「に・へ・を」

先日、COBOL、FORTRAN、LISPと、コンピュータ言語のことを続けて書いたので、今日は日本語の話。

田中章夫「日本語スケッチ帳」(岩波新書)にはいろいろおもしろい話が載っている。ブログネタにもなりそうだが、そのまま紹介してもつまらない、針小棒大・牽強付会の謗りを覚悟して。
NihongoSketchbook.jpg

本稿タイトルの「に・へ・を」だが、同書で紹介されていた話は、

    米洗う前 蛍の二つ三つ
    米洗う前 蛍の二つ三つ
    米洗う前 蛍の二つ三つ

の違い。
 は動きがない、 で動きが出た、そして で眼前を蛍が飛び違う様子が見える、もっともすぐれた句という説明である。納得である。

同書は文法解説書ではないからそれ以上の説明はないが、愚考するに、…… 飛んでくる、…… 飛び違う、というように助詞に動詞を引き出す効果があって、かつ、それぞれ結びつく動詞のファミリーが違っているからだと思う。
 は動作の終始点を表す助詞だから、もし「飛び違う」を続けるなら、蛍ニ、三匹が遠くから目の前へ飛んでくる感じになるが、蛍が寄ってくるというのはちょっと不自然。 は動作の場所を表すと思うから、「横切る」「飛ぶ」という動詞と密接で、かつ状況も自然。 は動作とは結びつかない助詞(「京 筑紫 坂東 」という言葉があるように、 は動作の方向を示すこともあるかもしれないが)。

とこう考えてきて、これが蛍だからそうなのであって、他のものならどうだろう。

    もし 蝶々 だったら。
    もし ゴキブリ だったら。
    もし  だったら。
    もし  :

 だったら、 が一番おもしろい、米を洗う人と雀との親しみを感じるのではないだろうか。

    米洗う前 雀の二つ三つ


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