迫る来る消費税増税。“転嫁Gメン”は、メイドインジャパンを守れるか?
2014.02.16 04:39|雑記|
いよいよ4月1日からはじまる消費税増税を受け、昨年10月に消費税転嫁対策特別措置法が施行された。これは、平たく言えば「下請け業者に増税分を負担させてはならない」という法律で、中小企業にとって命綱とも言えるものである。当然ながら、消費税が3%上がって困るのは一般消費者だけでなく、増税分の上乗せを拒んで買い叩かれるようなことが起きれば、中小・零細企業は立ち行かなくなってしまう。
そこで経済産業省は、消費税転嫁対策室を設置し、500名もの転嫁対策調査官(通称“転嫁Gメン”)を配置した。建設業や小売業268社に対し、転嫁Gメンが立ち入り検査を始めたという報道もあったが、今後彼らがルール違反を取り締まるべく「発注者」を監視することになる。
小売業者は、増税分を最終販売価格に上乗せした場合商品が売れなくなるので、どうにか販売価格を据え置きたい。ただ、据え置くにしても利益を減らしたくないため、下請け業者に本体価格を下げさせ、従来通りの価格で発注したい。これが実情なのだ。「売れなければ、下請けも小売店も生き残れない。だから本体価格を下げる、つまり原価を下げるしかない」。確かに、“売るための”経済理論的には、下請けに増税分を負担させる=実質、原価を下げさせることは正しい。しかし、同時に2つ疑念が生じる。
まずひとつは、消費者と接する小売店は努力しているのかという疑念。同じ商品が他より少し高いとしても、それを売るための工夫、たとえばお店に来てもらうための販売促進や店舗づくりをしているのか? そしてふたつめは、すでにメーカーからの圧力でもともと原価をギリギリまで下げている末端の末端にある工場に、さらに増税分を負担させたらその工場はつぶれてしまうのではないか? 結果的に、良質な商品を販売することができなくなるのではないか?という疑念だ。
■メイドインジャパンを守る救世主?「Factelier(ファクトリエ)」
話は変わって、年間で200以上もの工場に出向きファクトリーブランド専門の通販サイトを運営している「Factelier(ファクトリエ)」をご存知だろうか。
ファクトリエは、最近注目を集めているスタートアップで、世界ブランドを手掛ける工場と提携し、メーカー、商社、卸といった中間業者を省略することで、高品質かつ低価格の商品の提供を実現している。転嫁Gメンの存在を知ったとき、頭によぎったのがこのファクトリエだった。つまり、そもそもの構造を変えようとしている彼らのような存在こそが、今まさに必要なのではないかと思ったのだ。
折しも、筆者の友人でもあるファクトリエ代表・山田敏夫に話を聞く機会があった。実際のところ消費税増税による影響はどうなのかと聞いてみると、「正直言って、現状Gメンの目は行き届いていない。どの工場も負担させられていて瀕死の状態です」という返事が返ってきた。思った通りだ。
ある側面から見たら、メーカーからの原価抑制に応えられないのだから、つぶれてしまうのは仕方がない。結局は競争なのだ、とも言えるかもしれない。「でも、それではもったいなすぎる」と山田は熱のこもった口調で言う。メイドインジャパンの工場の中には、世界の名だたるブランドから製造を委託されている工場もたくさんある。メイドインジャパンは世界から非常に高く評価されているのにもかかわらず、今回の増税で工場の経営が圧迫され、場合によっては倒産してしまうというのは、あまりにももったいないということだ。これはもっともな話だろう。
特にアパレル業界の場合、工場と最終販売者(小売店舗)までの間には様々な業者が介在するため、小売店などが価格を下げると言ったら、そのしわ寄せはすべて工場にくる。そこでファクトリエは、世界に誇るメイドインジャパンの工場を守ろうと、工場に利益をもたらすスキームを構築した。なんと、マージンを取る中間業者を完全に排除したのだ。その結果、ファクトリエで販売されるアパレル商品は、従来の構造で販売される価格の3分の1ほどで提供することを実現した。
同じ工場が作っているから品質は同じ。「ブランドタグ」が付いていないだけで、これほどまでに価格は下がる。もちろん、ファクトリエと提携している工場は従来のアパレルメーカーへも商品を提供しているわけで、同じ工場で作られた同じ品質の商品が、異なる価格で消費者に販売されているのだ。
■小売ビジネスで起こりつつあるパラダイムシフト
同様の品質の商品であるのに、ブランド価値や中間業者の数などによって価格が大きく異なる、これ自体は今始まったことではない。ただ、増税や不景気による消費者の購買意欲の減退など、さまざまな要因が複合的に絡まり合い、結果的に品質を担保できる工場がひっ迫するようなことがあれば、現状成り立っている流通スキームにも翳りが見えてくるはずだ。
ファストファッションが定着する中で、海外での低コスト生産が主流となり、20数年前までは50%あった国内市場におけるアパレル品の国産比率は今や5%以下である。今回の増税がこの比率をさらに下げるであろうことは容易に想像がつく。下請け業者に増税分を負担させることは、そこで働く人の雇用を守ることはもちろん、世界に誇るメイドインジャパンを捨てることでもあるのだ。
では、どうすればいいのか。もちろん一筋縄ではいかないが、まずは販売者が「価格の勝負」から脱却することだろう。これは、先述した「消費者と接する小売店は努力しているのか」という疑念に関わる話だが、従来の構造であれば「小売店」の陳列の仕方、ECサイトであれば「サイト」の見せ方など、販売方法における努力や工夫によって、消費者を引きつける必要がある。
たとえば、ファクトリエの場合、クラウドファンディングサービスを用いてプロジェクトを立ち上げ、自社のプロモーションをしながら初期ロットを受注販売の形で提供するというアイデアで成功を収めた。取り組みや動いたお金は小規模かもしれないが、従来の小売りビジネスに風穴を空けるという意味では大きな一歩なのではないだろうか。
やはり、消費税が上がるからその分価格を下げる、ファストファッションが流行ってるから高いものは売れない、ではなく、たとえ値段が高くとも消費者に「ここで買いたい」と思わせられる店舗やサイトは強い。抽象的な言い方ではあるが、いち消費者としては、いい買い物をしたいと思うし、高いからとか安いけどという文脈から離れたところで商品を手に取りたいものだ。きっとまだやれることはある。ぜひとも、最終販売者にこそパラダイムシフトを起こしてほしい。
そして、転嫁Gメンには末端の末端にある工場にまで目を光らせてほしいと思う。世界に誇る、メイドインジャパンを守るために。
※「Yahoo!ニュース 個人」の記事を転載しています
そこで経済産業省は、消費税転嫁対策室を設置し、500名もの転嫁対策調査官(通称“転嫁Gメン”)を配置した。建設業や小売業268社に対し、転嫁Gメンが立ち入り検査を始めたという報道もあったが、今後彼らがルール違反を取り締まるべく「発注者」を監視することになる。
小売業者は、増税分を最終販売価格に上乗せした場合商品が売れなくなるので、どうにか販売価格を据え置きたい。ただ、据え置くにしても利益を減らしたくないため、下請け業者に本体価格を下げさせ、従来通りの価格で発注したい。これが実情なのだ。「売れなければ、下請けも小売店も生き残れない。だから本体価格を下げる、つまり原価を下げるしかない」。確かに、“売るための”経済理論的には、下請けに増税分を負担させる=実質、原価を下げさせることは正しい。しかし、同時に2つ疑念が生じる。
まずひとつは、消費者と接する小売店は努力しているのかという疑念。同じ商品が他より少し高いとしても、それを売るための工夫、たとえばお店に来てもらうための販売促進や店舗づくりをしているのか? そしてふたつめは、すでにメーカーからの圧力でもともと原価をギリギリまで下げている末端の末端にある工場に、さらに増税分を負担させたらその工場はつぶれてしまうのではないか? 結果的に、良質な商品を販売することができなくなるのではないか?という疑念だ。
■メイドインジャパンを守る救世主?「Factelier(ファクトリエ)」
話は変わって、年間で200以上もの工場に出向きファクトリーブランド専門の通販サイトを運営している「Factelier(ファクトリエ)」をご存知だろうか。
ファクトリエは、最近注目を集めているスタートアップで、世界ブランドを手掛ける工場と提携し、メーカー、商社、卸といった中間業者を省略することで、高品質かつ低価格の商品の提供を実現している。転嫁Gメンの存在を知ったとき、頭によぎったのがこのファクトリエだった。つまり、そもそもの構造を変えようとしている彼らのような存在こそが、今まさに必要なのではないかと思ったのだ。
折しも、筆者の友人でもあるファクトリエ代表・山田敏夫に話を聞く機会があった。実際のところ消費税増税による影響はどうなのかと聞いてみると、「正直言って、現状Gメンの目は行き届いていない。どの工場も負担させられていて瀕死の状態です」という返事が返ってきた。思った通りだ。
ある側面から見たら、メーカーからの原価抑制に応えられないのだから、つぶれてしまうのは仕方がない。結局は競争なのだ、とも言えるかもしれない。「でも、それではもったいなすぎる」と山田は熱のこもった口調で言う。メイドインジャパンの工場の中には、世界の名だたるブランドから製造を委託されている工場もたくさんある。メイドインジャパンは世界から非常に高く評価されているのにもかかわらず、今回の増税で工場の経営が圧迫され、場合によっては倒産してしまうというのは、あまりにももったいないということだ。これはもっともな話だろう。
特にアパレル業界の場合、工場と最終販売者(小売店舗)までの間には様々な業者が介在するため、小売店などが価格を下げると言ったら、そのしわ寄せはすべて工場にくる。そこでファクトリエは、世界に誇るメイドインジャパンの工場を守ろうと、工場に利益をもたらすスキームを構築した。なんと、マージンを取る中間業者を完全に排除したのだ。その結果、ファクトリエで販売されるアパレル商品は、従来の構造で販売される価格の3分の1ほどで提供することを実現した。
同じ工場が作っているから品質は同じ。「ブランドタグ」が付いていないだけで、これほどまでに価格は下がる。もちろん、ファクトリエと提携している工場は従来のアパレルメーカーへも商品を提供しているわけで、同じ工場で作られた同じ品質の商品が、異なる価格で消費者に販売されているのだ。
■小売ビジネスで起こりつつあるパラダイムシフト
同様の品質の商品であるのに、ブランド価値や中間業者の数などによって価格が大きく異なる、これ自体は今始まったことではない。ただ、増税や不景気による消費者の購買意欲の減退など、さまざまな要因が複合的に絡まり合い、結果的に品質を担保できる工場がひっ迫するようなことがあれば、現状成り立っている流通スキームにも翳りが見えてくるはずだ。
ファストファッションが定着する中で、海外での低コスト生産が主流となり、20数年前までは50%あった国内市場におけるアパレル品の国産比率は今や5%以下である。今回の増税がこの比率をさらに下げるであろうことは容易に想像がつく。下請け業者に増税分を負担させることは、そこで働く人の雇用を守ることはもちろん、世界に誇るメイドインジャパンを捨てることでもあるのだ。
では、どうすればいいのか。もちろん一筋縄ではいかないが、まずは販売者が「価格の勝負」から脱却することだろう。これは、先述した「消費者と接する小売店は努力しているのか」という疑念に関わる話だが、従来の構造であれば「小売店」の陳列の仕方、ECサイトであれば「サイト」の見せ方など、販売方法における努力や工夫によって、消費者を引きつける必要がある。
たとえば、ファクトリエの場合、クラウドファンディングサービスを用いてプロジェクトを立ち上げ、自社のプロモーションをしながら初期ロットを受注販売の形で提供するというアイデアで成功を収めた。取り組みや動いたお金は小規模かもしれないが、従来の小売りビジネスに風穴を空けるという意味では大きな一歩なのではないだろうか。
やはり、消費税が上がるからその分価格を下げる、ファストファッションが流行ってるから高いものは売れない、ではなく、たとえ値段が高くとも消費者に「ここで買いたい」と思わせられる店舗やサイトは強い。抽象的な言い方ではあるが、いち消費者としては、いい買い物をしたいと思うし、高いからとか安いけどという文脈から離れたところで商品を手に取りたいものだ。きっとまだやれることはある。ぜひとも、最終販売者にこそパラダイムシフトを起こしてほしい。
そして、転嫁Gメンには末端の末端にある工場にまで目を光らせてほしいと思う。世界に誇る、メイドインジャパンを守るために。
※「Yahoo!ニュース 個人」の記事を転載しています
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