世の中は様々なプロジェクトで溢れています。スポーツの大会で優勝を目指すのもプロジェクトだし、学園祭で素晴らしい発表をするのも、新しいビジネスを立ち上げるのもプロジェクトといえるでしょう。

何らかの達成すべきゴールがあり、ゴールを達成するための計画があり、計画を実現するための組織がある活動は全てプロジェクトと定義できるのではないでしょうか。

来年は、それら世にあふれる「プロジェクト」を効果的に進め、成功に導く技術(=プロジェクトデザイン)に関して自分なりの考えをまとめ、形にする年にしたいと思っています。

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多くの人がそうであるように、僕もいままで大小様々なプロジェクトを手がけてきました。思っていた通りの(あるいはそれ以上の)成功をおさめたプロジェクトもあれば、自分にとっても、参加してくれたメンバーにとっても苦い思い出となったプロジェクトもあります。

僕自身が手がけ、上手く行ったプロジェクトを振り返ってみると、全てに共通していることは、

1)プロジェクトを成功させるために必要なメンバーを揃えた。

ことだと思っています。プロジェクトの成功に必要な機能を洗い出し、その機能を満たす信頼に足るメンバーを集めた。僕の場合は、これがプロジェクト成功に必要な最低限の条件でした。

機能には、わかりやすい機能もあれば、そうでない機能もあります。わかりやすい機能としては、例えば特殊なスキルが挙げられます。デザインに秀でているとか、営業が得意、とか‥。わかりにくい機能としては、皆を盛り上げる。とか、皆のコミュニケーションを円滑にする。とか、立場の異なる人や顧客の意見を吸い上げることが出来る人。というのがいます。

いずれにしても、必要な機能を洗い出し、そういう能力・資質を持った人を集めること。
僕の場合はこれがプロジェクトの成功に一番必要なことでした。

しかし、人を集めるには情熱と技術が必要になります。

2)メンバーが求めるものを知り、口説く

プロジェクトに参加してもらうためには、メンバー(候補)の心を動かさねばなりません。メンバーの心を動かすには、メンバーが求めているものを深く理解する必要があります。メンバーがプロジェクトに求めるものは大別すると以下の4つに分けられるのではないでしょうか。

a)社会的価値があるかどうか
b)経済的なメリットが得られるかどうか
c)(プロジェクトに参加すること自体)面白そうかどうか
d)自分自身の成長につながるかどうか

多くの場合、上記に挙げた4つの理由のいずれか(あるいは全て)に惹かれて人はプロジェクトに参加します。プロジェクトをデザインする側は、参加して欲しいメンバーの欲求を見極め、全力で口説くわけです。本気で口説く必要があります。なぜなら、彼(彼女)が参加してくれなければ、プロジェクトは成功しないのだから。

能力のある人ほど、忙しいです。上記a~dの理由のひとつを満たすだけでは参加してくれないこともあると思います。可能であれば、4つ全ての理由を参加者が満たせるようにプロジェクトそのものを設計しておくべきと思います。

もう一つ、現在優れているメンバーばかりでなく、潜在的に優れているメンバー(つまり今はまだ未熟なメンバー)をあえてプロジェクトに誘うことも重要です。

これは内田樹氏いうところの、7人の侍における勝四郎の役割。組織の未来を約束し、組織を強固にする存在です。
彼は「残る六人全員によって教育されるもの」という受け身のポジションに位置づけられることで、この集団のpoint de capiton (クッションの結び目)となっている。
どんなことがあっても勝四郎を死なせてはならない。
これがこの集団が「農民を野伏せりから救う」というミッション以上に重きを置いている「隠されたミッション」である。
なぜなら、勝四郎にはこの集団の未来が託されているからである。
彼を一人前の侍に成長させること。そのことの重要性については、この六人が(他の点ではいろいろ意見が食い違うにもかかわらず)唯一合意している。
それは自分のスキルや知識を彼のうちに「遺贈」することによって、おのれのエクスペンダブルな人生の意味が語り継がれることを彼らが夢見ているからである。

これ以外に、プロジェクトの主催者やメンバーに恩がある、貸し借りがある。という理由で参加するメンバーもいるかもしれませんが、大体の場合、理由がそれだけであれば、プロジェクトに対して余りよいアウトプットを生み出しません。主要なメンバーというよりも、外部スタッフ程度にとどめておくのがいいのではないかと思います。

メンバーが求めるものを知り、それを満たすことを第一に考え、それを満たすようにプロジェクトそのものを設計する。これがプロジェクトにメンバーを引き込むための技術です。

技術以外に情熱が必要なことは言うまでもありません。
しかし往々にして、情熱的なリーダーを見ていると、ひとりよがりな自分の欲求を満たすために、メンバーに負担を強いるケースが多いのも事実です。

こういうプロジェクトはうまく行きません。
プロジェクトの設計段階から間違っているのです。


3)メンバーが集まったあと、プロジェクトデザイナーが行う三つの仕事

最高のメンバーがプロジェクトに集った。
その後、プロジェクトデザイナーが行う仕事は3つあるのではないかと思います。

1.メンバーが仕事に集中できるよう「雑用」をする。
2.メンバーを育て、導く。
3.組織が厳しい現実に直面したとき、率先して動いて事態を打開する。


メンバーが仕事に集中できるよう、メンバーの専門分野以外の雑多な仕事をひろい、解決していくというのは非常に大切な仕事です。自分が動くことで解決できる雑用を率先してこなし、メンバーが専門分野の仕事に集中できるよう環境を整える。それがプロジェクトデザイナーの第一の仕事です。業績を伸ばしているベンチャー企業では、社長がこの役割を率先して担っているケースは非常に多いと思います。

メンバーを育て導く。これも重要な仕事です。自分に出来て、メンバーに出来ないことというのは必ず存在します。自分が出来ること、伝えれることを積極的に開示し、プロジェクトを通じメンバー全員が成長するようにプロジェクトを動かす。これも大切なことだと思います。

率先して動いて事態を打開する。プロジェクトを動かしていると、1,2度は必ずどうしようもないような困難にぶつかります。自分が率先して問題解決に当たる必要があるでしょう。皆のモチベーションが下がるタイミングであるからこそ、プロジェクトを設計した自分自身が先頭にたち、問題を解決しなければならないと思います。

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余談ですが、「皿回し理論」というユニークな言葉で、上記の3つの役割を表現してくれた学生がいました。彼は、非常に成果を残している学生団体を創り上げた男なのですが、組織運営のコツを聞いたときに、組織運営は皿回しをするようにやる。と教えてくれました。

曰く、メンバーが未熟なときは自分が力を使って皿を回してやる。皿が勝手に回り始めたら、その回転を邪魔しないように余計な力や障害物を取り除く。回転が止まりそうなときは新たに力を加えてやる。だ、そうです。

まさにプロジェクトのリーダーの役割を端的に表した素晴らしい言葉だと思います。



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