スーツ姿の女性に背後から声を掛けられた職場のデスク。
この時期はいろんな保険会社の生保レディが勧誘にやってくる。
「今アンケートをお願いしてまして…
…あれ?久しぶりだね!覚えてる?」
誰だっけ?
必死に脳内のアルバムのページをめくる。
「忘れちゃった?高校のとき一緒だった…」
ヒントをもとにアルバムのインデックスに指をかける。
そうだ、思い出した。
視界が開ける感覚。
「おお…久しぶりだね」
「休憩中悪いんだけど、今時間ある?
いまうちの保険会社でこういうキャンペーンをやってて…」
人はまばたきをするとき、目をつむる一瞬の見えない瞬間を、見えている間の映像をつなぎあわせて脳内で補完するという。
高校時代の彼女と目の前の彼女。
自分が目を閉じている間に、綺麗で立派な女性になったんだな。
歩んできた人生を勝手にイメージする。
「いっぱい説明してもらったのに、力になれなくて申し訳ないね」
「ううん、全然大丈夫
こっちこそ休憩時間にごめんね」
大変な仕事なんだろうな。
オフィスから出ていくスーツ姿に高校時代の面影を探す。
この世には自分の知らない時間がたくさんあって、まばたきをする間にも世界は動いていく。
いつか目を開くとき、それぞれが描いてきた軌跡を称えたい。
再び知らない時間を生きていく彼女が遠ざかっていく。
幸あれ。