民訴教材:JASRACに集団的債務不存在確認訴訟
JASRACが、音楽教室から著作権使用料を徴収する方針を明らかにしたことをめぐり、ヤマハ音楽振興会などで作る「音楽教育を守る会」は、都内で総会を開き、会員の8割近くにあたるおよそ270社が、JASRACへの著作権料の支払い義務がないことの確認を求める集団訴訟を起こす方針を承認した。
民訴の授業との関係では、以下のような点が問題となる。
まず、(a)守る会が当事者として、構成員のための訴訟を提起することができるかどうか。
これには、(a-1) 守る会が法人格を有しているのかどうか、(a-2) 守る会が法人格なき社団として訴訟を提起できる能力を持っているかが問題となる。
(a-1)(a-2)のいずれかが肯定されたとして、債務不存在確認というのは各構成員がJASRACから請求され、または請求される可能性のある債権がないことの確認だが、(b) これを守る会が審理判断の対象として訴訟を提起できるのかが問題となる。
さらに、債務不存在確認請求は実際に債権の存否が争いとなって、債務者とされた人の法的地位に危険が生じていることが要件となるが、守る会の構成員には現実にJASRACから請求されている教室と、請求される可能性のある教室とが存在するだろうし、上記記事によれば守る会の構成員の2割ほどは提訴に消極的のようだ。
この場合に、守る会が原告となって債務不存在確認請求訴訟を提起するとすれば、紛争が現実化していないが提訴に賛成する(授権している?)教室についても不存在確認の利益があるといえるか、また守る会の多数決原理に基づいて提訴する場合には提訴に賛成していない(授権していない)教室の不存在確認も一緒に請求できるのか。
ここは「できると考えるべきか」という問題で、紛争解決機能としてそうあるべきなのか、それともあくまで個々の教室とJASRACの個別的権利義務関係であるから集団化はすべきでないと解すべきなのかが問われる。
以上のような問題は、債務不存在確認ではなく、例えば請求行為の差止めとか、教室の運営妨害行為の差止めという形に請求の趣旨を変えると、事情が変わるであろうか?
ざっとこんな感じの問題が民訴的には思い浮かぶ。
現実的には、守る会が提訴するのではなく普通に提訴したいという教室が原告団を作って訴えるということになるだろうが、その場合でも、「紛争が現実化していないが提訴に賛成する教室」が、この集団的な紛争という文脈で、普通なら訴えの利益を認められないところでも特に訴えの利益を認めるべきなのかどうかが、民訴的には大きな問題として、問われることだろう。
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