ぐらシャチ [★★]
初めての中村恵里加。「ダブルブリッド」の完結が記憶に新しいですが、今回は新作です。
最初は良いボーイミーツガールなのかなー、なんぞほのぼのした感想を抱いていたのですが、後半につれてなんとも奇妙なストーリーになったなぁと。というかこれは気味が悪いよなー。いや、おもしろかったけど、すごく気味が悪かったしひたすら奇妙としかいえないわ、これは。
ぐらシャチ (電撃文庫 な 7-13)
この春高校生となる少女・秋津島榛奈は、全国うっかりランキング10位以内にノミネートされる(弟・孝雄談)以外はごく普通の女の子。海辺で祖母の形見であるオカリナを吹いていた彼女は、急な高波にさらわれたところを「ある生き物」に助けられるのだが──?
そしてその「出会い」から、榛奈の日常は少しずつ波乱を含み始め、そして──。
『ダブルブリッド』の中村恵里加が贈る、かなり奇抜なボーイミーツガール&ファーストコンタクト・ストーリー、満を持して登場!
シャチに助けられた少女の、奇妙な学園生活が幕を開ける――!
ちょっと抜けている少女・榛奈は高校入学前に海辺で高波に攫われたところを一頭のシャチに助けられる。人語を理解し、しかもしゃべるというそのシャチに榛奈は若干戸惑いつつも、グラボラスと名前をつけたりしてそのシャチと馴れ合っていく。
その衝撃の出会いは潮が引くようにあっという間に終わり、グラも榛奈の前に姿を現さなくなった。しかし、このグラとの出会いはこれで終わりではなかった――。
こわい。奇妙だ。ひたすらに、気味が悪い。
これが読み終わっての感想。なんというか、ただひたすらに奇怪である。
しかしこれらのような感情を、不思議な透明感のある文章に包んで淡々と語る中村恵里加という作家の腕は、確かなものだと思いました。
グラが剛典の体を借り、否、黒田剛典として地上に出でて、なんてことなしに学園生活に馴染みきっているのがおかしいというか、良く考えてみると恐ろしいよな。適応力とか知識が高すぎるってレベルじゃねーぞ。榛奈も喰われるまえの剛典の笑顔を知っている分、グラ(外面は剛典のものだけど)の笑顔がとても奇妙なものに見えてもおかしくないですよね。そら笑顔がデフォルトの人間なんてこわいわ。
ずっと剛典と一緒にいた平八さんも、彼が変わってしまったことを嘆いたこともありましたが、なんだかんだで友達を何度でもやり直すってところはなかなか熱い人間だなーと思った。平八さんは間違いなく友達の鑑。
グラが人間としてすごすことを、体感することを無邪気に楽しんでいるなか、榛奈の周りで起こる不思議なできごとが、だんだんと彼女のグラに対する不信感や恐怖を募らせていくところはハラハラしましたね、さすがに。しかし反面、グラを疑ってしまうことの自己嫌悪もあるから強く諌めることができないんだよね。
まあそれよりも私はいつ飼い犬のシノが喰われてしまうか心配で心配でならなかったんですがね。というか、この飼い犬が榛奈の内面を微妙に写し取っているみたいで、個人的には割と重要なポジションにいたと思う。
これほどまでに奇怪で奇妙なお話なのに、綺麗にまとまっていたのもまたすごいなー。
たぶん1巻完結だと思うけど、続きを出しても広がるお話だと思うからひそかに続編を期待します。まあこのまま終わっても十分綺麗だけどね。
いやおもしろかったです。中村恵里加という独特の作風も見れて良かった。
微ホラー・グロの入るボイーミーツガールだったけど、普通にオススメ。