2025-09-09

日本脆弱性情報公開ガイドラインは「逆行」か

――責任ある開示の理念実態乖離

■ はじめに

サイバーセキュリティ歴史を振り返ると、かつては「脆弱性を隠すことで攻撃から守る」という考え方が主流だった。しかしこれは、ユーザーシステム管理者自己防衛する術を持たないという重大な欠点を抱えていた。その反省から現代セキュリティパラダイムは「責任ある開示(Responsible Disclosure/Coordinated Vulnerability Disclosure)」へと移行している。すなわち、脆弱性一時的に調整の下で管理されるが、最終的には公開され、社会全体の防御力を高めることが前提となる。

https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2509/09/news110.html

2025年9月経済産業省IPAが発表した声明は、一見するとこの流れに沿ったもののように見える。しかし、その実態検証すると「古いセキュリティ観」への逆行になりかねない危うさを孕んでいる。

■ 「公開前の適切な調整」という建前

今回の声明は「脆弱性情報は、修正検証完了するまで不特定多数への無秩序な公開を慎むべき」としている。これは表向きにはもっともらしい。攻撃者に悪用される前に関係者間で修正を進める、というのは責任ある開示の基本に合致しているように見える。

実態が「長期放置」になるリスク

しか問題は、この「適切な調整」の実態が 無期限の放置 に化ける可能である

企業にとって、非公開であればセキュリティ対策の優先度は低下しやすい。

• 「対策中」という名目の下、実際には数年単位放置される危険がある。

• その間に攻撃者が独自脆弱性発見すれば、利用者情報対策手段も持たないまま被害を受ける。

これは、かつて批判された「セキュリティスルー・オブスキュリティ」の構造のものである

国際的ベストプラクティスとの乖離

海外ではこの問題を防ぐため、公開期限を設けるのが常識になっている。

Google Project Zero発見から90日で公開。企業修正していなくても原則開示。

• CERT/CC米国):45日ルール対策が遅れても一定期間で情報公開。

• ENISA(欧州):協調公開を推奨しつつ、期限付きでの開示を前提。

まり「調整期間は有限である」ことが、責任ある開示モデル機能させる前提条件なのだ

提言:逆行を避けるために

今回の日本声明が本当に現代パラダイムに沿うものとするなら、次の仕組みが不可欠である

1. 明確な公開期限(例:90日)を設けること。

2. 第三者機関による監査で、企業対応状況を確認すること。

3. 段階的な情報公開(「報告済み」「調整中」「修正中」など)により透明性を確保すること。

これらがなければ、「適切な調整」という建前の裏で、実態は非公開による放置――すなわちオブスキュリティの復活に他ならない。

■ おわりに

セキュリティ攻撃者との時間との戦いである。

情報を握りつぶして安全が保たれる時代はすでに終わった。もし日本責任ある開示の理念を本気で受け入れるのであれば、調整と公開のバランスを「期限付き透明性」の仕組みで担保する必要がある。そうでなければ、今回の声明は「前進」ではなく「逆行」と評されることになるだろう。

  • IoT機器の認証必須化(取得費用20万円?)とかそういうのって正直関係者の年金資金作りにしかみえないわ。 https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/sangyo_cyber/wg_cybersecurity/iot_security/pdf/202408...

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