『医学常識はウソだらけ』
少々古い本である。最新医学知識などが紹介されているわけではない。
であるけれど、私にはここに書かれていることの真偽の判断まではできないけれど、ベースとなる考え方はなるほどと思える。
多くの人が思っていることだろうけど、体に良いこと、悪いことという医学知識というのは、たびたび変わったりする。それも、90°変わる(無関係)とか、180°変わる(真逆)という変わり方をすることもままある。
生活習慣と疾病の関係については、さまざまな「知見」があるのだけれど、本書では、その多くは疫学的なもので、因果関係などは曖昧なものが多いとする。
疫学を「あたるも八卦、あたらぬも八卦」の易学という悪口もあるようだが、疫学がダメというわけではない。歴史的に疫学が人の命を救ってきた例はたくさんある。(逆に、疫学的手法で医療改革を試みたために異端扱いされて非業の死をとげた医者もいる)
序章 「医学」は「科学」にあらず | |
95歳にして50代の筋肉レベル/分子栄養学で失明を避けられた/「医学常識」は「科学の非常識」/「医原病」の恐怖/医者いらずで生涯現役 | |
第1章「医学常識」はウソだらけ | |
「食塩を摂りすぎると高血圧になる」のウソ/リンゴの生産地で高血圧が少ない理由/高血圧には、まず良質のタンパクが不可欠/血圧降下剤は血栓を引き起こす/コレステロールは、本来“健康の味方”である/コレステロールを善玉・悪玉に分けることの危険性/血糖値を下げれば糖尿病は治るのか/糖尿病の合併症退治こそ真の治療/合併症は「スカベンジャー」で避けられる/「動脈硬化は治らない」という医学常識のウソ/痛風にはビタミンAが有効/胃潰瘍、十二指腸潰瘍は、まずピロリ菌を疑え/風邪に特効薬はない/風邪を予防する知恵/インフルエンザには活性酸素対策を/三石式花粉症対策/動物性たんぱくの不足が不眠症を招く/腰痛・肩こりにはたっぷりのビタミン/関節炎、骨粗鬆症には、カルシウムよりもまず、タンパク質/貧血には鉄分よりタンパク質 | |
第2章 分子生物学こそ、ほんとうの医学 | |
人体のフィードバック作用の脅威/タンパク質の摂取は「量」より「質」が決定的/9種類の不可欠アミノ酸をどう摂るかがカギ/タンパク源として卵と大豆、どちらが優秀か/古い材料のリサイクルより、新品の材料こそ重要/分子栄養学は「個体差」の栄養学/なぜ、人間は病気になるのか/なぜ、メガビタミン主義が「健康の元」なのか/老化や病気の元凶は活性酸素/活性酸素は細胞の「電子ドロボー」である/活性酸素は「人生の伴走者」/細胞がガンになるメカニズム/ガンの発病には20年もかかる/ガン予防に不可欠なスカベンジャー/体を守る軍隊、ナチュラル・キラー細胞/注意すべきは、やはり活性酸素の暗躍/食物繊維を大量に摂れば健康にいいというウソ/ビタミンA不足が胃ガンなどの「上皮性がん」を招く | |
第3章 「健康常識」もウソだらけ | |
常識の逆―肉を食べない人は脳卒中になりやすい/「栄養のバランスが大切」というウソ/マーガリンとショートニングは“健康の大敵”/「バターやラードは体に悪い」のウソ/「卵はコレステロールの元」というウソ/生卵には要注意/タンパク質の補給は昼よりも夜/無農薬野菜には発ガン性の危険あり/玄米食は貧血を促す/砂糖を摂れば頭の回転がよくなる/なぜ、砂糖罪悪論が広まったのか/お酒を「百薬の長」にする上手な飲み方/早朝のジョギングやゴルフが命を奪う/激しい運動も活性酸素を大量に発生させる/有酸素運動は息が荒くなったところでやめる/筋肉は、どうすれば強くなるのか/ストレッチが有効な筋肉とは | |
第4章 医学で病気は予防できない | |
今の医学には病気を予防する力はない/栄養学の導入なしに医学の近代化はない/病気予防の「三種の神器」/NK細胞は「笑い」で増える/猫にはキャットフード、人間には「ヒトフード」/「快眠・快食・快便」は、ブタの生き甲斐 |
ただ、それでも確認できるのは相関関係で、因果関係が証明されるわけではないから、取扱いは注意が必要とされる。
それ以外に超越的なバイアスもある。
結果が評価されるためにかかるバイアスである。「医学常識」に反するデータは相当の精度のある研究を踏まえ、批判に耐える勇気がなければ発表されない。対して、いいかげんな研究でも、「常識」の追認であれば学界から歓迎されるから、発表されやすい(そしてほめたたえられる)。
真理は多数決で決めてはならないと思うのだが、「信頼性の高いメタ解析により」などと言う説明を目にすることがある。メタ解析とは複数の研究の結果を統合してより高度で信頼性の高い分析をすることと言うらしいが、論者に都合の良い研究だけ集めて分析して信頼性が高まるとは思えない。詐術に近いように思うがどうか。
また、通俗的に医学常識と言われるものには曖昧な表現、もっと言えば何を言っているのかわからない、非科学的な表現も健康関連の言説には散見される。
その一例は、かねてから思っている「バランスの良い食事」という言葉。
バランスとは何か、何で測るのか、それがわからないで、バランスが良いとは何をもって判断するのかということである。
私とは違う意味でだけれど、本書では、そんなものはないと言い切る。著者が重要とするのは、バランスというような相対的なものではなく、絶対的な必要量が重要だとする。そして摂り過ぎたものは、自然に排出される機構が身に備わっているから心配することはないと。
ただし、ミネラルの摂取については、バランスが重要であるとする。ナトリウムとカリウムの比率は0.6:1、カルシウムとマグネシウムは2:1。これは生物学で習うイオンバランスである。過剰なほうは排出されるとしても、それに余計なエネルギーを要し、活性酸素の発生が増えるという。
本書が少々古い知識に基づいていることを差し引いても、重要な指摘だと思うのは、病気とは何かにも関する次の著者の主張。
血糖値が基準以上であると糖尿病とされるが、糖尿病でおそろしいのは、網膜症や腎症、神経障害などの合併症である。血糖値が高いだけでは生活に何の支障もない。ところが医師は血糖値を下げることを治療目的とするので、必要な栄養が摂取できないというようなことも起こる。
病(というか診断基準数値)を治そうとして、患者の命を縮めるようなことになっては、本末転倒であろう。(著者が医者を信用しなくなったのは、この基本的なスタンスの違いが大きいようだ)
著者は医学畑ではなくて物理学が専門。
だから、物理学などの理科的な論理・推論、実験法などと、医学の方法の違いが目について、医学は科学とは言えないと考えているわけだ。そして私もそれに共感するところが多い。
もっとも著者のように、信念を持って大胆になれるかというと、いささか微妙。なにしろ、凡人は、どこも調子が悪くなくても、検査数値が悪ければ、どこか悪いところがあると考えてしまうから。(医者が三人いれば、病人を一人つくれるともいう)