気持ちよく眠っているのに
誰かが俺を揺り起こす
それは優しくもあり
痛くもあって
「…ちょっ…なに?」
不満げに声を出すと
不満げに叩かれた
「ほら、早く起きてください!!
花火が始まってしまいますよ!!」
「…ぇ?」
よく見ればそれはチャンミンで
浴衣を着ている
白い浴衣が
彼の唇の赤を強調して
なんて魅惑的で艶かしいのかと溜息が出た
「ほら、早く!!」
気付けばリビングには誰も居らず
そろそろ始まるのかと起き上がる
「…チャンミン、似合ってる…」
「…っ、僕なんかより、ユノの方がよっぽど…」
さくらんぼのような唇を捕まえて
その甘さを充分に堪能して
それから胸元に唇を落とした
「ちょっ、ユノ、ま、ぁっ…」
思いっきり足を踏まれて飛び上がると
涙目のチャンミンが魔王のような顔で言った
「もう始まるって言ってんだよ…」
「…はい…」
仕方なく屋上に行き
指定された席に座り
皆で乾杯をした途端に
轟音が鳴り響いた
「…なっ…!?」
「間に合った…」
こんなにも近くで花火を見たのは初めてで
こんなにも綺麗なのかとみとれた…
色とりどりの花火は
夜空に大輪の花を咲かせては消える
それは儚く、だけど美しく
「大迫力…」
「ギリギリですよ…」
隣に座るチャンミンは
缶ビールを手にしていた
「いただきましょうか」
「うん」
俺は焼き鳥を手にして空を見上げ
爆音と共に夜空に花開く輝きに
ただ、何もせず
「…食べないんですか?」
「…花火、凄いな…」
「でしょ?」
こんなにも近距離で花火を見られるなんて
しかも座って
まぁ、隣の恋人は花より団子みたいだけど
「この唐揚げ美味しいですよ?」
「マジ?」
「ほら、ひとつどうです?」
「…あーん…」
「…自分で喰え」
「…花火が綺麗で無理」
「…馬鹿かっ…」
花火のせいで赤いのか
それとも恥ずかしくて赤いのか
あぁ、誰も居なかったらキスとかしちゃうのに
「…はい…」
「あむ……ぅまぃ…」
それからチャンミンは
まるで親鳥のように俺の口に料理を突っ込んで
恋人同士のラブラブな雰囲気とは何だかちょっと違う…と思ったけど
言ったら怒るだろうから黙っておいた
ふと来るときに車から見えた屋台を思い出し
あれはあれで堪能したいと思い
チャンミンに声を掛ける
「屋台のとか食べたいんだけど…」
「…はぁ?」
「折角だし」
「…あんた、僕がどうしてここで花火見る事にしたのかわからないのか?」
「…ちょ、ちょっと酔ってる?」
チャンミンの前に転がる空き缶は
思っていた以上にあって…
…この短時間でよくもまぁ…
花火を見て美味しい料理を食べて
きっと彼なりに楽しかったのかも知れない
「…わかった、行こう」
「…大丈夫か?」
「はぁ?大丈夫に決まってるぉ」
チャンミンは知り合いのかたに声を掛けると
俺の手を取り立ち上がった
「たこ焼きか?お?チョコバナナか?」
「…見てから決める」
階段をヨタヨタと降りて
それからサンダルを借りて
「…でもユノ、バレたら…」
急に不安になったのか、そんな事を言う
「大丈夫だよ、みんな花火見てるから」
「…うん…」
手を繋いでみたいけど
きっと駄目って怒るから
とりあえず今は我慢
屋台の並ぶ通りに出ると
色々な店があって目移りする
「あれは?」
「りんご飴」
「そっちは?」
「たこ焼き」
「悩むな…」
「僕はビール飲みたいな」
「まだ飲むの?」
「ツマミがいっぱい売ってますからね」
「…そうだね…」
焼き鳥とかなんだかよくわからないモノまで
沢山の屋台がある中で
「チャンミン、あれがいい」
「…わたあめ?」
「うん、わたあめ」
「じゃあ、僕は隣のフランクフルトにします」
チャンミンが並んでお金を払って
手にしたわたあめは
某海賊のイラストがプリントされた袋で
「おぉっ!!」
「うるさい」
思わず声が出たのだけれど怒られた
チャンミンは隣の屋台でフランクフルトを買って
それからビールも買った
「甘っ!!」
「砂糖ですからね」
「…雰囲気ぶち壊しなんだけど…」
チャンミンは酔ってるから
瞳がうるうるしていて
ほんのり赤い頬が可愛らしい
そんなチャンミンがフランクフルトを
大口開けて食べるとか
ちょっとエロ過ぎやしないか
俺は脳内で完全に違うモノに変換して
だけどよく考えたら噛み千切られているわけだし
痛くもないのに縮み上がる
「…そろそろ戻ろうか…」
「お?ユノ、満足?」
「うん、満足した」
「そうか…」
チャンミンは嬉しそうに微笑むから
何だかこっちまで嬉しくなって
バレる前に撤収できて良かった
.
にほんブログ村
- 関連記事
-