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フロリダ州中部の湖岸に立つラクウショウの木。度重なる嵐によって変形したおかげで、伐採を免れたと思われる。現在、北米大陸のラクウショウの古木の森は、ごく一部しか残っていない。(PHOTOGRAPH BY MAC STONE)
数千年にわたって地球の変化を生き抜いてきたラクウショウの木が今、私たち人間に、何かを伝えようとしている。
米国東部を流れるブラック川沿いに1本の巨大な木が立っていた。
デビッド・シュタールは、ヌマスギとも呼ばれるこのラクウショウの木にはしごをかけ、てっぺんまで上った。幹は太く、彼の身長と同じぐらいの幅がある。米アーカンソー大学で年輪年代学の研究をしているシュタールは、その幹にゆっくりと穴を開け始めた。樹皮から2.5センチほど掘った辺りの年輪は、第1次世界大戦の前の頃のものだ。5センチで合衆国が誕生した頃、12センチでコロンブスが米大陸に到達した頃になる。抜き出した鉛筆の太さほどの年輪のコア試料を調べたところ、この木が沼地で芽吹いたのは、十字軍の第1陣がエルサレムに侵攻した1000年ほど前だとわかった。だが、彼が私に見せたかったのは、樹皮からわずか1センチほどの1900〜35年に当たる部分だ。
米国ではその頃までに、古代から生えていたラクウショウの古木の約9割が伐採されたとシュタールは言う。「かつてラクウショウが生えていた低地の湿地は0.1%も残っていません。だから、この土地は大切な場所なんです」
古木の教え
これまであまり注目されていなかったが、一帯には、ロッキー山脈の東側において、わかっている限り最も古い木々が立っている。ラクウショウは、有性生殖を行う樹木のなかで、5番目に古い時代からあるとされる種だ。先述のコア試料を採取した木は、ようやく中年期にさしかかったところだという。2017年にここでシュタールが見つけた別のラクウショウは、遅くとも紀元前605年に芽を出し、樹齢は2600年を超えている。その周辺でも、同様の古木が数本発見されている。この土地や米国南東部のほかの地域から採取されたラクウショウの年輪コアからは、土壌の水分に関して、最も長期的かつ正確な科学的データが得られる。
年輪には、数十年間続いた干ばつや多雨期が、1年単位で正確に刻まれている。16世紀には、英国人による最初の入植が失敗した原因とされる1587年の干ばつのほか、さらに深刻な大干ばつも起きていた。「メキシコからカナダ、大西洋から太平洋までの北米全域に及び、40年続きました。近代以降、これほどの干ばつは起きていません」とシュタールは言う。