お好み焼きの話でもしようか


 おれはプチ・ブルの育ちであって、人は食わねば死ぬし、食うには金がいると、はっきりと自覚させられたのは、一家離散ののちに独り暮らしを始めたときだった。
 自炊をしなくてはならない。米を炊くべきか? しかし、炊飯器がない。炊飯器なしに米を炊く技術はない。ならば出来合いのものを買って食うか? 外食か? それもなにか怖ろしいことのように思えた。どんぶり勘定で金の減りが早いように思えたからだ。
 そこで、最初にはじめたのはパスタを食うことだった。100円ショップで麺を買い、100円ショップでソースを買う。悪くない。そのころは自宅にインターネットもなかったが(自宅にパソコンを買ったのは2010年のことである)、安い自炊といえばパスタだと2chで読んだりもしていた。
 誤算があった。それをはじめたころは冬であり、おれの住み始めたアパートはプロパンガスだった。おれは都市ガスとプロパンガスの違いもよくわかっていなかったし、ガス代というものの相場を知らなかった。請求を見て血の気が引いた。いちいちお湯を沸かすわけにはいかない、と思った。……まあ、結局シャワーなど浴びているのが悪く、どこまで冬パスタが高く付いたかはよくわからないが。
 そして行き着いたのがお好み焼きだった。爾来、おれはお好み焼きばかり食べて生きてきた。2005年には炊飯器を買ったりもしたが(名称から察するには馬券を当てたのだろう)、基本的にお好み焼きを焼いてきた。
 おれがお好み焼きを長い期間食わなくなったのは、去年の3.11以降に福島の米を食い過ぎ、太りすぎた感があってダイエットに入った間だろう。ダイエットは成功し、おれは強迫性障害、摂食障害と診断された。おれはふたたびお好み焼きを食っている。
 主材料は小麦粉、薄力粉でいい。コーンスターチや片栗粉、米粉などを混ぜてみてもいいだろう。合わせて100g。安い顆粒出汁を混ぜてもいいし、塩や砂糖を入れるのもいい。水の代わりに牛乳という話もあるが、スキムミルクという手もある。ここに少しずつ水を入れる。ちょっと入れてはかき混ぜ、ダマになったらまた加える。少し水っぽいくらいでいいだろう。水の量はだいたい1カップか。ここで卵を一つ割り入れてかき混ぜる。ここまでくればもう生地に失敗はない。
 野菜は基本的にキャベツになる。ただし、葉物野菜は価格が天候に左右されやすい。その場合は玉ねぎなりニラなりなんなり、その時々にスーパーで安く売られている野菜でいい。たいていの野菜ならどうにでもなる。じゃがいもや人参でも電子レンジを使うなり、細かく刻むなりすればどうにでもなる。生姜やニンニクなんかでもいいだろう。コシアブラの若芽だっていい。ともかく、刻んで生地に入れてかき混ぜる。ただ、アボカドなどうまく成形しない場合もある。
 その次に、つなぎとでもいうのか、長芋なり大和芋なりをすりおろす。野菜が先か、芋が先か。大和芋の場合は粘りが強すぎるので、後のほうがいいように思える。
 オプション的なものを入れたければ入れればいい。桜えびなりイカなり、天カスなり、コーンなり。納豆というのもある。肉を使わない場合、ここで魚介類など入れてしまってもいいだろうが、牡蠣などは火の通りが弱いとひどいことになりかねないので、注意したほうがいい。
 油をひく。油もなんでもいいが、ただのサラダ油ではつまらない感じもするので、オリーブオイルだとか、グレープシードオイルとかでもいいだろう。あるいは、バラ肉など油の出るものであれば、先にそれを熱して油がわりにしてもいいだろう。
 フライパンが十分熱せられたら生地を流しこむ。少し混ぜながらでいい。場合によってはここでピザ用のチーズをパラパラとやってもいいだろう。シソの葉などを引いてもいい。その上に載せるのが肉で、これもその時々に安い肉でいい。バラ肉が基本なのだろうが、油が出すぎる感じもするし、野菜炒め用の細切れ肉で十分だ。しゃぶしゃぶ用の豚肉などもいいが、自分の行くスーパーではパックが大きく余してしまう可能性もある。いずれにせよ、100gあたり100円以上する肉はまず買わない。まあともかく、肉を並べる。ここで蓋をしてもいいし、しなくてもいい。火は強めでいい。
 火をつけたまま、先ほどまで生地を入れていたボウルやら庖丁やらまな板やら菜箸などを洗ってしまう。もう調理器具はいらない。
 洗い終わったころ、生地をひっくり返す。ひっくり返すと、フライパンの縁に油がついているだろう。肉の表面も油が出ているかもしれない。これらをキッチンペーパーで拭き取る。菜箸を使ってもいいだろうが、手でやってしまってもいい。お好み焼きと呼べるようになった物体を少しずらしながら、油を拭き取る。そしてまたひっくり返し、肉をできるだけカリッとさせようと、生地をパリッとさせようとする。火は強めでいい。
 またひっくり返して弱火にする。その間にお好みソースとマヨネーズを用意する。お好みソースはブルドックのものでなくてはならないし、マヨネーズは味の素のピュアセレクトマヨネーズでなくてはならない。ここだけはお好みであってはならない。が、しかし、具材が玉ねぎとじゃがいも、ハムなどという場合はケチャップとタバスコなどにしてしまってもいいだろう。醤油やポン酢でもいいかというと、あまり合わないという印象があるが、好きにすればいい。
 まあ、とりあえずはソースとマヨネーズということにして、まんべんなくかける。塗ったりはしないでいいだろう。順番はどちらでもいいが、青のり(アオサ)、鰹節をふりかける。いずれにせよ、フライパンで火にかけている間にソースとマヨネーズはかけておきたい。少しフライパンを揺すってソースを焦がしてもいいだろうが、べつにたいした意味があるわけでもない。
 もういい加減ガス代が気になりだしたら、皿に移す。フライパンから滑らすようにすればいいだろう。添え物といえば紅しょうがということになるだろうが、ソースとマヨネーズの甘ったるさをどうにかするのであれば、どんな漬物でもいいだろう。新しょうがはもちろん、梅干しなどもいい。もろみだっていい。ただ、どういうわけかキムチは合わないように思える。生地の方に混ぜてみてもよさそうだが、どうも相性がよくない。ほかにインスタント味噌汁だの、切ったトマトなどサラダとして一緒に食べてもいいだろう。ビールやビール的なものは当然合うだろう。

 ……以上が、おれの家庭用お好み焼きのレシピ的なものだが、書かれている具材を常にフルで使っているわけではない。基本的に、小麦粉、卵、野菜、ソース、マヨネーズを切らさなければいい。これだけでおれの中ではお好み焼きと呼べるものになる。どんぶり勘定だが、たいして金はかかってないはずだ。
 とはいえ、100円ローソンで売られている320円弁当に100円引きシールが貼ってあるものと比べてどうか? あるいは、一杯250円のときの牛丼(並)、そして、寿町住民と中華街系住民(いつも大量にぶっこんでいくババアがいるが、大家族なのか、まかない用なのか?)とベン・トーを繰り広げるスーパーの惣菜、弁当。それらとのコストパフォーマンス、費用対効果となると、あやしいものがある。たとえば、4個で198円のコロッケに半額シールとなると、それを主食としてキャベツの千切りなどしてしまえば……などと考えてしまう。
 が、考えるというのはわりと危ういところがある。空腹時や疲労時には判断が狂い、自炊の労を省こうとするつもりが、なにか面倒なことになったり、必要以上に高くついたりしかねない。自分の中でかなり律する部分を強く持つことが肝要になる。いずれにせよ、基準を持つこと。太りたくない、などという要素を考えると、惣菜パンなどは大敵であるが、安価に高カロリーをと考えると仲良くしたい存在といえる。
 まあいい、できるだけオートマチックにやる。それが道を踏み外さない方法だろう。その点で、貧乏人にとって米を主食として、おかずを用意するというのは危ないことのように思える。「今晩のおかずはなににしようかしら」と思った時点でかなり危険だ。一人暮らしの一人惣菜。米にしろ、おかずにしろ、多めに作って保存? 空腹の欲もあれば、おかわりの欲もある。炊きたての御飯にあつあつのおかず、せっかつ手間隙かけて作ったもの、もう一杯、となりかねない。これを自制するのはむつかしい。スーパーの段階、買い物の段階で制する方が楽に違いない。ダイエットについて言えば、目の前の菓子を我慢するのはむつかしいが、スーパーやコンビニでカゴに放り込むのを我慢するのは楽じゃないのか? ということだ。一人暮らしの身であれば、自分が買わなければ、よけいなカロリーは部屋の中に存在しえない。無から有は生じない。腹が減ったら水を飲むか薬を飲んで寝てしまえ。違うか? それじゃあ。

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……しかし、「自炊」などという言葉も米文化的であって反米主義者としては使いたくないような気がしないでもない。

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