Photo Stories撮影ストーリー
フォークランド諸島のジェンツーペンギン。(Photograph by Paul Nicklen, National Geographic)
南大西洋に位置する英領フォークランド諸島は、800近い島々からなる。
大昔は固有の動植物であふれていたが、人々が入植してきた影響で大半が絶滅してしまった。ヨーロッパからの入植者が19世紀半ばにチェビオット種のヒツジを持ち込んだ際には、フォークランドオオカミを乱獲し、絶滅に追い込んだ。
現在、人口はおよそ3000人で、生物多様性は極めて高い。住人1人につき、167頭ものヒツジがいる。さらに、アホウドリ、カラカラ、ペンギンなど、65種の鳥類が見られ、周辺の海にはイルカやアシカ、ゾウアザラシなどが生息している。フォークランド諸島は今、人間社会と自然が平和に共存できる、自然保護のお手本として取り上げられることが多い。(参考記事:「フォークランド諸島、世界の低人口地域」)
ナショナル ジオグラフィック2018年3月号では、野生生物写真家ポール・ニックレン氏が撮影した特集「生命よみがえるフォークランド諸島」を掲載している。ニックレン氏に撮影の裏側を聞いた。(参考記事:「餓死寸前のホッキョクグマ、胸張り裂ける動画」)
――この撮影の発想はどうやって得たのですか?
私はよく南極に行くのですが、フォークランド諸島はその主要な中継地です。いつも通り過ぎるだけなのが不満でした。アホウドリの巨大営巣地や海中の豊かで多様な世界を、横目で見るだけだったのです。(参考記事:「優雅なる空の王者 アホウドリ」)
人やヒツジ、農業、漁業などと、あふれるほどの野生生物や自然とが、うまくバランスを取っているように感じていました。この生態系をじっくり観察したいと心から思いました。
――スティープル・ジェイソン島での体験を表現してもらえますか?
美しい島です。面積は8平方キロメートルほど、細長い形をしていて2つの山があります。この島にペンギンたちが集まり、それを狙ってアシカがやってきます。イルカも遊びに来ます。草が生い茂る広い斜面には、20万組のつがいのマユグロアホウドリ、数万羽のジェンツーペンギンとイワトビペンギンが巣を作っています。人里を離れるほど、島の生態系は豊かなのです。(参考記事:「ギャラリー:みんな大好き!ペンギン写真集 13点」)
――今回の撮影で気に入った写真はありますか?
特集記事の冒頭の写真ですね。美しい光の中、数万羽のマユグロアホウドリが等間隔に並んだ巣の上にいて、そのパートナーたちが空を舞っている様子を、座って撮影していました。その時、一羽のマユグロアホウドリが私の後頭部を軽く叩いて、頭上を飛び越えていったのです。写真で手前に写っている鳥がそのアホウドリです。
ここの動物は人間に干渉されていないため、私の周りでも非常にリラックスしているようでした。彼らの世界に私を招き入れてくれたのです。今を生きる生命の豊かさと調和を目撃したのです。保護のおかげで無事であるだけでなく、繁栄もしていると気付きました。
――今回の撮影を通して、主に何を学びましたか?
まるで、科学の実験に夢中になるような体験でした。ヒツジがたくさんいる島では、鳥や野生動物の営巣地をほとんど見かけませんでした。しかし別の場所では、ある人物が動物の生息地に投資して保護し、ヒツジと外来のネズミをすべて駆除しました。すると、動物たちが爆発的に増えました。自然の回復力と、どれほど自然が元に戻りたがっているかを理解しました。(参考記事:「ニュージーランド、2050年までに外来種を根絶へ」)
――フォークランド諸島の将来を楽観していますか?
スティープル・ジェイソン島のような場所を保護できれば、野生動物は繁栄します。周辺で漁をしなければ、海洋生態系も繁栄するでしょう。しかし、大規模な油の流出事故が1度起これば、そうしたものは無に帰することになります。数万羽の鳥がエサを捕まえに沖合に飛んでいきます。結局、海流に乗ってやってくるプラスチックごみのことを考えると、絶対に安全な場所など存在しないのです。島がどれほど完璧で美しいとしても、外部からの力に対しては弱いということがわかります。(参考記事:「海鳥の90%がプラスチックを誤飲、最新研究で判明」)
こうしてこの島で自然に囲まれていると、野生の生き物たちが非常に身近だった子供の頃に戻った気がします。
天国とは、今いるここのことだと常に思ってきました。我々は携帯電話やコンピューターを用いた暮らしの中でとても忙しく、次に行く来世を夢見ています。しかし、我々は今、天国に暮らしているのです。私の個人的な考えですが、今より良くなることはないのです。我々はその天国を台無しにしようとしているのです。
しかし、フォークランド諸島に滞在したおかげで、気分が明るくなりました。私たち人間が邪魔さえしなければ、ここは回復していくという希望が持てました。
【この記事の写真をもっと見る】フォークランド諸島 驚異の大自然 あと12点
ナショナル ジオグラフィック日本版
2018年3月号
特集「フォークランドの自然」を収録
このほか、「鳥たちのはるかな旅」「巨大湖が消える日」など特集6本を掲載しています。