冒険小説とは、エンターテインメント小説のジャンルのひとつ。
冒険小説とは、宝探し、困難なミッションへの挑戦、危機からの脱出といった冒険的な要素を主眼とした小説のこと。誤解する人もいそうだが、RPG的な「冒険の旅」を描くファンタジーのことではない。ハードボイルドとは読者層がほとんど同じと言っていいほど重なるジャンルで、アクション小説、スパイ小説、国際謀略小説、犯罪小説、警察小説なども広義では冒険小説の範疇に入るものが多い。そのため日本ではミステリーのサブジャンルのひとつとして扱われることが多いが、謎解き要素が全くないことも珍しくない。
誤解を恐れずものすごく大雑把にいえば、小説で書いたアクション映画。明確な定義はないが、「主人公が何らかの危機や困難に挑むという要素が作品の中心にある、サスペンス要素の強い小説」ぐらいの意味としておくのが無難なところか。北上次郎『冒険小説論』では冒険小説を「ヒーロー小説」として定義しており、ヒーロー不在の謀略小説やスパイ小説は冒険小説とは別物としているが、どのあたりまでを冒険小説に含めるかは人によるだろう。
そのルーツを辿れば18世紀の『ロビンソン・クルーソー』や『ガリバー旅行記』に始まり、19世紀の『トム・ソーヤーの冒険』『宝島』『十五少年漂流記』といったところが挙げられるだろう。ミステリーの代名詞であるシャーロック・ホームズも、現代の目から見ると冒険小説の要素がけっこう強い。もっと遡れば、世界各地の神話に冒険物語の原型を見ることができるが、とりあえずそのへんの話は置いておく。
現代的な意味での(ヒーローによる活劇が中心の)「冒険小説」は、1953年からスタートしたイアン・フレミングによる《007》シリーズあたりから始まる。アリステア・マクリーン、デズモンド・バグリイ、ギャビン・ライアル、ジョン・ル・カレ、フレデリック・フォーサイス、ジャック・ヒギンズ、ディック・フランシスといった主にイギリスの作家たちによって発展していった。アメリカではロバート・ラドラム、クライブ・カッスラー、トム・クランシー、スティーヴン・ハンターなどが代表的な作家。
日本では1950年代末頃に大藪春彦、河野典生らが登場して国産ハードボイルド小説が確立。それとともに、1960年代から中薗英助『密書』(1961年)、結城昌治『ゴメスの名はゴメス』(1962年)、生島治郎『黄土の奔流』(1965年)、三好徹『風塵地帯』(1966年)といった本格的なスパイ小説・冒険小説が書かれ始めるが、「冒険小説」という言葉が一般的になったのは1970年代末ぐらいからである。
西村寿行が『化石の荒野』のあとがきで「冒険小説宣言」をしたのが1976年。続いてルシアン・ネイハム『シャドー81』の邦訳(1977年)とともに翻訳エンターテインメントブームが起こり、英米の冒険小説が続々と翻訳され、「冒険小説」というジャンルが活況を呈し始める。それを受けて1981年に冒険小説のファンクラブである日本冒険小説協会、次いで1983年に作家団体の日本冒険作家クラブが設立。70年代から80年代にかけて、森詠、船戸与一、志水辰夫、逢坂剛、佐々木譲といった作家が続々と登場、内藤陳や北上次郎といった影響力の強い評論家の後押しもあり、本格的な国産冒険小説ブームが巻き起こった。また商業的には大藪春彦や西村寿行のバイオレンス・アクション小説の人気がジャンルの地盤を支えていた面もあると思われる。
ちなみにミステリー界ではほぼ同時期に西村京太郎・内田康夫・山村美紗らによるトラベルミステリーブームが巻き起こっており、さらに赤川次郎の人気もあって、「ノベルズ戦争」と呼ばれたほどにノベルズ判(新書判)で大量のミステリーが刊行されていた。そんな中、当時のミステリー評論家たちは量産されるトラベルミステリーよりも読み応えのある冒険小説・ハードボイルドを好んで推した。初期の「このミステリーがすごい!」で冒険小説が非常に強いのはだいたいそのせいである。
しかし80年代末に冷戦構造が終結を迎えると冒険小説のブームも徐々に終息に向かい、90年代半ばぐらいでほぼブームは終焉を迎えた。その後も福井晴敏『亡国のイージス』『終戦のローレライ』など冒険小説は書かれ続けたものの、ジャンル全体には往年の勢いはなくなり、2010年には日本冒険作家クラブが解散、2012年には設立者の内藤陳の死去により日本冒険小説協会も解散した。
現在ではブームを牽引した作家たちも鬼籍に入ったり高齢になったりして、柳広司『ジョーカー・ゲーム』や高野和明『ジェノサイド』、月村了衛『機龍警察』シリーズ、逢坂冬馬『同志少女よ、敵を撃て』といったヒット作がときおり出るものの、ジャンルとしての活気には乏しい。月村了衛は冒険小説の衰退に危機感を覚え、冒険小説の復興を目指すと宣言している。
なお、平和な戦後日本を舞台にした冒険小説は非常に書きにくいため、国産冒険小説の多くは海外、もしくは過去の時代(主に戦前や戦時中)を舞台にしている。現代日本を舞台にしたものでは、危険な登山や山中でのサバイバルを描いた山岳冒険小説が多い(谷甲州、笹本稜平、大倉崇裕あたりが代表的な作家)。山に比べると数は少ないが、海を舞台にした海洋冒険小説もある。
また日本では「大衆小説」の誕生以来、ヒーローによる活劇小説というジャンルは主に時代小説(その中でも伝奇小説)が担っていた。そのため、中里介山・国枝史郎から柴田錬三郎・山田風太郎を経由して隆慶一郎に至るまでの時代伝奇小説の流れも冒険小説の歴史においては重要な位置を占める。
ちなみに「ヒーローによる活劇小説」という定義に従うならば、ライトノベルにおける勇者の冒険を描くRPGファンタジーや、異能バトルものなども「冒険小説」の範疇に入るはずだが、いわゆる「冒険小説」の読者はそっちには見向きもしていないので「冒険小説」として語られることはほぼ全くない。
「冒険小説の範疇に入る」と言われる程度の作品も含むが、定義がややこしくなるので狭義のライトノベルと異世界ファンタジーはとりあえず除外。
作品のメインが冒険小説ではない作家、冒険小説も書いたことがある程度の作家も含む。
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最終更新:2024/12/23(月) 10:00
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