「iPad:識者はこう見る」シリーズの第8回は,電子機器のUI設計などを手掛ける,ソフトディバイス 代表取締役の八田晃氏にiPadを触ってもらい,iPadの印象や操作感などについて話を聞いた。(聞き手:根津禎=日経エレクトロニクス)
タッチ・パネルのような直接触る入力手法の場合,自然な操作のためには,画面の情報やGUIに対してヒューマン・スケール(手や指などのサイズ)の影響が大きくなる。iPhoneでは指先でも操作が難しい場合があったが,その点サイズが大きいiPadのほうが,より楽に操作できる。
iPadのサイズは,指というより「手」のスケールに近いので,操作中に意図せず他の指や手の腹が触れるといったことに,今までよりも注意を払う必要がある。残念ながら,こうした意図しない入力への処理については,iPad向けの対策がまだ不十分である。
メモ・アプリやiBooksなど,Apple社が自ら開発したアプリは,細部まで作りこんでおり,非常にリアルである(図1)。映像表現をリアルにする事で,人が無意識に現実世界と同じ動作や作法で触らせようとしているようだ。ただし,課題もある。例えば,Apple社のメモ・アプリはシステム手帳に限りなく似せており,ユーザーの手書き動作を誘ってしまうにもかかわらず,実際は手書き入力に対応していない。
iPadでは,iPhoneに比べて,画面表示全体が一気に切り替わる場面が減っている。iPadのような大画面で,その表示全体が一気に高速に切り替わると,その切り替えにユーザーの目が付いていかず,不快と感じる恐れがある。しかも,切り替え速度が同じでも,画面サイズが大きいほどより早く感じやすい。そのため,iPadでは,分割表示やポップアップ表示を多用することで,この不快感を抑制しようとしている(図2)。
iPadは,例えば,工場や店舗,病院といった『現場』での作業にも向きそうだ。実際我々はこうした業務用の端末のUI設計をしており,iPadのように余計なものが一切ないシンプルなものが適していると考えている。