高速増殖炉もんじゅの14年ぶりの稼働が現実味を帯びてきた。全然規模感は違うんだけど、核分裂だの核融合だのといった話を聞くと、ビッグバンのことを思い出さずにはいられない。

無の世界に突如ビッグバンがおき、我々が住む宇宙に必要な物質が生成されたという。その「無」の世界というのも、我々の認識における「無」であって実際には異なる次元から、こちらの次元に何か流れ込んで来ただけかもしれないが、いずれにせよ、現代の科学、現代の人知の及ばぬ世界の話だ。SFやある種の宗教の中には鋭い洞察とこの上ない幸運を持って、ビッグバン以前の世界を表している比較的的確に表しているものがあるかもしれないが。

この宇宙に存在する全ての元素の存在比は右図のようになるという。
space
宇宙にある全ての元素の9割以上が水素で、1割弱がヘリウム。
この二つの元素で全宇宙に存在する元素の99.9%を占める。

地球やその他惑星の大地、生き物の体を構成する炭素はその2大元素に比べると存在比率は0.00009%。本当にチリのような存在だ。

さて、このような構成比率になるのには理由がある。

最初は宇宙にある全ての元素はビッグバンから1時間以内に全てが作られたと考えられていた。しかし
、その後の研究で、ビッグバンの直後の状態では軽い方から二つの元素である水素とヘリウム以外は合成されないことがわかった。

水素からヘリウムが生まれる過程はわかりやすい。太陽のような恒星が持つ高温環境下では、100の水素が核反応を起こすと10のヘリウムが生まれる。残りの90は星々を輝かせるエネルギーとなる。しかし、それ以上の重さの元素に関してはどのように生成されるかがわからない。

その後、アーサー・エディントンが星々がるつぼとなって更なる高温・高密の状況下で軽い元素から重い元素を合成しているのではないか。という仮説を打ち出した。

しかし、この仮説にはクリアしなければならない問題が二つあった。

  1. 星の温度は表面で数千度、中心部で数百万度と推定されており、重い元素を合成するには温度が圧倒的に足りないこと
  2. 元素によって、必要な温度が大きく異なり、宇宙は極端な環境を数多く揃えなければいけないこと

たとえばヘリウムを燃焼させてネオンをつくるには30億度、もっと重いケイ素をつくるには130億度が必要となる。そんな異なる環境を併せ持った星などどこにも見当たらなかった。

そんな中、この問題の解決に大きな貢献をしたのが、フレッド・ホイルだ。
フレッド・ホイルは、星がその一生を終える瞬間、膨張と収縮を繰り返し、様々な密度・温度の環境をつくることを解き明かした。星は生命のおわりにおいて、一時的ではあるにせよ、何十億、何百億という高温・高密度の時期を迎える。まさにこの瞬間、様々な重さの元素が一つの星の中で生成される。

ロマンチックなのは、この後だ。

以上のような事実から、我々の星、地球は(そして宇宙に広がる重い元素で出来た様々な星は)、何十億年という星の一生を終えたその残滓をもとにして作られた第二世代以降の星ということがわかる。(実際には、太陽と太陽系の惑星は元素の構成比から、第二世代の残滓から生まれた第三世代の星と言われている。)

まさに気の遠くなるような歴史と時間を経てこの大地に僕たちは立っている。


※まったくの余談ではあるけれど、宇宙がビッグバンによって作られるプロセスは、コンピューターでプログラミングが書かれ、電気信号によって無から有が生まれる感覚に似ていると思うのだが、どうだろう?


宇宙創成〈下〉 (新潮文庫)宇宙創成〈下〉 (新潮文庫)
著者:サイモン シン
販売元:新潮社
発売日:2009-01-28
おすすめ度:5.0
クチコミを見る

※本エントリのネタ元です。宇宙がいかにして生まれたのか。その研究の歴史をわかりやすく紹介する名著です。


百億の昼と千億の夜 (ハヤカワ文庫 JA (6))百億の昼と千億の夜 (ハヤカワ文庫 JA (6))
著者:光瀬 龍
販売元:早川書房
発売日:1973-04
おすすめ度:4.5
クチコミを見る




※計り知れない宇宙の広さ、人知の及ばぬ恐ろしさとそれに無謀とわかっていながら抗う人類の寂寥感を表した日本SFの金字塔です。


無限航路無限航路
販売元:セガ
発売日:2009-06-11
おすすめ度:3.5
クチコミを見る

※おそらく百億の昼と千億の夜に影響されていると思われる、DSのスペース・オペラ。なんとも印象的なエンディングです。