カテゴリ:マクロ経済を考えてみる の記事一覧

トルコ、アルゼンチン、インドについて

いま、トルコが熱いですね。

トルコと米国の関係がギクシャクしています。今回の対立先鋭化の発端となったのが、トルコが拘束している米国人、アンドリュー・ブランソン牧師の存在です。クーデター未遂事件に関係した容疑で2016年に拘束され、現在は自宅軟禁状態です。米国はブランソン牧師の釈放(軟禁の解除、出国禁止の解除)を要求しています。

トルコは、ブランソン牧師がクーデターに関与したとみていますので、釈放には応じられないとのスタンスです。


構図を簡略化すると


米国:牧師さんを解放して。

トルコ:やだ。俺にとって危険人物だもん。

米国:じゃぁ経済制裁。トルコから輸入する鉄鋼とアルミニウムに追加関税ね。

トルコ:経済テロリストには屈しない。アメリカ製の電子機器をボイコットだ。

こんなやりとりでエスカレートしている感じです。トルコのエルドアン大統領も米国のトランプ大統領も、どちらも個性的な大統領なので、振り上げたこぶしを下すのが難しくなっているのかもしれません。

まあ、こんな感じでは投資家はリスクを取りにくくて、トルコの経済・通貨に対しては慎重にならざるを得ないですね。投資家がリスクオフに動いたら、弱い通貨であるトルコリラは売られやすいです。


トルコリラはなぜ売られる?


為替の話は複雑なので、今回はかなり単純化します。

経常赤字の通貨は、リスクオフが意識されると売られやすい。

いちおうこんな感じです。

経常収支とは何か、経常赤字だとなぜ売られやすいのかは今回は説明を省略します。また、経常赤字なら無条件で売られやすいわけでもなくて、もうちょっと言うと、「経済基盤が弱い、かつ、経常赤字の国」の通貨が売られやすいんです。すみません、そんなもんだと思ってください。


経常赤字国ランキング


世界銀行のサイトから2017年の経常赤字を取得しました。[参照]

currentaccount1.png

縦軸が経常赤字額、単位は10億ドルです。

世界で最も経常赤字が大きいのは米国、その次は英国です。グラフを突き抜けるレベルです。ただ、この2か国はリスクオフだからといって通貨が急落するような経済基盤ではありません。

通貨が急落する恐れがあるのは、経済基盤が弱い、かつ、経常赤字の国です。それに該当しそうな国をオレンジ色にしました。

具体的には、トルコ、インド、アルゼンチン、メキシコ、インドネシアなどです。


危険性が高い国


さっきのグラフは経常赤字額そのものを示しました。

国の規模は考慮していませんので、次はGDPとの関係で見てみます。オレンジ色に塗った国のうち、経常赤字の大きな上位10か国です。

currentaccount2.png

縦軸は経常赤字額、横軸はGDPです。どちらも2017年、単位は10億ドルです。

これを見ると、経済規模(GDP)に対して経常赤字額が大きいのは、トルコ、アルゼンチン、インドですね。

アルゼンチンが通貨防衛のため利上げを行っているのは、トルコの通貨安の影響を緩和したいという思惑でしょう。アルゼンチンは連想売りのターゲットになりやすいと思います。

また、メキシコ、インドネシアも警戒的に見ていた方がいかもしれません。

なお、点が固まっていたのでグラフに名前を載せなかった国があるのですが、それは、パキスタン、コロンビア、エジプト、南アフリカです。


リスクオンからリスクオフへ?


アベノミクスの初期、2013年頃からはリスクオンの局面でした。

ただ、ここ1、2年はリスクを積み増す人がいる一方で、リスクを落とす人もいて、トータルでは拮抗かちょっとオンが強い感じかなとみています。

さて、この先。

米国は利上げ局面で、貿易戦争の激化は懸念材料です。米国や日本で経営が苦しくなってきた企業が出ているようですし、新興国の脆弱性も意識され始めています。

トランプ大統領とエルドアン大統領の口論が、世界経済を台無しにすると考えるのは行きすぎかもしれません。ただ、リスクオフのきっかけになるかもしれないですね。

報復関税とか、製品のボイコットとか。

この手の動きはちょっと気になります。

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スウェーデンでは、との論調に思うこと

日本の経済を語るとき、スウェーデン、ノルウェー、デンマーク、フィンランドなどの北欧諸国を引き合いに出すことがあります。

諸外国のいい点は学ぶべきだと思いますが、一方で単純に日本と比較できないなーと思うこともあります。

日本には日本の、外国は外国の事情があります。

今回は、北欧では・・・の論調に思うことです。


日本の凋落?


煽り気味のタイトル「日本が『極東の小国』に落ちぶれる現実度」という記事を読みました。[外部記事]

極東の小国に落ちぶれる・・・

現実度がどのくらい高いのかは、結局分かりませんでした。

元記事の趣旨はスウェーデンの国家運営(主に経済運営)を称賛するものです。具体的な6つの点を挙げていて、主に規制緩和や労働慣行の改革、変化への対応など、国や個人の取り組みに焦点を当てています。

スウェーデンの改革を成功例として、翻って、日本でも同じような規制緩和や労働慣行の改革、個人の意識改革が必要だと説きます。

いま取り組まないと、日本は極東の小国に落ちぶれるリスクがありますよ・・・ということのようです。

まあ分かるんですけどね。


スウェーデンの影


ところで、スウェーデンなどの北欧諸国って、別の面からみると興味深い傾向があります。

まず以下の図をご覧ください。

OECD.png

オレンジ色がスウェーデン、緑色はOECD諸国(≒先進国)の平均。一番右は日本です。

さて、これは何の数字と思いますか?

答えは、総労働者に占める公務員の比率です。2015年。[出典]

比率の高い順に、ノルウェー、デンマーク、スウェーデン、フィンランドと北欧諸国が占めます。次はエストニア、ハンガリーです。主要国の中でも公務員比率が高いと言われるフランスがその後に続きます。


日本は北欧に見習うべき?


先ほどの図はOECDのサイトから取りました。

日本は公務員比率が低いです。

労働慣行の改革一つにしても、公務員比率の高い北欧諸国と日本を単純に比較できないですね。改革を断行しても、スウェーデンと日本では浸透の度合いは違う気がします。

人口の規模も違いますし、政府部門と民間部門の労働力構成比も違いますし、その他にも違うことが多すぎる北欧と日本です。

日本が北欧から学べることはあるとは思いますが、日本が北欧のようになるのは難しい気がします。


思うこと


隣の芝生は青い。

諸外国と比べるときって、外国の芝生をより青く見ている気がします。

いいところは取り入れるとしても日本は日本、外国は外国でいい気がします。

日本がスウェーデンを真似てもスウェーデンのようにはなれないと思いますし、スウェーデンが日本を真似ようとしても、日本のようになれないでしょう。

人が他人の生き方を真似ようとしても、その人になれないのと同じようなものかな。

自然体で、そのままで十分にいいじゃない。

って思うんです。

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アルゼンチン金利40% 債務不履行なら4年ぶり3回目

アルゼンチンが5月4日に利上げしました。

6.75%引き上げ、年40%です。

年40%

10万円を投資して、複利で20年運用できたらどうなるんだろう。

計算結果は後ほど。今回は新興国のリスクについてです。


通貨防衛


アルゼンチンは通貨防衛のための利上げを余儀なくされています。[外部記事]

5月4日の利上げは、4月27日、5月3日に続いてのものです。3%、3%と利上げして今回は6.75%。

短期間で3回です。

アルゼンチンのような経済基盤の弱い新興国は、自国通貨(アルゼンチンペソ)では資金調達がしにくいため、一般的には米ドル建てで国債を発行します。

で、2017年7月に「100年債」を発行したのですが、これが投資家の人気を集めて債券バブルとささやかれていました。[参照外部記事]

去年の投資家は強気でした。

ちなみにアルゼンチンは1983年の民政以降、これまでに2001年と2014年に債務不履行があります。今年、債務不履行があれば4年ぶり3回目となります。


米国の利上げの副作用


米国が利上げすると基本的には「米ドル高・その他通貨安」になりやすいです。

日本でもこのところ若干円安気味ですね。

日本はいいのですが、経済基盤の弱い国の通貨ほど通貨安になりやすいです。アルゼンチンの通貨は米ドルに対して2割ほど下落しています。

で、新興国は基本的には米ドル建てで国債を発行します。

つまり借金は米ドル建てなんです。

米ドル建ての借金をして、米ドル高・自国通貨安になったら返済が重たくなります。場合によっては返済できなくて、返済停止や債務不履行もありうるかもしれません。

アルゼンチンの動向は気になります。


借金の問題


通貨の変動と金融危機については、過去にアジア通貨危機もありましたし、ロシア通貨危機もありました。

今回のアルゼンチンは大きな危機には至らないかもしれませんが、米国の利上げは要注意かなと思っています。

アルゼンチンの100年債が人気を集めましたし、日本ではスルガ銀行の乱脈融資もありました。米国では家計の債務比率が高まって信用力の低いローンの延滞率も上がっています。

これまでの安易な信用供与のツケを払う時期が来ているのかも。


ところで年40%


アルゼンチンの金利は年40%

1アルゼンチンペソ = 5円程度です。

10万円は2万ペソ。

年40%で複利で20年間運用できたら、2万ペソは1,670万ペソになります。

為替が変わらなければ8,000万円を超えます。

あ、あと

債務不履行や債務の減免などの措置がなければですけど。


思うこと


新興国の信用力の低い先への投資は、為替の減価リスクと信用リスクの複合ですし、この手のリスクが意識されると売却しにくいという流動性リスクも顕在化します。

信用リスクと流動性リスクが意識される状況になるか、そういう状況にはならないか。

この先どうなるか気になってます。

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108円台への円高 日銀はまもなく利上げ?

ダボス会議での黒田日銀総裁の発言をきっかけに、為替が108円台の円高になりました。

黒田総裁は「日銀の物価目標の2%に、ようやく近づいている」と発言しました。インフレ率を高めるために、これまでジャブジャブの金融緩和をしているわけで、インフレ率が目標に近づいているなら・・・

ジャブジャブの金融緩和も少し変わってくるかな。緩和の度合いを弱めるかも。

そうすると円高。

といったところでしょう。


為替を巡る発言


黒田発言の数日前に、米国のムニューシン財務長官が「貿易の観点から言えば、弱いドルがアメリカにとってよいことは明らかだ」と述べました。

その後にトランプ大統領が軌道修正の発言をしたり、欧州中央銀行のドラギ総裁がムニューシン財務長官の発言を批判したりと、いろいろあります。麻生財務大臣の発言もありました。

ここ数日の為替はドル安・円高気味ですね。

米国の為替政策はさておき、日本側の要因はちょっと気になります。


黒田発言の裏読み


黒田日銀総裁は、4月に任期満了を迎えます。

日本銀行法によると、総裁の任期は1期5年で再任が可能です。新聞報道を読むと再任説が高いようですね。

ところが、日銀のサイトを見ると、だいたいは5年で交代しています。[参照]

21代総裁、宇佐美洵氏 (1964年12月から1969年12月、在5年)
22代総裁、佐々木直氏 (1969年12月から1974年12月、在5年)
23代総裁、森永貞一郎氏 (1974年12月から1979年12月、在5年)


と、5年ごとに交代しています。

例外的なのは、
27代総裁の松下康雄氏(1994年12月から1998年3月、在3年)です。在年が短いのは「大蔵省接待汚職事件」のスキャンダルで引責辞任したからです。

バブルの後始末の時期ですね。

その後、28代の速水優氏(1998年3月から2003年3月、在5年)から、先代である30代の白川方明氏(2008年4月から2013年3月、在5年)まで、5年での交代になっています。

黒田総裁は2013年から5年です。

慣例を破ることがあるのかな・・・


リバーサル・レート


黒田総裁は去年11月に「リバーサル・レート」に言及しています。

「リバーサル・レート」は、金利を下げ過ぎてマイナス金利になったことで、銀行の利ザヤが圧縮され、銀行が収益を得にくくなり、そうすると貸し出しのリスクも取りにくくなり、まわり回って、金利を緩和することの副作用が起きているという議論です。

金融緩和を強めれば強めるほど、逆効果。

逆効果ということで、リバーサルなわけです。

銀行の収益が圧迫されて銀行が苦しむんなら、それはそれでいいなじゃない。潰れる銀行は勝手に潰れればいいし。という考えもあるでしょうが、金融の仲介機能が蝕まれるという点で、日銀は無視できないはずです。

日銀総裁がリバーサル・レートに言及したのは、金融政策が変わる兆しかもしれません。

副作用が目立つようになったら、軌道修正を図らなきゃいけませんね。


日銀は利上げ?


今日読んだ記事で「日銀はまもなく利上げ、1万円札はなくなると予想する理由」というのがありました。[外部記事]

リバーサル・レートやマイナス金利の「やりすぎ感」について、分かりやすい記事です。

日銀の置かれている状況や最近の為替の動きについて、筆者である宿輪純一氏の見方に概ね同感です。

ただ、「日銀はまもなく利上げ」はちょっと違うかなーと思ってます。ジャブジャブにした緩和を抑えていくのに時間がかかります。国債やETFの購入額を減らしていくのが先で、それでショックがあまりなければ利上げに進めるという順番。

いきなり利上げしたらビックリします。

それに、利上げよりも、イールドカーブのスティープ化(=長短金利差の拡大)が先決かなと思います。政策金利(短期金利)は低いままに維持し、中長期の金利がいい具合に上がってくれるのが望ましいのでは。


日銀のスタンスに注目


日銀は金融政策の方向性を少しずつ軌道修正するかもしれません。

総裁の交代は分かりやすいきっかけになりますし、仮に黒田総裁が再任されたとしても、1期目のようにデフレファイターの色合いは薄まっていくと思います。

いずれにしても、黒田バズーカは封印かなと。

そうすると、欧米の金融政策との関係もありますが、他に何か別の材料がないとすると、円高のリスクを気にしておいた方がいいかもしれませんね。

中央銀行や財務省など、金融当局の政策に要注意。

まずは黒田総裁の再任、後任がどうなるか気になります。

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内部留保の溜め込み 何が問題か

企業が保有する「内部留保」に課税する。

希望の党が打ち出した目玉政策です。これによって内部留保に注目が集まりましたが、結局は「課税にはこだわらない」として軌道修正を図りました。

それはそれとして、実際のところ内部留保ってなに?

ということで、今回は、内部留保について

課税の問題ではなく、投資家の立場で内部留保の問題点を考えました。


内部留保とは


内部留保とは、過去から累積した利益のことです。内部留保を溜め込んでいると表現されますが、実際に溜め込んでいるのは現金ではなく、会計上の利益です。

具体的には、貸借対照表の「利益剰余金」です。

法人企業統計を見てみましょう。金融保険を除く全産業、企業規模は中小から大企業まですべてです。網羅性の高いデータの取り方をしました。1955年からです。

internal_reserves_01.png

オレンジが四半期毎の利益剰余金、いわゆる内部留保です。
青は企業が四半期末に保有している現預金の額です。

現預金も増えていますが、その伸びは内部留保ほどではないです。

一部に現金と内部留保を混同している議論も見かけますが、企業が現金を溜め込んでいるのではないことが分かりますね。内部留保は会計上の利益、現預金はキャッシュなので別物です。


内部留保と借入金


内部留保が増えることは企業の資本が厚くなり、他の要素を一定とすれば自己資本比率が高まることで経営の安定性が増します。借入金を返済すればさらに自己資本比率は高まります。

企業の借入額(短期借入金、長期借入金、社債の合計額)と資本(資本金、資本剰余金、利益剰余金)の傾向を見てみましょう。

internal_reserves_02.png

資本は増える一方で、1995年以降は借入金は圧縮されていますね。

で、その結果どういう事が起きているかというと・・・

internal_reserves_02.png

D/Eの関係がこうなってます。


DとEの関係


先ほどの図は、Debt(借入金)とEquity(資本)の比率を見たものです。

レバレッジ効果を見るものです。

高ければ財務レバレッジが高く、低ければレバレッジが低いことを意味します。1995年以降どんどんと下がっていますね。つまり、企業はレバレッジを低くして財務の安定性を高めているということです。

自己資本比率が高まるのは財務レバレッジの低下と同義です。

で、これが投資家の立場からは何を意味するか。


内部留保の問題点


企業が資本を厚くして(=レバレッジを低くして)財務の安定性を高めているのは、一見するといいことです。

ただ・・・

必要以上に大きな資本は、資本に対するリターン(ROE)を低めてしまう恐れがあります。

企業経営者としては経営破綻を恐れてできるだけ内部留保を厚くしたいと思うでしょう。一般論ですが、自己資本が厚ければ厚いほど、借金は少なければ少ないほど経営の安定性は高まります。

とはいえ、株式投資家としては、資本の効率的な活用が気になります。

内部留保の何が問題か。

資本に対するリターンが薄まってしまう恐れですね。株式投資家の立場からはそう思います。

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