国立大学法人はいつまで子ども扱いなのか?(3)
第3に、出資対象の拡大については、多様なケースが考えられるので、適宜拡大していくことが望ましい。最近、産業競争力強化の一環で、法改正が行われたが、実態としては、国から巨額の出資を受けた東京大学・京都大学・大阪大学・東北大学に限って、当該資金を使える仕組みを整える措置が採られただけで、大学関係者の一部には期待感があっただけに拍子抜けだった。あえて4大学にだけ国からの出資金を支出した理由は定かではなく、かりに利益が出れば法人が自由に使えるのか、損失が出れば法人が負担し理事が責任を取るのか、裏事情がつまびらかではない。他大学は不可解に感じているが、羨むほどの話なのかよく分からないので、我が方にも出資金をもらいたいという声はあまり聞かない。素直に考えれば、JSTやNEDOのような独立行政法人に国から出資して、資金の活用を希望する大学が私学も含めて自由に応募できる仕組みにしてもらった方が、はるかに公平であり効率も良かったと思う。あえて財務省及び文部科学省が、4大学だけに出資する施策を採ったのは、よほど4大学のイノベーション創出力が飛び抜けていると判断したのだろうが、そうした根拠がどこにあるのだろうか?不可解な施策として記憶しておこう。
出資対象の拡大を検討する際には、私学の事例が参考になる。最もあり得るケースは、大学の業務の一部をアウトソーシングする受け皿会社を作ることである。「大学におけるアウトソーシング先進事例集」(平成21年3月、株式会社工業市場研究所)には、明治大学や法政大学などの事例が紹介されている。一部の私学では、外部委託によって人件費を削減するだけでなく、技術的知識が必要な業務を処理し、さらに、会社の利益を母体の私学に寄付の形でバックしている。こうした経営合理化策は、国立大学法人でも実施すべきであろう。出資の禁止を回避するために、理事らが自らの資金で会社を設立することも考えられるが、会社と大学との結合が私人の兼務によってなされることで、社会に不明朗な印象を与えることが懸念される。
また、別の可能性として、一定の都市開発に不動産を出資する形を取ることができれば、ハイリターンが期待できる民間との共同事業に参加する可能性が生まれる。国立大学法人は、寄付金くらいしか内部資金の蓄積がないので、不動産の活用で定期的に収益が入る事業に参加できることは魅力的である。単に不動産を貸し付けるだけでは、リターンが少ない。PFI事業を立てることも考えられるが、事業の採算というリスクがある。集客がうまく行かないと、赤字を背負うことがあり得る。したがって、不動産を出資する選択肢も加えて、それぞれの利害得失を検討できる余地を与えることが望ましい。
さらに、寄付金などの内部蓄積から、大学発ベンチャーへの出資を可能とすれば、イノベーションの創出を支援するとともに、上場による利益を享受することもできる。今は、そうしたことが禁止されているので、何らかの形で門戸を開くことが望ましい。大学がむやみとリスクを取ることは考えられないが、リスクを取らなければ、ハイリターンはなく、イノベーションも創出されないのである。
以上のように、経営の柔軟性を拡大することで、厳しい国際競争にさらされている国立大学法人が早く幼年期を卒業することを期待している。国にも、子離れを切に勧めたい。財務面で国に頼れなくなっている状況に鑑みれば、政策的後押しなくして国際競争に勝ち抜けない。それでなくても、我が国は世界大学ランキングで苦戦が続くに違いない。その責任は、結局、国及び国民が負わなければならないのである。
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