プリンセス・ビター・マイ・スウィート [★★]
「ベネズエラ・ビター・マイ・スウィート」ではイケニエビトのお話でしたが、今度はタマシイビトの少女のお話。
前作より読みやすくてシンプルだけど、ハッピーエンドではない切なさ。いい終わり方してるんですがね。
プリンセス・ビター・マイ・スウィート (MF文庫J) (2008/12) 森田 季節 商品詳細を見る |
理由不明の家出を繰り返す美少女、チャチャはクラスメイトから「魔性の女」と呼ばれるいわくつきの高校生。そんなチャチャと小学生の頃から付き合いのある晴之は、ある日彼女のとんでもない秘密を知ってしまう。秘密を知られたチャチャは姿を消し、そのことでチャチャへの恋心を自覚した晴之は、風紀委員の神人と共にチャチャの捜索に向かうのだが――。
京都の街で巻き起こる連続殺人事件を背景に、チャチャに惚れてしまった晴之、あわれなチャチャの弟、謎の存在であるチャチャの兄の三人が、可愛くて恐ろしい女の子にその身を捧げるおかしくもせつない物語。
失ったモノはまた作っていけばいい、とびっきりの笑顔で――。
イケニエビトの記憶を喰らうためだけに存在するタマシイビト。そんなタマシイビトである少女の畠山チャチャに惹かれていた普通の少年である晴之は、ある日チャチャの秘密を知ってしまう。再び姿を消したチャチャの捜索へ向かった晴之は――。
これはなんとも切ないお話なんだろうか。
前巻はイケニエビトのお話でタマシイビトを勝手に悪人扱いしてましたが、とんだ思い違い。タマシイビトも彼らの事情があるのです。そのどちらとも取らない普通の人間が、この二つの歪な存在と交えることによって生まれる悲劇は、繰り返さずにはいられない。巧い因果関係を作り出したものです。
登場人物はほぼ総入れ替わりですが、ヒロインのチャチャを筆頭にコミカルな掛け合いがたまらなく好き。飄々としていて浮世離れした性格のチャチャが、晴之をあの手この手で振り回すのは見ていて楽しかったなー。あれですね、好きな人には意地悪してくなるってやつ。
チャチャの弟である満泰くんも女装させられたりといい玩具になっています。しかし満泰くんからしてみれば、たまに意味不明な家出をするチャチャを守らなければならないというと使命感に駆られています。まあ確かにチャチャのあれは迷惑千万ですが、それでも嫌いになり切れない部分があるのは一種の羨望を抱いているからなのでしょうかね。
事件を背景にチャチャが失ったモノは大きい。
好きな人から忘れられてしまうというものは、いったいどういう感じなのだろうかと思うだけでやるせない。「きみ、誰?」と真顔で言われてらもう立ち直れないことでしょう。
しかし彼女は諦めなかった。壊れてしまったものは、また作っていけばいいと。
それはどんなに無様でも見苦しくても、絶望に屈しない強さ。一縷の希望を託した未来がそこにある。
たとえ相手が忘れても、振り向かなくても、絶やさない真っ直ぐな笑顔が素敵過ぎる。最後のあの挿絵で思わずほろりときてしまった。
ここからが二人の再スタートなのです。
ホントにもうタイトルが逸材過ぎるシリーズであります。やってくれる。
恐らくもう続編はないみたい? いやでも続いてほしいシリーズではありました。超オススメ!
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