“文学少女”見習いの、卒業。 [★★★]
“文学少女”見習いの、卒業。 (ファミ通文庫) 野村 美月 竹岡 美穂 エンターブレイン 2010-08-30 売り上げランキング : 44 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
「わかったでしょう? 邪魔よ」
親友の瞳から、そう告げられた菜乃。しかも心葉は、そんな瞳とつきあうという! 仰天する菜乃の前に、さらに、瞳の過去──人を死なせたと噂された3年前、彼女の側にいた人物が姿を現す。瞳に何か起こっているなら、引くわけにはいかない! 心を決め、動きはじめた菜乃に、心葉は1冊の本を差し出し……。瞳が抱く秘密とは? そして、迫る心葉との別れと、菜乃の初恋の行方は──。
ああ、なんというか、これが“文学少女”だなあ、とひしひし感じた。
夏目漱石の『こころ』は私も国語の授業で読みましたが、まさかこれをライトノベルで題材にされるとは思わなかった。いや、もう有名どころじゃない作品ですけど内容的に考えて。当時高校生の私は「これは誰が読んで幸せになるの?」とか考えたもんです。
そんな『こころ』の内容に照らし合うように、菜乃ちゃんの親友・瞳ちゃんと図書室の臨時司書さんと、二人がかつて愛したKの三人の想いが錯綜する物語です。図々しいほどのお節介で友達思いの菜乃ちゃんが、そんな三人の過去にがむしゃらに首をつっこみます。
その結末はやはり救われないもので、それでも二人が過去に犯した過ちを認識し合えたのは少しの進歩だと思いました。自分を許せないエゴというのは、ここまで人格を追い詰めるものなのだろうか。Kが二人に見せたかったものも、とてもキレイなものだった。彼が救われないのは確かで、過ちである事実も不変であれど、その罪を分かち合あっていこうと決めた二人の行く末もどうなるんでしょうね。
「じゃあね、日坂さん。文芸部は任せたよ」
そして訪れる心葉の卒業。別れの季節。
最後まで菜乃ちゃんらしい告白に胸を打たれつつ、心葉の心境の変化には目を見張るものがあります。最初はあれだけつっけんどんだったにもかかわらず、いまではちゃんと文芸部の後輩として認めてるし、なによりも遠子先輩と築いてきた思い出の場所を菜乃ちゃんに託す、というのが素晴らしい演出だと思います。
この「大好き」が、彼女にとって最高の別れの言葉になったのが幸いでした。涙よりも笑顔が似合う文学少女見習い、別れの場面でも持ち前の愛嬌と笑顔で締めくくってくれました。
本編補完に相応しい番外編だったと思います。決して叶わないけれど、どこまでも直向きで切ない初恋をありがとうございます。
そして次回シリーズはどうやら編集者になった遠子先輩の話のようですね。
この半熟作家というのが心葉のことを指しているとは思えませんが、たぶんまた別のヘタレ男子が出てくるんじゃないですかね。
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