『行為のデザイン』に書かれている8つの”バグ”の分類がUXデザインの参考になる
こんにちは、@h0saです。
『問題解決に効く「行為のデザイン」思考法』(以下『行為のデザイン』)を最近読みました。
以前、以下の記事で「UXバグ」という言葉を聞いてなるほど!と思っていたのですが、『行為のデザイン』の提唱者であるデザイナーの村田智明氏も日常における問題点を「バグ」と表現しています。
参考:「ユーザー体験の品質を見える化」する「UXバグ」の考え方とは?/HCD-Net通信 #29 | HCD-Net通信 | Web担当者Forum
(ちなみに、IDEOトム・ケリー氏の著書『発想する会社!』でも、「バグ・リストをつくる」ということがイノベーションのためのインスピレーションにつながると書かれています。)
さて、『行為のデザイン』ではそのバグを8つに分類しており、「UXバグを考える際のフレームワークになる」と感じました。
個人的なトレーニングも兼ねて、8つのバグの分類を紹介しつつ書籍には載っていないバグの例を挙げてみます。
※8つのバグについては、こちらの記事にもまとめられています。
参考:人の行為を止める「バグ(不具合)」の種類と「デザイン」による解決 | Biz/Zine
Contents
8つのバグの分類とその具体例
1. 矛盾のバグ(コントラディクション・バグ)
これは、目的のために施したデザインが裏目に出てしまい、結局、目的を果たせなくなってしまうバグのことである。
紹介されている例:
- iPhoneのケース:目的)美しい筐体デザイン → 結果)傷つけたくないのでカバーをつける
- ハエ取り:目的)ハエのいない清潔さを保つ → 結果)吊るすことでハエが人の目に触れる
- バッグインバッグ:目的)かばんの中を整理する → 結果)物がどこにあるのかわからなくなる
- 観光地にあるサイン:目的)きれいにしてほしい → 結果)サインが景観を汚す
- 点滴スタンド:目的)患者を治療する → 結果)無機質さが患者を不安にさせる
他に考えられる例:
- 広告:目的)商品やサービスの宣伝 → 結果)とにかく消そうとして内容を見ない
- iPhoneのホーム画面のフォルダ:目的)多くなったアプリを格納して整理する → 結果)アプリが見つけにくくなる
- 駅の喫煙所をなくす施策:目的)駅での喫煙者を減らす → 結果)駅周辺での歩きタバコが増える
この「矛盾のバグ」はデザイナーが作ってしまいがちなものなので、注意したいです。
2. 迷いのバグ(パープレキシティ・バグ)
目的に向かって行動しようとしているのに、迷いが生まれて動きが止まってしまうことを、「迷いのバグ」という。
紹介されている例:
- エレベーターの開閉ボタン:開ボタンか閉ボタンかパッと見わからない
- ビニール傘:自分の傘がわからない
- 立食パーティーのグラス:自分のグラスがわからない
- エスカレーター:上に行くのか下に行くのか近づかないとわからない
他に考えられる例:
- テレビのリモコン:ボタンが多すぎてどれを押せば良いかわからない
- USBケーブルの差込口:上下がどちらかわからない
- 公的な手続書や申請書類:どこに何を書いて良いのかわからない
この「迷いのバグ」はUIのデザインである程度解決できるものが多そうです。
3. 混乱のバグ(カオス・バグ)
「混乱のバグ」とは、コトやモノの数が多すぎて、混乱を招き、見た目にも美しくない状態になることだ。
紹介されている例:
- ブラウザのお気に入り:増えると読みたい時に探し出せない
- バスのアナウンス:宣伝や注意のアナウンスが増えると、外国人には何が大事なアナウンスなのかわからない
- コンセント周り:ケーブルが増えるとこちゃこちゃになる
- マグカップ:増えると重ねられず収納に困る
他に考えられる例:
- ポイントカード:増えると財布から探しづらいしかさばる
- 写真:スマホが普及して圧倒的に撮影枚数が増えたが過去の写真を探しにくい
- 携帯の料金プラン:特記事項が多すぎて理解しにくい
“過ぎたるは猶及ばざるが如し” とはこの「混乱のバグ」のことを言うのかと思います。
4. 負環のバグ(ネガティブスパイラル・バグ)
バグになる理由があるのに解決せずにいると、さらなるバグが生まれて悪循環に陥る可能性がある。これが「負環のバグ」だ。
紹介されている例:
- クーラー:涼しくしたいのでクーラーをつける → 室外機の排熱により外気温が上昇 → さらに涼しくしたいのでクーラーを使う回数を増やす → まずます外気温が上昇 →・・・
- タクシー:高いタクシー料金 → 乗る人が減る → 減るからま高くなる → 乗る人が減る →・・・
- 観光地:集客したいので施策を打つ → 野暮ったいので客が離れる →・・・
他に考えられる例:
- ギャンブル(ガチャ含む):お金を使う → 当たって嬉しい → お金を使う → 外れて悔しい → また当てたい → お金を使う →・・・
- 繰り返し使う必要がある機器の使いにくいUI:使いにくい → 慣れてしまう → UI改善 → 慣れてしまっているので逆にエラーが増える → UIを戻す → 新規ユーザーは使いづらい → 慣れてしまう →・・・
この負環のバグは、社会問題など解決の糸口が見つかりにくいものが多そうです。。
5. 退化のバグ(リトログレッション・バグ)
「退化のバグ」とは、もともとあった機能がある条件によって失われてしまうものである。
紹介されている例:
- スーパーのカゴ:はじめは空っぽで何でも入れられる → 商品を入れていくと商品の並べ替え作業が発生する
- ノートやファイルに貼るインデックス:はじめは角が立った四角 → 使ううちに角が折れて機能と美しさを失う
- 消しゴム:はじめは尖った角で細かい字を消せる → 角が丸くなると消せなくなる
他に考えられる例:
- 歯ブラシ:はじめは毛がまっすぐ → 使ううちに毛が曲がり磨きにくくなる
- コンクリート打ちっぱなしの外壁:はじめは洗練感 → 時間が経つと汚れて洗練さが失われる
- 子供の服やおもちゃ:適齢期に使われる → 時間の経過によって使われなくなってしまう
これらの他にも、「退化のバグ」は消耗材でいろいろと考えられそうです。
6. 精神的圧迫のバグ(プレッシャー・バグ)
よかれと思ってしていることが、実はユーザーの気持ちを圧迫していることを、「精神的圧迫」のバグとした。
紹介されている例:
- スマホの通知:「チェックしなければ」という気持ちの負担が生まれる
- SNSのいいね!:いいね!しないといけないという心理的負担
他に考えられる例
- Suicaの改札:左利きの人には毎回負担、後ろから人が来るプレッシャー
- 服屋の店員に声をかけられる:「買わなきゃ」というプレッシャー
ユーザーに機能やサービスを提供する際には、この「精神的圧迫」についての配慮をしないといけませんね。
7. 記憶のバグ(メモリー・バグ)
必要な記憶を呼び起こしたいときにうまく出てこないのが、「記憶のバグ」だ。
紹介されている例:
- パーティーで名刺交換:時間が経つと顔と名前が一致しなくなる
- ショッピングモールの駐車場:戻るときに車の場所がわからなくなる
- IDとパスワード:何通りか設定すると記憶するのが難しくなる
他に考えられる例:
- 冷蔵庫の中:買い物に行った時に材料が冷蔵庫に残っているか思い出せない
- クレジットカードの番号:長すぎて思い出せない
- 家具等を買う時:部屋の寸法がわからず部屋にフィットするか不安になる
「記憶」はコンピューターが得意とするところなので、うまくシステムやインタラクションをデザインすれば解決できるバグが多そうです。
8. 手順のバグ(プロセス・バグ)
プロダクトやサービスが想定する順番と実際の動きが合っていないと、「手順のバグ」が生まれる。
紹介されている例:
- ハンガー:人はジャケットを脱いでハンガーに掛けた後、ズボンを脱いで掛けようとするが、ハンガーの形状はそのじ順番に沿ったものではないのでズボンを掛けるときにジャケットが邪魔になる
- エレベーター:一番最初に乗った人が一番最後に出ることになる
他に考えられる例:
- 講演会等の席:早めに来て見やすそうな席に座った後、遅れて来た背の高い人が目の前に座って視界が遮られる
- バーゲンセール:セール直前に元値で買った服がセールで安くなっていると損した気分になる
「手順のバグ」はある手順で慣れてしまっている場合、見つけにくいものかもしれません。
おわりに
以上、『行為のデザイン』に紹介されている8つのバグについて、トレーニングを兼ねて事例を考えてみました。
もちろんこの8つの分類はあくまでフレームワークであり、ほかにも分類できないようなバグは存在するはずですが、「パターン」を知っておくことに損はありません。
いずれにしても、デザイナーに必要な問題解決思考の基本的な訓練が、このようなバグを日常生活の中から見つけることでしょう。今後も「バグ・リスト」を作ることを継続していきたいです。