雨の日のアイリス [★★★]
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ここにロボットの残骸がある。『彼女』の名は、アイリス。正式登録名称:アイリス・レイン・アンヴレラ。ロボット研究者・アンヴレラ博士の元にいた家政婦ロボットであった。主人から家族同然に愛され、不自由なく暮らしていたはずの彼女が、何故このような姿になってしまったのか。これは彼女の精神回路(マインド・サーキット)から取り出したデータを再構築した情報──彼女が見、聴き、感じたことの……そして願っていたことの、全てである。
第17回電撃小説大賞4次選考作。心に響く機械仕掛けの物語を、あなたに。
思いっきり泣かせに来てますけど、そんなあざとさも全部ひっくるめてとても温かい話でした。
人間とロボットの間に隔たる絶対的な「違い」というのを大いに見せつけてくるのと同時、それを読者に強く印象づけながらも話は奇をてらわず全体的にしっとりとしていて、それでもなおかつ両者とも温かくすくいあげるようで本当に良かったです。特に最後の「追伸」のところでこみ上げていたものが一気に、流れでてきました。
テーマとしてはありきたりなものだったんですけども、でもきっちりこうもしっかり描いてくれるとやっぱり心葉は打たれますよそりゃ。
まあ前述で似たようなこと言いましたが、人間の勝手な都合でロボットたちの運命は大きく左右されてしまいます。
いらなくなったら捨てる。動かなくなったら壊す、或いは作りかえる。人間は至って迅速かつ容赦なくそう決断する。なぜならそれらは代替が効くものだから。ならばどうして人間はロボットたちに感情を与えたのでしょうか。
この物語の主人公及び語り部はアイリスという家政婦ロボットです。「好き」という感情もあり、「いやだ」という感情もあり、笑顔や泣き顔など表情にも起伏が多いとっても人間らしいキャラです。
最愛の人の死を境に、人間の手によって無理やり姿形を変えられ、廃山での無味乾燥なルーチンワークに放りこまれ、その中で同じロボットである仲間と出会い、絆を深めながら脱走を図る――のような経緯で彼女の喜怒哀楽に富んだ心理が丁寧に描写されています。本当に感情移入してしまうくらいには……。
なのに、アイリスだけではなく、こんなにも人間らしいロボットたちを人間は低く見る。用が済んだら慈悲もなく切り捨てる。
それでもお互いをこんなにも大切に思っている、アイリスと博士の関係は対等だったんだと思います。
人間とかロボットとかそんなものは関係なく、互いを愛しく思い、支えあっていました。博士だけではなく、リリスとボルコフも。共有した時間は博士には及ばないかもしれないけれど、リリスとボルコフにとってアイリスは大切な存在だし、アイリスにとっての二人も同じです。
このロボッ卜には過酷すぎる物語で、そんないくつもの温かい感情があったからこそ、ここまで優しさに溢れたものになったんじゃないでしょうか。
これを読了した日が丁度雨が長引いている真っ最中でして、必要以上に感傷に浸ってしまいましたってのは蛇足ですかね。でも、雨の日よりは雨上がりに読んでほしい作品だったりと、個人的には思ってます。
大好きです。傑作。