コント:ポール君とグレッグ君(2016年第3弾)

マンキューのNYT論説に、「Is Our Economists Learning?(我が経済学者たちは学習しているのか?)」と題したブログエントリでクルーグマンが噛みついた。

ポール君
グレッグ君がアレシナ=アルダグナの拡張的緊縮策を取り上げた記事を書いているが、彼らの結果を否定した複数の研究に言及してない。しかもそれだけではない。@obsoletedogma(マット・オブライエン(Matt O’Brien))が述べているように、彼は、財政刺激策に懐疑的な2002年のブランシャールの論文を引用しているが、乗数がIMFが考えていたよりもかなり大きいことを示した有名なブランシャール=リー論文になぜか言及していない。


ちなみにクルーグマンがこのエントリで槍玉に挙げたのはマンキューだけではなく、ドイツ銀行のDavid Folkerts-Landauも併せて批判している。具体的には、ECBの金融緩和策のせいで政治家が経済成長のための改革や財政再建を実行するのをさぼっており、結果、短期的な安定を求めるECBの施策によって必要なカタルシスが得られず、ポピュリストや過激派の台頭の可能性が高まっている、とFolkerts-Landauが論じたのに対し、ブリューニング首相の下でのカタルシスは実にうまく機能したんだね、と皮肉っている。


なお、マンキューの論説記事は「One Economic Sickness, Five Diagnoses(1つの経済的病状、5つの診断)」と題されており、大不況以降のGDPの回復の弱さという症状について以下の5つの診断を取り上げている。

  1. 統計的な幻影
    • 現行の統計は質の改善を十分に捉えきれておらず、経済は実は問題ない、と主張するシリコンバレーのエコノミストもいる。
    • しかし多くの米国民は、統計ではなく実感として経済が期待を下回っていることを感じている。
  2. 危機のハングオーバー
    • 深刻な金融危機からの回復は時間が掛かるもの。
  3. 長期停滞
    • サマーズの説。彼が提唱する解決策はインフラへの政府支出。
  4. 技術革新の鈍化
    • ロバート・ゴードンの説。この説が最も悲観的で、もしこれが正しければ、低い成長率に慣れる以外の選択の余地はあまり無い。
  5. 政策の誤り
    • 大不況対策としての政府支出の増加と、その後の増税による財政赤字削減というオバマ政権の政策は誤っていたのではないか。
    • この項でマンキューは、ケインズ理論に反して増税と政府支出増加は共に民間投資に強くマイナスに働く、と記した2002年のOlivier BlanchardとRoberto Perottiの研究や、減税による財政刺激策のほうが支出増加による財政刺激策よりも成長を高める、と述べたAlberto AlesinaとSilvia Ardagnaの研究を引き、クルーグマンの批判を招いた。

以上の5つの診断についてどれが正しいかは分からない、それぞれが少しずつ正しいのではないか、とマンキューは述べて論説を結んでいる。