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ボストンで13年働いた研究者が、アカデミック・キャリアパスで切磋琢磨する方法を発信することをめざします。
ニューヨークタイムズの記事のうちここ数日最もよくクチコミ(メール)で広がった記事のひとつ、世界の貧困問題(Global Poverty)の取り組み方に関するちょっといい話”The Luckiest Girl(最高にラッキーな少女)”を紹介します。

最高にラッキーな少女はウガンダ出身ベアトリス。今年コネチカット・カレッジを見事に卒業しました。ウガンダ出身の少女がアメリカのカレッジを無事卒業するのは簡単なことではありません。多くのひとの助けが必要でしたが、彼女の成功を助けた立役者はちょっと変わっています。彼女の成功に大きく貢献したのは”一匹の山羊”なのです。

ベアトリスはウガンダ西部の貧しい農家の生まれ. 幼いときから勤勉な彼女は家で家族を助けながら勉強し、ウガンダでは希少な読み書きのできる少女となりました。そして、もっと勉強するために、学校に行くことを切望していましたが、彼女の家庭にそんな経済的余裕はありませんでした。

同じ頃米国コネチカット州の小さな町ニアンティックの教会では、何か世の中に役立つことにお金を使うことを話し合っていました。そして、アーカンソーにある慈善団体Heifer Internationalをとおしてアフリカの農家に山羊を何匹か贈ることにしました。Heifer Internationalのオンライン・カタログによると山羊は一匹一万円余り(120ドル)でした。

教会が贈った山羊のうちのメス一匹がベアトリスの両親に届き、そのメスはやがて双子を生みます。子山羊が乳離れしたのち、両親は山羊のミルクを子供の栄養補給に使い、余ったミルクを売りました。そしてその蓄えたお金で長女であったベアトリスを学校に入れてやることができました。ベアトリスは非常に喜び、一生懸命勉強しその学校で一番になりました。

ベアトリスの学校を訪れたアメリカ人のひとりは、彼女のストーリーに感銘を受け、"Beatrice's Goat" という本を書き、この本は2000年のベストセラーになります。

Heifer Internationalの慈善事業家らはベアトリスのストーリーに心動かされ、彼女を奨学金を与えます。この奨学金のおかげで、ベアトリスはウガンダでベストの女子高生となり、マサチューセッツの高校へ進み、そしてコネチカット・カレッジに入学します。

のちにHeifer Internationalのイベントで経済学者のJeffrey Sachsは、ベアトリスのストーリーのことを:

ベアトリスの経済発展定理:小さなインプットが大きなアウトプットを生み出せること

と談まじりで話したそうです。

もちろんベアトリスのサクセス・ストーリーの背後には、何百、何千、何万の発展途上国援助の失敗例があることは確かです。Global Povertyの問題はあまりに大きく個人の取り組みはあまりにも無力と感じずにはいられないでしょう。しかし、ベアトリスと山羊の物語は、心に響くストーリーが世界を変える力を持っているのだということを教えてくれます。(反対に世界を動かすストーリーの怖さを忘れたはいけませんが....)

なお、ベアトリスはアーカンソー州のクリントン・スクール・オブ・パブリック・サービスで学位を取ったのち、アフリカに戻りエイド・グループとして貧困問題に取り組み予定らしい。ベアトリスの経済発展定理はもっと大きなアウトプットを生むことを証明するでしょう。







テーマ:ことば - ジャンル:学問・文化・芸術


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プロフィール

Motomu Shimaoka

Author:Motomu Shimaoka
島岡 要:三重大学医学部・分子病態学講座教授 10年余り麻酔科医として大学病院などに勤務後, ボストンへ研究留学し、ハーバード大学医学部・准教授としてラボ運営に奮闘する. 2011年に帰国、大阪府立成人病センター麻酔科・副部長をつとめ、臨床麻酔のできる基礎医学研究者を自称する. 専門は免疫学・細胞接着. また研究者のキャリアやスキルに関する著書に「プロフェッショナル根性・研究者の仕事術」「ハーバードでも通用した研究者の英語術」(羊土社)がある. (Photo: Liza Green@Harvard Focus)

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