

ラプンツェルの翼 [★]
初めての土橋作品。これ読んで前作にも興味が沸きました。
今作も、前作も生き残りを賭けたゲームを扱う作家さんだとは聞いていましたが、評判どおりの内容でしたね。でもこういうバトルロイヤル的なお話は好みです。
結構エグイところもあったけど今作は最後に救いがあったから良かったのかなー。
ラプンツェルの翼 (電撃文庫)

《もしもこのトランクを拾った方がいたら絶対に開けないでください。人にとって危険な武器が入っています。開けない限り危害はありません》
混乱する事故現場で相沢遼一が託された歪にひしゃげたトランク。その中に入っていたのは、両膝を抱えるように丸くなっている精巧な人形のような……一糸まとわぬ少女だった。はたして彼女が危険な武器なのか、もしくは何かの道具(ツール)なのか、それとも──。
遼一の手元にあるのは七つの駒(ピース)と地図(マップ)とウサギのぬいぐるみ。謎の少女を連れて、目的の見えぬ生き残りを賭けた“禁断”のゲームが始まる!
道具としての価値、人間としての信頼――。
主人公・相沢遼一に託された一つのひしゃげたトランク。その中に収まっていた少女と生き残りを賭けたゲームに挑みます。人間を喰らう存在であるバグと戦う天使になるために、7人の少女達はそれぞれのパートナーと協力して最後の一組になるまで殺し合う、悪趣味で不条理なゲームです。
主人公の遼一をパートナーとする奈々は最初は言語や思考能力も皆無に等しく、TVや辞書から知識を学ぶのでやや堅苦しい感じの女の子ですが、遼一と過ごし学校に行ったりしながら徐々に人間らしく、それこそ年相応な少女らしくなっていく姿は良かった気がします。
しかし最初からこの二人が仲がいいわけではもちろんなく、奈々は天使となるために遼一を利用し、同時に遼一も奈々を保身のための道具としか見ていませんでした。非常に殺伐とした打算的な関係です。
それでも他の天使たちと戦うごとに得た信頼関係は何物にも代えがたいもので、遼一も奈々も互いの命を守れるようになったところはなんだか温かい。
それよりもなんとも重いゲームですね。
生き残るためには嫌でも消さなければいけない他人の命。追い詰められて人間性を見失うプレイヤー。表面に晒される人間の醜悪な狂気。
どこまで人間を保身の道具として見れるか、モノとして命を扱えるか。限りなく人間を捨てて得る勝利。
またそう仕向けるゲーム内容もえげつないんですよねえ。
なんというか人間関係の明るい部分と暗い部分の両極を見せられた感じがします。
明るい方は言わずもがな、遼一と奈々みたいな関係でありましょう。他人を徐々に信頼できるようになる温かい関係はとっても素敵。
暗い方は人間不信そのもの。極度に追い詰められた人間が信じられものは自分だけです。他人は決して信じず、道具として見る。
閉鎖的な感情と人としての優しさと温もりをかなぐり捨てたドライな関係です。
まあ分かりやすくバトルロイヤルなので、凄まじく血みどろなエグイシーンもありましたけど、最後にはちゃんと温かみがあって救われた気分です。
奈々も遼一の妹である『奈々』としての感情も多少残っていたようで、これからの生活の明るさを仄めかしてくれましたねー。
いやはや面白かったです。こりゃ『ツァラトゥストラへの階段』も読んでみたいですね。オススメ。
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