなくなってほしくないような。
新潟を本拠地とする野球チーム「オイシックス新潟アルビレックスBC」は今年からNPBのイースタンリーグに参戦し、悠久山球場でも数試合が行われるという。
果たしてタダ見の行方はどうなるのだろうか。
久しぶりに悠久山球場に野球を観に行こうかな。