

プシュケの涙 [★★★]
『我が家のお稲荷さま。』の作者でもある柴村仁さんの新作。柴村さんはこんな話も書けるんですか。
なんというか、もう文章に圧倒された。切なさとやるせなさが残るばかり。ひたすら胃がきりきりして胸が痛かったです。
特に後半は……嗚呼。
プシュケの涙 (電撃文庫)

「こうして言葉にしてみると……すごく陳腐だ。おかしいよね。笑っていいよ」
「笑わないよ。笑っていいことじゃないだろう」
あなたがそう言ってくれたから、私はここにいる――あなたのそばは、呼吸がしやすい。ここにいれば、私は安らかだった。だから私は、あなたのために絵を描こう。
夏休み、一人の少女が校舎の四階から飛び降りて自殺した。彼女はなぜそんなことをしたのか? その謎を探る二人の少年。
一人は、うまくいかないことばかりで鬱々としてる受験生。もう一人は、何を考えているかよく分からない“変人”。そんな二人が導き出した真実は……。
不可解な自殺を遂げた少女の真相は――。
夏休み、一人の少女が自殺した。それは本当に「自殺」であったか真相を探るべく、目撃者の榎戸川に校内中から「変人」と名高い美少年・由良が解決の協力を頼み込み、そしてたどり着いた真相は。
辛い。非常に辛い。楽しかったとか面白かったって安易に言えない。
決してスッキリとした爽やかな読了感ではなく、残るのは切なさとやるせなさと有耶無耶したもの。
ハッピーエンドと呼べるものでは到底思えない。でも、この物語を読めて良かったと素直に思えるのは不思議。そんな感覚に捉われました。
前編は自殺した少女・吉野の真相を探るべく由良が動くお話。目撃者の榎戸川が語り部。
どうしても彼女の自殺を意固地に否定する由良に秘められた思いは、まだこのときまでは分かりませんでした。というのも最初はこいつが怪しいなと思ってたけど全然違ったんですね。
言葉や自分の仕草を巧みに利用し、榎戸川たちを追い詰めるところはゾッとしたね。毒入りコーラとか投身実験とか考えることがえげつない。同時に自殺の真相も明らかに。これは……なんとも……。
かくして由良が吉野にこだわる理由が後半明らかになります。
後半。吉野が「変人」と名高い由良と出会い、共に過ごすうちに惹かれる話。語り部は吉野。この後半が……もう。
ごく短いながらも優しく、柔らかな温もりに包まれ、吉野に小さく芽生える恋心。不器用な二人が歩み寄る、そんな光景が微笑ましい。
二人が過ごしたそんな時間は、たとえ片方が消えてしまっても、決して忘れられないもので。そんな築いてきたものが、由良の心の中には一生残るんじゃないでしょうか。
吉野が想いを託した未完成の蝶の絵は、由良の瞳にはどう映り、そして何を考えさせられのでしょう。もしその絵が完成していたなら、きっともっと明確に想いを伝えられたのではないかと思うのです。
この作品の表紙と挿絵は読了前と読了後に見るのとでは大きく印象が違って見えると思います。
特に表紙を見直すとグッときてしまいます。繋がった二人の手、舞う蝶々、その意味が分かってしまうとこれ以上なく辛い。
最初にも言いましたが、かなり救われない話です。もやもやが晴れません。
でも、絶対読んでよかったと思えるお話だと思うんです。人を選ぶことは分かっているけど。それでもオススメ。