『デザインマネジメント』読書メモ:経営とデザインについて示唆に富んだ本。

(2020/11/08 更新) デザインマネジメント |

デザインマネジメント』を読みました。

メインの著者は田子學氏。東芝デザインセンター、リアル・フリートを経てエムテドを起業されています。

この本、僕が普段漠然と考えていることがズバズバッと言語化されていて、読んでいて非常に共感できる内容でした。

また、共著者の橋口寛氏による「経営から読み解くデザイン」も興味深く、デザイナーの視野を広げてくれる内容です。

以下、印象に残った所をメモしつつ、一デザイナーとしてのコメントを併記しました。少しでも共感できる内容がありましたら、ぜひ原著をお手に取ってみてください。

 

『デザインマネジメント』メモ

デザインマネジメント=一気通貫のデザイン

デザインマネジメントとは、「一気通貫のデザインでプロジェクトを戦略的にマネジメントすること
(p.32 田子學氏)

一気通貫、というのが大事なキーワードです。

僕は完全な縦割り組織の中でUIデザインをメイン業務としていますが、例えばコミュニケーションデザインになると完全に他部署の業務となり、なかなか口出しができなかったりします。

そのような状況を打開するのが一気通貫のデザイン、すなわちデザインマネジメントです。

 

新事業に必要な3要素:「学習」「忘却」「借用」

・学習:今までになじんでいたやり方とは違う方法を学ぶこと
・忘却:既成の時間軸・意思決定ルール・書式その他多くの概念を忘れること
・借用:既存事業における経営資源を借用すること
(中略)
組織・チームをデザインする上で大切なことは、
①新規事業と既存事業では組織コード(コードA:規律・効率を重んじる、コードB:創造性を重んじる)が異なるのだという認識を持つこと、
②新規事業においては従来のやり方を忘却(アンラーニング)し、新しいやり方を学習(ラーニング)する必要があること、
③コードBの壊れやすい新規事業が、コードAの既存事業から潰されないように留意しながら、既存の経営資源をしっかり「借用」すること、
の三つである。
(P.94 – 97 橋口寛氏)

組織をデザインすることは、「人」が絡むのでとても難しい問題です。

特に歴史ある企業の場合、長年勤めている多くの人はコードBやアンラーニングは抵抗があることでしょう。そんな中、「忘却→学習→借用」を柔軟に取り組める人たちといかに協業できるかがとても重要になってきます。

この3要素を意識することで、新規事業に取り組むチームが少しでも成功確率を上げられたら良いですね。

 

マネジメントスタイルの概念:「ハンズオン」と「ハンズオフ」

・ハンズオン:自らの手で直接マネジメントを行うスタイル
・ハンズオフ:一歩引いて他社にマネジメントを任せるスタイル
(中略)
デザイナー以外の人が、デザインマネジメントに関わるときに注意すべきことがある。「自分はデザイナーではないし、デザインのことは得意ではないから」などの理由で条件反射的にハンズオフのスタイルをとってしまう人が多いことだ。(中略)ユーザー、消費者、顧客の立場になちきって物事を考えることは誰にでもできる。それすらできないなら自ら手を引いた方がいい。(中略)デザインマネジメントは常にハンズオンの姿勢で当事者性を持って関わる必要があることを強調したい。
(p.97 – 100 橋口寛氏)

社長や経営陣に「デザイン」を理解してもらい、「自分事」として捉えてもらうことは、デザインマネジメントに不可欠です。

未だに日本では「デザイン」と言うと多くの人が表面的な意匠を思い浮かべますが、経営陣もその例に漏れない場合、まずはその意識を変えなくてはなりません。

そのためにこの本を紹介するのは1つの手かもしれません!

 

「なぜこのプロジェクトをやろうと思ったのか」に立ち返る

著者はいつも「なぜこのプロジェクトをやろうと思ったのか」に立ち返り、やり遂げる覚悟がないのであれば、今すぐプロジェクト自体をやめるべきだ、と言い放つことにしていた。
(p.231 田子學氏)

優れた企業・優れたリーダーはまず「Why(なぜそれをするのか)」から始め、次に「How(どのようにそれをするのか)」を伝え、最後に「What(何をするのか)」を伝える。(中略)逆に普通の企業・普通のリーダーは、いきなり「What」から入ってしまう。
(p.101 橋口寛氏)

既存事業のルーティンワークに従事していると、この「なぜ?」の視点を忘れがちになります。低迷する事業を続けている日本企業は「なぜ?」に立ち返る時が来ているのではないでしょうか。

関連して、『イノベーションのDNA 破壊的イノベータの5つのスキル』では、「質問力」を5つのスキルのうちの1つとして挙げています。「なぜ?」という質問は、既成概念をリフレーミングする力を持っています。

プロジェクトで立ち止まったら、適宜「なぜ?」という質問を投げかけ、違う視点での議論を生むことは現状を打破するために有効でしょう。

 
[2014年10月5日追記]
橋口氏が引用されていたのは、サイモン・シネックの「ゴールデン・サークル」です。以下のTED動画が参考になります。

参考:サイモン シネック: 優れたリーダーはどうやって行動を促すか | Talk Video | TED.com

主張は下図に要約されています。

TheGoldenCircle

引用:The Golden Circle Defined. | Bosco Anthony – Business Growth Strategist

 

コミュニケーション戦略は商品開発当初から始めるべき

コミュニケーション戦略は商品ができてから始まるものではなく、商品開発当初から始めるべきだ。
キービジュアルは、全社でOSOROのコンセプトを共有するとともに、プロジェクトで目指す方向性が揺らがないようにするためのものだ。したがってこのキービジュアルで掲げた方向性は、最終的に商品を発表するまでに踏襲された。
(p.236 田子學氏)

この話はZIBA濱口秀司氏が提唱する3種類のプロトタイプのうちの「コンテクスチュアルなプロトタイプ」に近く、早期に伝えたいストーリーをビジュアル化しておくことで、プロダクトのコンセプトがより強固なものとなります。

冒頭の「一気通貫のデザイン」とも関係しますが、製品自体だけでなく、そのストーリーや伝え方まで一貫してデザインすることが、デザインマネジメントの真髄です。

 

インターディシプリンなチームづくり

専門性(Discipline)の異なるメンバーが単に集まっただけだと「Multidisciplinary」(マルチディシプリン)な状態。そこに共通の理念(ベース)が加わり、その下で共通言語を持って協創活動を行うことで「Interdisciplinary」(インターディシプリン)な状態となり、イノベーションが生まれるのだ。
(中略)
経営者は時に「とにかく三ヶ月間で何かイノベーティブな製品を生み出せ!」などと発破を掛けたりする。(中略)が、多くの場合は「それなりの成果」しか生まれない。それは、チームがインターディシプリンな状態に至るための十分な成熟期間を取れないということと密接に関わっている。
(p.404 – 405 橋口寛氏)

このパートを読んで、すぐにはイノベーションを起こせないんだな、ということを再認識しました。U理論で言うところの「プレゼンシング(一歩下がって内省する)」の必要性と似ているものを感じました。

結局は人と人のハートがイノベーションを起こすんですね。

 

何かを成し遂げるには3年かかる

「何かを成し遂げるには3年かかる」・・・これは書籍内にも書いてあったと思いますが、「[OpenCU] ManabuTago Talk 2: デザインマネジメント 〜価値ある商品・サービスを創出する経営手法」を聴きに行った時に印象に残った言葉です。

石の上にも三年、細胞が生まれ変わるのも三年、リアル・フリートも3年かけて愛されるブランドになった、とのこと。大型なプロジェクト、新しいマインドセットが必要なプロジェクトは経験的に3年必要とのことです。

確かに経験的にわかる気がします。1つのマイルストーンとして参考にします。

 

おわりに

以上、書籍『デザインデザインマネジメント』のメモ+コメントをまとめてみました。読んだ後の学びが整理されました。

こちらに書いたのは本書の内容の3%にも満たないと思いますので、興味を持たれた方は書籍を一読されることを強くオススメします。

デザイナーであれば経営視点を、ノンデザイナーであればデザイナー視点を垣間見ることができ、視野が広がること間違いなしです。

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Hiroki Hosaka

AIベンチャーのUXデザイナー/デザインマネージャー/CXO。メーカー→IoTベンチャー→外資系デザインコンサルを経て現職。このブログではデザインやUXに関するクリエイティブネタを発信しています。 詳細プロフィール