慶応大学に『グーテンベルク聖書』を売った洋書販売で有名な丸善で、実際にオークションに参加し、落札し、その後も調査をしていた社員だった方による本です。
当初、あまり本の内容については期待していなかったのですが、私の予想は大いに裏切られました。大変密度の濃い、充実した内容で書誌学的要素も豊富で勉強になるし、しかも大変面白い本です。
本書を読む前に私が漠然と抱いていた『グーテンベルク聖書』のイメージは、全然誤解していたことが分かり、まさに啓蒙された書でした。
世界中に現在49部が確認されていることや、グーテンベルクが販売したものは、その後に装飾師によってイニシャルや挿絵を入れることが前提になっていて現存しているものも全てが異なっていて、一つとして同じものがないことなど全然知りませんでした。と同時に何も知らないまま、「グーテンベルク聖書」を見ていたんだなあ~と改めて間抜けな自分を恥じ入るばかりです。
確か来年に慶応大学が開校○○年記念とかで「グーテンベルク聖書」を全国で公開する噂を聞きましたので、是非その時にはしっかり見直してみたいと思います!! (いつ、やるんだろう?)
しかし、アメリカって金があるから、グーテンベルク聖書もたくさん持ってるんだねぇ~正直意外というか驚きです。ほとんど信じていなくてポーズだけプロテスタントの国なのに・・・。
モーガン・ライブラリーなんて、なんと3部も持ってるとか、おいおい~やられましたです、ハイ! 絶対に見に行かねば!! ちなみに丸善がグーテンベルク聖書の購入意思を尋ねられた最初の相手は、このモーガン・ライブラリーだったようです。へえ~、さもありなん。
先日、友人から写本とかをたくさん持っているところとしてURLを紹介されたハンティントンだが、ここも本書にしっかり出てきて紹介されてます。やっぱ、こういうところが買うんでしょうね。
あと、グーテンベルク聖書って私の感覚からすると、すごい稀覯本で当初から大切にされてきたと勝手に思っていたのですが、全然そんなことなくって、販売した当時は写本より安いからってぐらいの扱いだったようです。
その為、この稀覯本には聖歌隊の歌手が落書きをしているものもあるんだって! うわあ~そんな扱いですか・・・。また、グーテンベルクが手本にしていた写本自体も問題があるあまり良くないテキストだったようで、聖書の聖句なのにたくさんの間違いがあるんだそうです。
それ故、購入した持ち主が余白部分に訂正する語句を記入したり、時には印刷された文字を消してその上に手書きで修正された跡があるものもあったりと、いやあ~実に愉快♪
私のイメージでは、完璧に完璧をきっする職人で一切の間違いのないテキストを誤字脱字などもなく、素晴らしく美しいレイアウトで作成したもの。それが『グーテンベルク聖書』だと思っていたんですが、それはあまりに現実離れした夢の世界の話だったようです。
ねっ、面白くってしかたないでしょう♪ そうそう、ちなみに丸善が落札した当時はブラック・マンデーのすぐ後でたいがいの資産家や大口の団体なども手を控えざるを得ない状況がかなり有利に働いて、想像以上に安く獲得できたんだって。最もそれでもその時には、世界で一番高い本ということでギネスに載ったそうです。
落札後の話なども大変興味深くって、丸善が落札したグーテンベルク聖書の最初の一文字のイニュシャルが本来『F』なのに装飾師が明らかにミスったらしく『Q』になってるとか。こんなミスは初めて見たというぐらいの決定的な間違いで、非常にレアな事例らしいです。
いやあ~、なんかワクワクしますね。本書を読んでから、実物を見たら、全然違って見えること請け合いです。ご興味のある方は、是非&是非読みましょう。本当に楽しめる本でした(笑顔)。
ちなみに、ここで紹介している写真は、本の中に入っていたグーテンベルク聖書のものです。
【目次】さまよえるグーテンベルク聖書(amazonリンク)
はじめに 高宮利行
第一部 グーテンベルクの生涯と作品
第一章 グーテンベルク生誕600年にちなんで
第二章 グーテンベルクの暦
第二部 さまよえるグーテンベルク聖書
第三章 ナチの手から逃れたグーテンベルク聖書
第四章 タイタニック号遭難とグーテンベルク聖書
第五章 グーテンベルク聖書の誤植
第六章 落書きされたグーテンベルク聖書
第七章 モスクワにあったグーテンベルク聖書
第八章 鎖付きのグーテンベルク聖書
第九章 写本としての売られたグーテンベルク聖書
第十章 グーテンベルク聖書のオークション
第十一 章装飾師による最大級の誤り
第三部 グーテンベルク聖書をめぐって
第十二章 グーテンベルク聖書の復刻版
第十三章 情報技術革命期のグーテンベルク聖書
第十四章 活版印刷術の発明をめぐる新しい見解
第十五章 過去1000年で最大の出来事
第十六章 『學鐙』にみるグーテンベルク聖書
参考文献
グーテンベルク関連文献
関連サイト
慶應義塾図書館稀覯書画像 慶應本グーテンベルク聖書と初期印刷本
【上記サイトより、慶応本の来歴】関連ブログ
15世紀から18世紀
マインツの修道院に長く保存されていたと考えられる。
19世紀半ば
ゴスフォード伯爵(Archibald Acheson, 3rd Earl of Gosford)が所蔵していた。
1878年
ロンドンの書籍業者ジェームズ・トゥーヴィー(James Toovey)がこの聖書を含む伯爵の全蔵書を購入した。
1884年4月21日
書籍業者パティック・アンド・シンプソン(Puttick & Simpson)が競売でこの聖書を購入。ロット番号は339番。落札価格は500ポンドだった。
?年?月?日
アマスト・オブ・ハックニー卿(Lord Amherst of Hackney )が購入。購入価格は600ポンド。
1908年12月3日
サザビー(Sotheby's)で行われた競売で、収集家ダイソン・ペリンズ(Dyson Perrins)の代理として書籍商バーナード・クォリッチ(Quaritch)が購入。ロット番号は78番。落札価格は2,050ポンド。
1947年3月11日
サザビーの競売で、フィリップ・フレール(Philip Frere)の代理としてマグス書店(Maggs Brothers)が落札。ロット番号564番。落札価格は2万2,000ポンド。
1950年10月
エステラ・ドヒニー伯爵夫人(Countess Doheny)がマグス書店を介してフレールから7万93.75ドルで譲り受けた。
1987年10月22日
クリスティー(Christie's)の競売で、日本の丸善が落札。落札価格は490万ドル。手数料を含めると539万ドル(7億8,000万円に相当)で、印刷本の落札価格としては当時の世界最高記録を更新した。
1996年春
慶應義塾大学が丸善より購入。
「グーテンベルクの謎」高宮利行 岩波書店
「グーテンベルクの時代」ジョン マン 原書房
印刷革命がはじまった:印刷博物館企画展
「本の歴史」ブリュノ ブラセル 創元社
プランタン=モレトゥス博物館展カタログ
「美しい書物の話」アラン・G. トマス 晶文社