大学院はてな :: 派遣契約の打ち切りと雇用契約の自動終了

 研究会で,弁護士さんから興味深い裁判例(仙台地裁判決平成19年8月23日判例集未登載)を紹介してもらいました。
 原告Xは,人材派遣会社Yに登録型派遣の登録をしていた。Y社と訴外A社との間で期間を「平成13年9月3日〜平成14年3月15日」とする派遣契約(契約α)が締結されたことから,Y社はXとの間で派遣先をA社とする雇用契約(契約β)を締結した。平成13年11月28日,A社からY社に対して派遣契約(契約α)を12月28日限りで解除したい旨の申し入れがあり,Y社はこの申し入れに応じた。
 Y社の就業規則には「被告会社Yと派遣先A間の派遣契約(α)が解除になると,原告Xと被告会社Yの雇用契約(β)も終了する」旨の記載があった。これにつき裁判所は,以下のように判示しました。

 「そうすると,本件派遣契約が解除された場合には,本件雇用契約もこれによって終了すると解されるのであって,これを理由とする解雇はやむを得ない事由に該当するというべきである。」

さらっと書かれていますが,これは異論の余地が多分にあるところです。本件では派遣契約(α)が期間中途で打ち切られていますが,このような場合,雇用契約(β)も連動して終了するのか――そして,そのための根拠として使用者Yが一方的に作成する就業規則の規定を持ち出すことができるのか,という論点があります。裁判所はαとβの連動を認めてしまっているのですが,私は否定的に解しているので……
 これにつき,派遣先が講ずべき措置に関する指針(平成11年11月17日労働省告示第138号)の中で

6 派遣労働者の雇用の安定を図るために必要な措置
 (3) 派遣先における就業機会の確保
  「派遣先は、労働者派遣契約の契約期間が満了する前に派遣労働者の責に帰すべき事由以外の事由によって労働者派遣契約の解除が行われた場合には、当該派遣先の関連会社での就業をあっせんする等により、当該労働者派遣契約に係る派遣労働者の新たな就業機会の確保を図ること。」

という要請が行われています。本件では就労先確保の取り組みがまったく行われていません。Yの反論するところによれば「他の派遣先を探さなかったのは,Xを登録社員として登録した当初にその派遣先を10社以上照会したものの,受け入れ先がA社しかなく,その後3か月経過したばかりであったため」ということであり,裁判所も「これらの点はやや労働者への配慮に不十分なきらいはあるものの,なお,やむを得ない事由による派遣契約の解除の範囲にあると解するのが相当である。」としています。しかし,雇用確保に向けて何ら努力しなかった(他の就労先を探さなかった)ことは使用者に帰責すべき事情でありまして,ここから労働者側に有利な判断を引き出せるのではないかと思われるところです。
 実は本件の場合,他の論点が目立つために,派遣契約(α)と雇用契約(β)の関連については訴訟段階で取り上げられなかったのではないかと思われる節があります。
 原告Xは外国籍でして,平成13年10月26日,外国人差別反対を記載したウチワを持って仙台駅の新幹線ホームで待っていたところ,たまたまその時間帯に「全国障害者スポーツ大会」に臨席するため皇族が列車で到着することになっており,警察官に職務質問を受けたというのです。その後,宮城県警の警察官がA社に対してXについての電話照会を2度に渡って行いました。本件では,派遣契約が解除されたのは警察による電話照会のせいだとして国家賠償請求も行われています(請求は棄却)。