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剛体化と柔体化 #2〜発勁と勁道のモデル

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前回エントリ「剛体化と柔体化 #1」から,かなり間が空いてしまいました。今回,ここでは,発勁と勁道についてのモデルを考えながら剛体化と柔体化の意味とその制御のタイミングについて考えてみましょう。
 あんまりイラストに自信がないので,これまた,あんまり自信のない樹脂粘土を使っての3Dモデル。え?人形(ひとがた)でなくて,猫じゃないかって? いえね,人形のものも作るの苦手なんで^^; もちろんうちの息子たちが作ったものではありません。彼らだったらもっといいものを作るでしょうが,好いおっさんが作ってこのレベルです。リアリティはありませんが,味だけはあるでしょう。ごめんなさいごめんなさい。
 双方,対峙するはニャン拳の使い手が二匹。太気拳のような這(はい)の構え。
 さて発勁ですが,確かに発勁で打たれると飛ばされます。最初にプロテクターなければ致命的な怪我を負うか,壊れますので,発勁はプロテクターなしで受けたことはありませんが,その後,自分の体が地面から引っこ抜かれるように吹っ飛んでいくエネルギーは,どんな突き技,蹴り技でも考えにくいタイプのものです。
 師が「ほい!」という掛け声のもとにあっさり打ち出した拳は,二重のプロテクターを貫き,その瞬間,飛ばされることを予想して,それが来たら蹴り技ででも反撃してやろうと思っていた私の躰を死に体に変えて床から引っこ抜きました。そして私の躰は,暴力的な飛ばされ方をした結果,数メートル後ろにおいてあったソファーの上に頭から落下しました。多分,師の拳はそれでも加減がなされていて,完全発勁ではなかったと感じました。発勁の場合は打たれたことがあるゆえに,もしも技を拝見できたら,残念ながらそれ違いますっていうのは分かる場合もあります。師の門派はここにはかけませんが,武技の個人的なお付き合いの中ではお話させていただいております。
 逆毛立つ衝撃を受けながら,接触時間がものすごく長い感じがしました。はっきり言って私が飛ばされるのに合わせて,師の体が高速で着いてくるみたいな感じ。



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ここで,人間の体を使って最大威力の加撃をどうやったら効率的に相手に加えられるかということを考えてみましょう。
 人間の肉体を武器に変え,それを相手にぶつける,そんなに難しいことではないような気がします。人の体重50〜60kgの体重と同じ重さのハンマーを振り上げ高速でぶち当てたらどうなるか。素材にもよるし,どのようにどれだけ加速するかという問題は小さくはないのですが,ともかくそう考えれば,ものすごい加撃をあたえるであろうとことは,なんとなく想像できます。で,問題は誰がどのようにこのハンマーを高速で振り回すかということです。振り回されるハンマーは,この思考実験では本人自身の躰ということになるので。 
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まあ,ハンマーの形はちょっと極端だとして,猫の形をした水袋みたいなものが高速で振り回されたとして,それでぶちのめされたらというようにちょっと修正してみましょう。これは効きそうです。これはフライングボディプレスみたいな重力で仕事させるとしたらものすごくジャンプして相当高いところから降ってこないとダメでしょうし,やはり相手の急所に点として攻撃しないとぶつかるまで急所全体を晒すみたいな技はありえないわけです。
 ちょっと話がそれますが,体当たりというのは,単純ですが,ものすごく威力を持った技です。相撲の立会いでの両者に掛かる衝撃が数百kg〜1tに達するというデータもあったかと思いますし,アメフトのショルダーアタックは,まともに喰らえばプロレスラーでも簡単に KOされるというのは,結構知られるところです。試割りで杉板をぶち割る方法で,一番簡単なのは,拳を鍛えておくのは前提として,腕を前に出して握りこぶしを握り,そのまま走って突進し,最高速度に達するぐらいで杉板に当てることです。要するにパンチの格好を固定したままの体当たり。
 問題は加速するために距離を取らねばならないし,加速に時間がかかるので,相手に近距離から瞬時にぶち当てることができないため,武術として機能させにくい。相撲の技術で達成されるような距離が限界で,それも相手に変わられたら(身を躱されたら)自爆技になりるか,連続攻撃ができないので,不発に終わります。で,もう少し近距離から瞬時に,高速ダッシュの最高速度と同じ運動量を持たせられるような技法が中国武術(特に八極拳系)や他の格闘技にも存在しますが,そういった靠撃は体当たり的に見えますが,そんな単純ではありません。加撃に使っているのが肩から背中であるというだけで,実は一般的な拳擊と理屈は同じです。「至近距離からの突進」みたいに書いているテキストは,八極拳の勁道や術理を理解していません。だったら,相手に躰くっつけたまま距離0で突進してみてください。ただのおしくらまんじゅう以上の威力は出ないはずです。それって寸勁が使える中国武術が本当はイメージできないからだろうってな話です。
 あ,ちょっと話がそれてしまいました。さて,瞬時に加速して高速で全体重をぶつけるみたいな技法は,ここまで述べてきたように大きな威力を生み出せる可能性があるのですが,加速分の距離をとって,ダッシュして体ごと体当たりというのは,一発でおしまいで,まあ,自爆技になりやすいので,武術としての要件を備えているかというと,かなり限定的です。誤解を恐れずにいうならば,必要な方法は,瞬時に,相手との距離がほとんどない状態でも,好きなタイミングで制限あるものの,連続的に,同じダッシュで最高速度に達するかそれ以上の速度での体当たりを達成する技法が勁道を使った打ち方,発勁ということになるでしょう。
 例えば,ドロップキックのような飛び蹴りしてもそこで踏み切る速度でしか躰をぶつけることができないので,実は非効率的です。基本的に踏切時の速さですが,ベースボールでもスライディングというのは加速ができない状態を作るので,速度的には踏み切った直後で頭打ちで,格闘技的な要素で守備を圧迫したりすり抜けてタッチする技を無視すれば,滑り込まず走り抜けろということになります。
 つまりしつこいようですが,武術的な距離では,スライディング,フライングボディアタック,ドロップキックという形の踏み切り型の「体当たり」というのは加速にしても力積にしても限界があって,また相手の急所に誘導ミサイルのように加撃できる突きや蹴りに比べると,自由度や加撃を外された後のリスクも背負ってしまう弱点を持っています。要するに連続攻撃はできない。また,胴回し蹴りのような高速で回転する空中回転浴びせ蹴りか踵蹴りで,加速空間を稼ぐみたいな方法も,倒れた相手に加撃できるルールだとやっぱり限界はありそうだし,そもそも人を何メートルも飛ばすほどのエネルギーを生み出すのは難しそうです。
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今回は,陳氏太極拳の勁道(発勁のための力の生み出し方をしたときの体内でそれを作り出す道筋,勁の流れ)とそれによる発勁を例にとってみたいと思います。八極拳のそれでも,類似の部分がないわけではありませんが,はっきり言えば勁道は違います。究極のヤラレ役経験は役には立ちます。
 で,次に考えてみたいモデルは,鞭モデルです。鞭自体はここで戦っているにゃん拳の使い手と同じ質量を持っています。鞭モデルでは,最初に躰全体と比べると遥かに質量の小さな部分を,それゆえに小さく高速で動かすことで連続的に力が伝達され,先端では超高速で相手に加撃を加えます。ただし,先端は音速を超えたり,痛かったり肉は裂けますが,相手を吹っ飛ばす程のエネルギーを持っていません。最終的な可動部分は軽いから。逆にそれ故に,その最初に稼動された部分の質量よりも遥かに小さな部分に力が伝達されて,高速で相手を襲うわけですね。
 ブルース・リーが中国武術の拳は「鞭」で空手は「鉄の棒」だといったセリフから誤解されていますが,これはそれぞれの武技の特性ではなく,そういう使い方として使われ得る場合もあると考えたほうが好いと思います。古式の空手の戦闘理論は,実際のところ中国武術でないと言えない部分はないと言えますし,棒の手みたいな使い方は別にあるにしても,基本は王道の拳
 そう,求められるべきモデルは体当たりなので,鞭の先端がぴしゃンと当たっておしまいということでは叶いません。痛いし,肉は裂けるかもしれませんが,相手が筋肉の鎧で固めていてそれを撃ちぬいたりということはちょっと難しいかもしれません。
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で,さらに進化させた鞭型水袋モデルというのを考えます。高速で複雑な動きをしながら相手に加撃を与えた鞭の先端は,相手の加撃点にそのまま固定されて,その後,鞭全体の質量が更にその過激点に向かってぶつかってくる,そんなイメージです。人間の体が水袋みたいなもので,剛体,柔体を変化させられるというところで,鞭の先端は相手にめり込みますが,これは鍛えられた拳だとすると,実際の鞭の先に固いものがくっついていると考えたほうがいいかもしれません。ただ,掌打などを考えるともっと複雑ですね。で,その後,高速でぶつけられる水袋のごとく本体の質量全体が襲ってくるみたいな状況。
 中国武術の打撃が,「まず殺し」その後圧倒的な運動量により「飛ばす」と言われるのは,実際に発勁で打たれると,ものすごく接触時間が長いのです。剛体化は,水袋的な鞭が一本の槍に変化する最後のタイミングなされるならば,絶妙のタイミングということになり得るかと思われます。
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で,目指すべくはこの鞭型モデルによる力の伝達と更に体重全体そのものを体の中に鞭を作るということです。
 太極拳系の套路ではある段階になるとブルブルと,あんた痛風か,それとも蟲でも湧いたんか?というようなくらい,拳の先端をものすごく複雑にプルプル震わせて拳を撃ち出す動作を行います。なんであんな動きをするのか,意味も機能もさっぱり分からんわけですね。普通の打突を想定していたら。あれは,勁道が出来上がったら必然なんですよ。
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勁道の開発とは,体の中の力の伝達経路をムダのない一つの鞭の動きとして作り替えていくということです。そして,その鞭の作り方,力の伝達増幅のための躰を連動させた結果の動き方自体は門派によって異なります。いわゆる勁道が違うというやつです。腕を,躰を鞭のように使うではなく文字通り鞭に体の中をうねらせるように使っていく,そしてそれが相手に接触した後は,拳足や肘や鞏はその先端部分の作用点でしか無いわけで,それだけは終わらない,高速で躰のモーメントがすべて相手に向かって投げ出され,という打撃を可能とするための動きが終局的には求められるものとなります。太極拳の場合は纏絲勁と言われるように体内に複雑な大蛇がうねるようなねじ巻き型の伝達経路を創り上げるわけですが,このねじ巻き型のうねりを練り上げていく過程においても,最初はゆっくりと大きくうねるようにムチを振り回すのを,高速でコンパクトに振り打つような段階的な勁道の使い方の変化も求められねばなりません。それは,少しでも短時間で小さなうねりで済むように勁道を徐々に変えながら,威力を上げていかなければ戦えないから。初心者には鞭をコンパクトに振るのは無理です。まず威力を出せるように一定のリズムで大きくゆっくり振る。おもいっきり大きくサンドバックを揺らせばいいわけではないので,大きく降っていた鞭が,やがて殆ど無駄な振幅をせずに一本の棒のように相手を襲っていくように作り替えていかねばなりません。
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最後に,自らの「全ての重さ」が武器になることの凄さは良いとして,この変幻自在の重心の移動変形を繰り返すムチを「振り回す者」はどこに存在するかということの謎がここまでのモデルでは残ります。これは,まずは足裏が発動の端緒になっていて,地球という質量が途方も無いものとの接地面を強化することで,まあ,地球にスライム型の鞭を振り回してもらう(ような動き)ということが回答になります。
 相手は自分に飛んで来る時は細く鋭く,そして接触した途端にスライムのように前質量がふくれあがって襲ってくる鞭を振るう地球の質量を持った巨人の攻撃を受けるわけです。当然強い踏み出し,強い震脚による地球との反発によりその投げ出し方は威力を増しますし,地球への固定,一体化も強くなり,威力も上がるということになります。あなたの体重が40kgだとして,固く鍛えた拳が先端についた重さ40kgの水袋がぶつけられることになるわけです。
 極論すると打突系の技は皆,体重が乗ってくる,すなわち腕だけが飛んで来るわけではなく,体重がそれに乗って威力をなすわけで,そのためのフットワークや体重移動が重要なのはボクシングだろうと空手だろうと同じことですし,体重が上がれば,パンチの威力が増すというのは,実際にそういう事で,腕の重さや筋肉量が増えることによるということではないわけです。それでも密着した状態で距離0の状態から打ち出せるのは,加撃ポイントから最も遠い打撃者の足裏から発動した力が,加速,威力を上げるべく勁道を通って相手に撃ち込まれる事によるわけで,運用としてはかなり極端です。ただ,そこまではいかないもののボクシングでもショートパンチは使われるし,実際にボクシングの勁道というものは人により微妙に違いながらも,やっぱり存在することは確かです。空手にいたっては,古式の戦闘理論を検証するほど,誤解を恐れずに言えば,中国武術そのものであることを再認識せざるをえないものであり,やはりそれに特有の勁道も寸勁も元々あるわけです。
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ちなみに纏絲勁についての参考資料としては「陳氏太極拳図説」が最古の資料となるわけですが,陳氏十六世陳鑫及び,その周辺のイラスト作成能力がもうちょっとあれば,といつもそれを眺めながら思うのですが,秘伝がそのまま開示されているわけではなく肝心の部分は隠されたりしているので,まあどちらでもいいことなのかもしれません。
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松田隆智原作・藤原芳秀作画「拳児」より。
 今回は一種の纏絲勁(陳氏のそれとはモデルで説明する以上,実際には同じ意味ではありません)で説明をしましたが,中国政府が軍事技術としての格闘技におけるコアテクノロジーとして,完全軍事機密として政府の管理下にあるとされる門派の中に,陳氏太極拳は入っていなかったと,そのリストを見た師がおっしゃっていました。そのことが何を意味するか,まあ,優れた武技は大陸にも色々あるということです。
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by complex_cat | 2011-08-02 22:02 | Cat Kick Dragon Fist | Trackback | Comments(0)

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