「興亡の世界史(18)~大日本・満州帝国の遺産」
姜尚中・玄武岩「興亡の世界史(18)~大日本・満州帝国の遺産」について。
シリーズ「興亡の世界史」で多くの国がとりあげられてきたが、満州国の興亡というのは他とは違う。まず「国民」が、自然な形では存在しない。「五族共和」(和・韓・満・蒙・漢の五民族が協調)のスローガンで、人工的に作られた国民だ。
今までの私の満州国の理解は、満州を実質支配する妙手として、当初から満州建国を目指したというものだったのだが、本書によれば、しかたなく満州国を作ったのだとする。
中国(国民党政権)は、清の時代からの版図を引き継ごうとした一方、日本は満州を中国から切り離して属領にしたい、しかし属領にすることは抵抗がありすぎたため、日本の言うことをきく「独立国」を仕立て上げた。都合の良いことに、満州は清の故地であり、退位した宣統帝・溥儀の統治を正統とする理屈もつけられた。
本書ではその満州帝国が作られ、そして消えていく過程を、二人の人物に着目して、満州帝国の「建国」から消滅までを追うとともに、その二人がその後のそれぞれの国で果たした役割を明らかにする。
その二人とは、「妖怪」岸信介と「独裁者」朴正煕である。
岸信介氏を「昭和の妖怪」が呼ばれていることは、何かの報道などで知っていた。おそらくは戦前は満州などで活躍して戦犯となったのに、すぐに許されて首相として国の実権を掌握した、つまり死んだはずだったのに生き返って猛威をふるったことからそう呼ばれたのだと思うが、具体的にどんな活躍(暗躍?)をしたのかは知らなかった。
本書では氏がどこでどういう役割をしたのかを追跡している。
とはいうものの「暗躍」というようなわけでもなく、おそらくそのポジションにいて、成果をあげようとしたなら、優秀な官僚は同じような行動をとったに違いない。満州国を使って日本の安全・強化を図る、それは当時としては当然だっただろう。
それに対し朴正熙氏の場合は、もっと複雑である。氏は日本の陸軍学校で学んでおり、れっきとした日本軍人である。朝鮮人である氏は当然、日本人の軍人たちからはかなり貶められたに違いない。その一方で軍事的知識を身に着け、結局は軍事テクノクラートとして、韓国の実権を握るに至る。朴氏にしても、はじめからそれを目指したわけではないだろう。
この二人が直接かかわったというわけではないが、満州と朝鮮の関係についても多くのページを割いている。
今まで意識していなかったが、朝鮮半島と満州は接している。当時朝鮮半島は日本領だから、日本と満州は長い国境線で接する国だったわけだ。そして、この国境を越えて、多くの朝鮮人が満州へ移住していく。
中には「五族共和」のスローガンをまともに信じた朝鮮人もいただろう。
多くの日本人は、満州はかつて日本人が入植した土地で、戦争に負けて、入植していた日本人は命からがら日本本土へ逃げてきたという話だと、それも間違いではないが、理解していると思う。しかし当時の日本人には朝鮮人も多く含まれていた。ややこしいから端的に言えば、満州に入植し、日本の敗戦とともに命からがら逃げた人には、朝鮮人も多くいたということだ。
日韓の戦時補償問題がぶり返しているけれど、満州に関してはどう考えらえているのだろう。
ところで著者の一人の名前(玄武岩)でえっと思ったが、本名(ヒョン・ムアン/Hyun Mooam)のようだ。
シリーズ「興亡の世界史」で多くの国がとりあげられてきたが、満州国の興亡というのは他とは違う。まず「国民」が、自然な形では存在しない。「五族共和」(和・韓・満・蒙・漢の五民族が協調)のスローガンで、人工的に作られた国民だ。
今までの私の満州国の理解は、満州を実質支配する妙手として、当初から満州建国を目指したというものだったのだが、本書によれば、しかたなく満州国を作ったのだとする。
中国(国民党政権)は、清の時代からの版図を引き継ごうとした一方、日本は満州を中国から切り離して属領にしたい、しかし属領にすることは抵抗がありすぎたため、日本の言うことをきく「独立国」を仕立て上げた。都合の良いことに、満州は清の故地であり、退位した宣統帝・溥儀の統治を正統とする理屈もつけられた。
本書ではその満州帝国が作られ、そして消えていく過程を、二人の人物に着目して、満州帝国の「建国」から消滅までを追うとともに、その二人がその後のそれぞれの国で果たした役割を明らかにする。
はじめに | |
朴正煕と岸信介の足跡 | |
「独裁者」と「妖怪」のルーツ・満州帝国 | |
漢江の奇跡と日本的経営システムというレガシー | |
第一章 帝国の鬼胎たち | |
海を越える満州人脈 | |
若き日の「妖怪」と独裁者 | |
第二章 帝国のはざまで | |
満鮮一体への道 | |
「亡国の民」の満州 | |
満州へ、満州へ | |
満州が生んだ鬼胎たち | |
第三章 満州帝国と帝国の鬼胎たち | |
国運展回ノ根本政策 | |
王道楽土の夢と現実 | |
統制経済の実験場 | |
第四章 戦後と満州国の残映 | |
甦る「鬼胎」たち | |
「未完のプロジェクト」 | |
「満州型モデル」を求めて | |
再選後の危機と独裁への道 | |
重化学工業化と農村振興の起源 | |
鬼胎たちの日韓癒着 | |
おわりに | |
高度成長の基盤をつくった戦前の変革 | |
揺籃の地・満州と歴史の逆説 | |
学術文庫版へのあとがき |
岸信介氏を「昭和の妖怪」が呼ばれていることは、何かの報道などで知っていた。おそらくは戦前は満州などで活躍して戦犯となったのに、すぐに許されて首相として国の実権を掌握した、つまり死んだはずだったのに生き返って猛威をふるったことからそう呼ばれたのだと思うが、具体的にどんな活躍(暗躍?)をしたのかは知らなかった。
本書では氏がどこでどういう役割をしたのかを追跡している。
とはいうものの「暗躍」というようなわけでもなく、おそらくそのポジションにいて、成果をあげようとしたなら、優秀な官僚は同じような行動をとったに違いない。満州国を使って日本の安全・強化を図る、それは当時としては当然だっただろう。
それに対し朴正熙氏の場合は、もっと複雑である。氏は日本の陸軍学校で学んでおり、れっきとした日本軍人である。朝鮮人である氏は当然、日本人の軍人たちからはかなり貶められたに違いない。その一方で軍事的知識を身に着け、結局は軍事テクノクラートとして、韓国の実権を握るに至る。朴氏にしても、はじめからそれを目指したわけではないだろう。
この二人が直接かかわったというわけではないが、満州と朝鮮の関係についても多くのページを割いている。
今まで意識していなかったが、朝鮮半島と満州は接している。当時朝鮮半島は日本領だから、日本と満州は長い国境線で接する国だったわけだ。そして、この国境を越えて、多くの朝鮮人が満州へ移住していく。
中には「五族共和」のスローガンをまともに信じた朝鮮人もいただろう。
多くの日本人は、満州はかつて日本人が入植した土地で、戦争に負けて、入植していた日本人は命からがら日本本土へ逃げてきたという話だと、それも間違いではないが、理解していると思う。しかし当時の日本人には朝鮮人も多く含まれていた。ややこしいから端的に言えば、満州に入植し、日本の敗戦とともに命からがら逃げた人には、朝鮮人も多くいたということだ。
日韓の戦時補償問題がぶり返しているけれど、満州に関してはどう考えらえているのだろう。
ところで著者の一人の名前(玄武岩)でえっと思ったが、本名(ヒョン・ムアン/Hyun Mooam)のようだ。