東京に続く2024年、28年の二つの夏季五輪開催地が、パリとロサンゼルスに決定した。
カネのかかりすぎる五輪開催に意欲的な都市が激減したことを踏まえ、IOCが2大会の開催地を一度に決めたのだ。
ところが、IOCの中心的メンバーだった人物が、リオデジャネイロ、東京の招致運動の前後に、高額の時計や宝石を購入していたという調査結果が出ており、買収目的の資金が渡った可能性があるとの結論を出したことが分かった。英紙ガーディアンが14日報じた。
前国際陸連IAAF会長のラミーヌ・ディアク(セネガル)は、急死したプリモ・ネビオロ(イタリア)の後を受けてIAAFの会長に就き16年(1999年11月から2015年)に渡って務めた。
2020年夏季五輪の開催地が東京に決まったブエノスアイレスでIOC総会が行われた2013年、10人の陸上競技出身のIOC委員がいた。
ラミーヌ・ディアクにとって彼らやアフリカ出身のIOC委員を束ねることは難しくなかったのだろう。
ラミーヌ・ディアクと東京五輪招致委員会の間に入ったのはもちろん電通である。
東京五輪招致の裏金の問題のそもそもの発端は、女子マラソンのリリア・ショブホワ(ロシア)のドーピングが発覚した際に、彼女がロシア陸連に7000万円を払ったことに始まる。
その際に使われたのがシンガポールにあるBLACK TIDINGSの口座だった。
東京と2020年五輪の開催地を争ったのが、トルコのイスタンブール。
陸上競技は、サッカーを除けば、世界的にも最も人気の高い競技だ。
だが、IAAFの財政を支えているのは日本企業だ。
TBSがIAAFの各選手権の独占放送権を持っているほか、IAAF公式パートナー4社(トヨタ、TDK、セイコー、アシックス)は、いずいれも日本企業である。
ラミーヌ・ディアクが東京招致に協力するのは明らかかと思われていた。
これに対し、イスタンブールもIAAFに近づいていった。
トルコはそれまでIAAFの公式競技会を開催したことがなかったが、イスタンブールは2012年春に世界室内陸上選手権を開催した。
そして、同じ年に行われたロンドン五輪の陸上女子1500mでは、トルコのアスリ・カキルアルプテキンが金メダル、同じくガムゼ・ブルトが銀メダルを獲った。
トルコにとって陸上競技での金メダルは史上初の快挙だった。
ところが、ロンドン五輪の翌年、アスリ・カキルアルプテキンのドーピングが発覚し、やがて金メダルははく奪されることになる。
その時の経緯はこうだ
IAAFのラミン・ディアク前会長の息子でIAAFコンサルタントだったパパ・マッサタ・ディアクが、ロンドン五輪陸上女子1500mで優勝したアスリ・カキルアルプテキン(トルコ)のドーピング違反をもみ消す見返りに3万5000ユーロ(約450万円)の賄賂を受け取った。
カキルアルプテキンは違反が発覚して昨年(2015年)8月に8年間の資格停止処分と金メダル剥奪が確定した。(毎日新聞16年1月15日)
パパ・マッサタ・ディアクが、ロシア選手だけでなくトルコの選手をも餌にして私腹を肥やそうとしていたのだ。
IAAFは、毎年ダイヤモンドリーグという陸上競技のシリーズを開催している。
五輪や世界陸上とは別に、シーズン中に世界各地を転戦し年間総合王者を決めるというもの。
高額な賞金を売りものとし、スキーのW杯に似た形式だと思っていただければいい。
ダイヤモンドリーグは、その発足当初からスポンサーのサムスンの名を冠していたが、2011年の世界陸上大邱大会が終わると、サムスンは世界陸上とダイヤモンドリーグの両方のスポンサーを降りることになった。
IAAFのラミン・ディアクは、サムスンの後釜となるスポンサー企業を探した。
カネのにおいに敏感な彼は、五輪招致レースをしていたトルコと日本に、「IOC総会での票に繋がるから企業を紹介してほしい」と声を掛けた。
トルコからは世界室内陸上でも協賛した携帯会社のTURKCELL、TURKISH AIRLINESに打診したようだが契約には至らず、日本のキヤノンがIAAFのスポンサーに新たに加わった。
この時のことは英国の高級紙THE GUARDIANにも記事がある。
https://www.theguardian.com/sport/2016/jan/14/bidding-2020-tokyo-olympics-IAAF-scandal
(日本語訳)イスタンブールは、世界陸上か、ダイヤモンドリーグに400万ドル~500万ドルのスポンサーマネーを払わなかったため、トルコはラミン・ディアクのサポートを失った。トランスクリプトによると、日本はこれを支払った。
2012年11月15日 日本の新聞各紙にも以下のような記事が載っている。
キヤノンは14日、来年(2013年)から4年間、世界選手権など国際陸連が主催する15の大会に協賛することを発表した。カメラ、レンズのメンテナンスなどを通じて報道関係者を支援すると同時に、同社の印刷機器などが大会で使用される。
2012年11月という時期、400万~500万ドルという金額もぴったりだ。
世界陸上はその最初に行われた1983年から、日本企業の協賛を得てきた。が、いずれも長期に渡っておりキヤノンの4年間、しかも2013年~16年の4年間という短期は例がない。
キヤノンが「IAAFの依頼を受けて協賛した」というのは海外メディアも書いている。
2013年6月 地中海競技大会がトルコのメルシンで開催された。
大会中、トルコの陸上選手団に30名の大量ドーピング疑惑が浮上し、トルコ陸連の会長は8月に入り責任をとって辞任に追い込まれていく。
トルコの陸上選手のドーピング騒動が、IAAFの協賛を断ったから明るみに出たのか、それとも表に出るのが必然だったのか、それは判らない。
五輪開催地が決まるIOC総会が9月9日に開かれることを鑑みれば、直前の立候補国のドーピング大量摘発は、招致決定に何らかの影響があっただろうことは想像に難くない。
敢えて書くならば、この時期東京側は、東京からわずか250キロしか離れていない福島第一原発事故由来の汚染水問題が連日テレビを賑わしていた。
その中で、招致を争う国の不祥事は東京側にとって有り難かったのは間違いない。
現在、東京五輪組織委員長に森喜朗元総理がついていることは知られている。
では、名誉委員長は誰か?
元経団連会長の御手洗冨士夫キヤノン会長である。
どうだ、これでつながっただろう。
2014年1月29日付 御手洗氏の名誉会長就任を伝える新聞
経緯を時系列にしてみた。
2012年3月
世界室内陸上選手権トルコ・イスタンブールで開催
2012年7月
ロンドン五輪開催
女子1500mで、アスリ・カキルアルプテキン(トルコ)が金メダル
2012年11月
キヤノンがIAAFの公式スポンサーに決定
2013年6月
地中海競技大会がトルコのメルシンで開催
トルコ陸上選手団は30名の大量ドーピング違反
2013年7月
東京 1回目のブラック・タイディングス社へ1億円の送金
2013年8月
地中海競技大会のドーピング違反の責任を取り、トルコ陸連会長が辞任
2013年8月
ロンドン五輪女子1500m金メダルのアスリ・カキルアルプテキンドーピング発覚
2013年9月
パパ・マッサタ・ディアクがパリで高級時計などを爆買い
2013年9月
ブエノスアイレスでIOC総会 五輪東京開催決定
2013年10月
東京 2回目のブラック・タイディングス社へ1.3億円送金
フランス当局の捜査にもとづいて、検察局は2013年9月8日に、ブラック・タイディングス社は、シンガポールのスタンダード・チャータード銀行の口座から8万5000ユーロをパリのある会社宛てに送金し、それがマッサタ・ディアクが宝石店で購入した高額商品の支払いに充てられたことを明らかにした。
2014年1月
キヤノン会長御手洗冨士夫氏の東京五輪組織委員会名誉会長就任
2014年9月
IAAF 電通との代理店契約を2029年まで延長
2015年8月
ラミン・ディアクIAAF会長を退任
2015年11月
ラミン・ディアクIAAF前会長 ドーピング絡みの収賄発覚
2016年5月
フランス検察
「2020年東京五輪招致」の名目で、ブラック・タイディングス社の口座に2.3億円が支払われていたと公表。
2016年12月
キヤノンIAAFスポンサーを降板
2017年9月
ブラジル司法当局が、東京五輪招致の不正疑惑を巡り、招致委員会から当時IOC委員会で国際陸連会長を父に持つディアク氏に対し多額の金銭が渡った可能性があると結論付けた。