懸念事項
懸念事項
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/25 04:02 UTC 版)
「ホワイトカラーエグゼンプション」の記事における「懸念事項」の解説
日本経団連の提案では、労働時間という基準をなくした中で、給与はどう支払われるべきかといった点について、法案化を含めた具体的な対策が示されていない。また、超過労働への対処策については、基本的に個々の企業の問題としている。そのため、短時間で成果を上げた労働者に賃金は、そのままで次々に仕事を与えるだけ(労働強化)ではないか、無賃金残業を合法化しようとするだけ(労働時間強化)ではないか、労働者の健康管理コストを削減したいだけではないかといった非難が当制度に反対する人々からなされている。以下に、それらの代表的見解を挙げる。 論点詳細サービス残業の合法化、長時間労働の常態化 これまでは時間外労働に対して「割増賃金を支払う義務」が存在しており、形骸化されているとはいえ「時間外・休日労働に関する協定(三六協定)」の存在もあったことから、労働時間が過剰に増えることに対する一定の歯止めがあったが、ホワイトカラーエグゼンプションの導入が実現すると、それらの歯止めがなくなる。過労死弁護団全国連絡会議によれば、ホワイトカラーエグゼンプションを導入しているアメリカ合衆国では、同制度の適用を受ける労働者のほうが労働時間が長くなる傾向にあるという。経団連の提言では、仕事と賃金の関係についても具体的な規定を想定していない。そのため、企業によっては、仕事を増やすだけ増やして賃金は増やさない、処理しきれなかった仕事の分は減給するということにもなりかねない。「欠勤は減給とする」という提案とあわせると、休日労働の常態化の危険も指摘される(欠勤と休日労働)[要出典]。 労働者の健康管理 ホワイトカラーエグゼンプションにより、労働時間は経営者の管理対象から外れる。そのため、万が一従業員が過労死した場合に、従業員の自己責任で片付けられる可能性が出てくる(奥谷禮子などすでにそう公言している経営者も多い。奥谷の発言は「06/10/24 労働政策審議会労働条件分科会 第66回(議事録)」。労災にも問われなくなるので労災保険料が抑制でき(逆に労災を出すと保険料が上がる、100%会社負担の保険料)、過労死裁判などで従業員の遺族に多額の賠償金を支払うという可能性も減少する。日本経団連は、「労働者の最大拘束時間を定める」、「一定時間勤務した者に休暇を付与する」、「一定期間毎の健康診断を受けさせる」といった対策を提言している。しかし、いずれも労使で「自主的に取り決めるべき」としており、経営体力の弱い零細・中小企業などでは、これらの規定が隠れ蓑として悪用される可能性もある。もっとも、大企業でもこれが悪用される可能性も捨てきれず、これらの含みを持たせるため「あくまで個別の会社(と組合)の問題」とし制度自体に盛り込まないようにしているともみられる。これらの懸念に対して、厚労省は2006年11月に示した修正案で「週休二日以上の確保の義務付け」と「適正に運営しない企業に罰則を科す」旨を盛り込んでいる[リンク切れ]。しかし、草案に反対する論者からは、現在でも「出勤簿には有給休暇や代休と記載したが、実際は残務処理のため出勤している」という状況が散見されており、依然として対策が不十分であるとの指摘がなされている。現状でもサービス残業・激務による鬱などの精神疾患・過労死などが横行しているにもかかわらず、さらに経営者によって恣意的に用いられかねない制度は導入すべきでない。また、そもそも経営者の管理能力と信頼性・法令順守意識が足りていないという問題があるにもかかわらず、制度導入でそれらがさらに増幅されかねないという指摘もされている。一方で、週休2日を強いるのであれば、現在の週1日の休日で良い労働基準法より厳しい規制になり、規制緩和の意味が薄れるとの非難もある。上節の「誰が残業をするのか」と同様に従業員いじめのツールとして、悪用される可能性がある。経営側がその意にそぐわない従業員に対して、過重労働を強いて退職・休職に追い込むケースや、最悪の場合死亡したとしても「過労で倒れた」ことにして片付けてしまうケースなどが具体例と考えられる。この場合は、経営側の責任を問えなくなってしまう可能性が高く、「過労死しました。自己責任です」の一言で全て片付けることが可能になってしまうとの主張もある。しかし、会社側に健康配慮義務を課すことも考えられ、必ずしもそうなるとはいえない。 適用除外対象者の将来的な拡大 経団連の提言では、「労使委員会の決議で定めた業務で、かつ年収400万円以上」となっていた。しかし、厚生労働省が2006年末にまとめた最終報告書では、新たに対象労働者は管理監督者の一歩手前に位置する者」とし、年収要件を、「管理監督者一般の平均的な年収水準を勘案しつつ、労働者の保護に欠けないよう、適切な水準を定める」としている。しかし、反対論者を中心に「一度導入したら、少しずつなし崩し的に適用除外水準が緩和されていき、最終的にはほとんどの労働者が対象になるのではないか」との危惧が多い。asahi.comのbeモニターを対象としたアンケートでは、「いずれ対象が広がるからホワイトカラーエグゼンプション制度に反対」という回答が30%に占めている[リンク切れ]。実際、労働者派遣法では、当初は厳格な基準が定められていたが、なし崩し的な基準の緩和により、現在では一部の例外を除いて事実上派遣が自由化されてしまったという歴史がある。先述の丹羽宇一郎の発言のように、年収・職位面で本来は適用除外要件を満たさない「若手」の労働者にまで適用除外範囲を広げたい、という意図が推進側に存在している。ただし、米国の制度でも、対象者はホワイトカラーの2割程度と言われており、拡大はありえても、全員が対象になるというのは大げさであろう。
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