モスラを朝まで吐かせない

ジョージは血が騒いですぐに軍隊を用意してでかけました。
あたり一面に赤茶色がにじんでいました。
突然切り倒され、切り口を空気に曝したとき、色が噴き出たのです。
早速、皮剥用の刀で、厚い皮を剥ぎにかかりました。
表皮の下からあらわれた白い木肌もみるみる紅みを帯び、
赤銅色に変りました。せきたてられるように剥いだ皮を袋につめ、
いそいで砂漠を去ろうとした時、オサマの声がしました。
「植物にはすべて周期があって、機を逸すれば色は出ないのです。
たとえ色は出ても、精ではないのです。」
ジョージはあやうい色を追いかけて、
足もとの地が崩れるような思いを繰り返しながら、
ますます深みに落ちていきました。
こきざみにふるえながら糸を吐き続け、
やがて、コロンとした茶褐色の蛹になって、
空中に舞上がることも果たせず、
白い繊維の幾重にもかさなった
自分の小さな城の中で死んでしまった。

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一色一生 (講談社文芸文庫―現代日本のエッセイ)

一色一生 (講談社文芸文庫―現代日本のエッセイ)