人々は中絶を禁止した州から逃げているのか?

というNBER論文が上がっている。原題は「Are People Fleeing States with Abortion Bans?」で、著者はDaniel L. Dench(ジョージア工科大)、Kelly Lifchez(同)、Jason M. Lindo(同)、Jancy Ling Liu(ウースター大)。
以下はその要旨。

In this study, we investigate whether reproductive rights affect migration. We do so using a synthetic difference-in-differences design that leverages variation from the 2022 Dobbs decision, which allowed states to ban abortion, and population flows based on change-of-address data from the United States Postal Service. The results indicate that abortion bans cause significant increases in net migration outflows, with effect sizes growing throughout the year after the decision. The most recent data point indicates that total abortion bans come at the cost of more than 36,000 residents per quarter. The effects are more prominent for single-person households than for family households, which may reflect larger effects on younger adults. We also find suggestive evidence of impacts for states that were hostile towards abortion in ways other than having total bans.
(拙訳)
本研究で我々は、性と生殖に関する権利が移住に影響しているかを調べた。我々は、州が中絶を禁止することを可能にした2022年のドブス判決による変化と、アメリカ合衆国郵便公社の住所変更データに基づく人口フローを利用し、合成差の差分析の枠組みを用いて調査を実施した。その結果、中絶禁止が移住による純流出の有意な増加を引き起こし、効果量が判決後の期間を通じて大きくなっていったことが示された。直近のデータポイントは、完全な中絶禁止は四半期当たり3万6千人以上の居住者の減少をもたらすことを示している。効果は家族世帯よりも一人世帯においてより顕著で、これはより若い成人において効果が大きいことを反映しているとみられる。我々はまた、完全な禁止以外の方法において中絶に敵対的な州での影響についての示唆的な証拠も見い出した。

この研究結果を報じたAbortion bans linked to people moving out of state, study says - CBS Newsã‚„New data suggests more people are leaving states with abortion bans • Michigan Advanceによると、3万6千人というのはアラバマやウエストバージニアなどの13州の純流出の合計とのことである。また後者の記事では、「完全な禁止以外の方法において中絶に敵対的な州」として、中絶禁止法を制定したが裁判所によって差し止められたオハイオやユタ、妊娠初期以降の中絶を禁止したフロリダやジョージア、センターフォーリプロダクティブライツ(Center for Reproductive Rights - Wikipedia)によって敵対的とされたペンシルベニアが挙げられている。

以下は著者の一人がツイッターに上げた図。


ドブス判決後に上げた中絶制限法がコーホートの死亡率に与える影響:19世紀の法のバラつきからの実証結果 - himaginary’s diaryというエントリで「今回の米最高裁の判断で、皮肉にもまたこうしたコーホート分析が何十年か後に可能になるのかもしれない」と書いたが、コーホート分析を待たずして取りあえず人口移動へのその影響を明らかにした分析が早くも出た格好である。