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ボストンで13年働いた研究者が、アカデミック・キャリアパスで切磋琢磨する方法を発信することをめざします。
ハーバード大学分子生物学部の昨年 (2006) のPrather記念講演は、米国のアカデミックセレブリティの一人であるUCLA地理学教授Jared Diamond博士が「文明」について人類生態学的観点から考察するという分子生物学部としては非常にユニークなものであった。

Diamond博士は、ハーバード大学で生物学を学び、ケンブリッジ大学で生理学で博士号を習得後、研究領域を人類生態学と広げ、UCLA生理学教授を経て、現在は同校地理学教授である。作家としても有名であり、1998年に「Guns, Germs, and Steel (邦題: 銃・病原菌・鉄)」でピュリッツァー賞を受賞している。「Guns, Germs, and Steel」はニューヨークタイムズベストセラーに100週間以上ランクインしている。2005年に出版した「Collapse(邦題:文明崩壊)」もまたベストセラーである。

ハーバード大学での講演では、文明の「多様化」「崩壊」「繁栄への条件」をテーマに3日におよび講演をおこなった。講演は大盛況であり、のべ3000人近い聴衆を集め、講堂に入れない2000人以上の人々にもモニターを通じて放映された 。

Diamond博士によると、文明の「多様化」は民族的背景よりもはるかに強く環境的要因に影響を受ける。文明が多様化し繁栄すると、それにともない環境破壊が進み、これが文明「崩壊」の契機となる。「崩壊の契機」に直面したときに、文明が巻き返して「繁栄」していくか、そのまま「崩壊」に向かうかは、社会の核となる価値観(Core value)を再評価し、選択的に書き換えることのできる危機管理能力にかかっている。危機管理の失敗例としのイースター島の文明崩壊と、成功例としての江戸時代の日本の文明繁栄の比較は非常に興味深い。

・失敗例「イースター島」
イースター島はかって森林に覆われた緑の島であったが、文明の繁栄に伴い木材を大量に消費した。森林を伐採し、住居、漁ための船、またモアイ像建設のためのそりに木材を使用した。無計画な伐採は森林を完全に破壊し、最後の一本の木が切り倒された後間もなく、森林破壊 (deforestation) を契機とした食糧難は頂点に達し、餓えた人々による無惨な内戦状態を経てイースター島文明は消滅したと考えられる。

・成功例「江戸時代の日本」
イースター島同様、江戸時代の日本は住宅とくに各地での城の建造ラッシュにより木材需要は急激に増加し、徳川幕府は森林破壊の危機に直面していた。しかし、イースター島文明と違い、徳川幕府は迅速にトップダウンで対応し大幅な森林伐採の規制による需要の抑制と、当時世界で初めての植林による供給の増加をはかり、文明崩壊の危機を未然に回避することに成功した。

Diamond博士はこの徳川幕府のトップダウンによる危機管理を非常に高く評価している。また、 博士は日本の戦後めざましい経済的発展にも触れ、Core valueはそのままにしつつ、海外の良い面をどん欲に吸収する日本人の力を、優れた危機管理能力の非常によい例としてあげている。この機会に、私は歴史的に見た日本の危機管理能力の高さを再認識し、日本人として非常に誇らしい気持ちになった。しかし、講演の最後で、会場からのグローバリゼーションの文明崩壊に対する影響に関する質問に答え、Diamond博士は”熱帯雨林は現在、過剰伐採による森林破壊の危機にあるが、伐採された木材の最大の輸出先が日本である”ともコメントしている。


テーマ:本の紹介 - ジャンル:本・雑誌

"Evolution is the Blind Watchmaker"

難解である。見る価値があるかどうかもよくわからない。しかし、気にかかる。

わかった方はどうぞコメントを。



Wikipedia "Straw man"より

ストローマン (straw-man argument)とは、議論において対抗する者の意見を歪めて、それに基づいて反論するという誤った論法、あるいはその歪められた架空の存在自体を指す。語源は仕立て上げられた架空の存在を藁人形に見立てたことから。

ストローマンの手順

・相手の意見を歪めた説明を相手が提示したものとして引用する。
・これに対する自らの反論を示し、論破されたものと扱う。
・相手の意見に同調する不完全な擁護意見を持ち出し、充分な主張・再反論がされたように見せかける。
・批判されて当然である(本来無関係でも一見関係のありそうな)問題や考え方を創造し、さも相手側の意見はこれを象徴するものとして強く非難する。

簡単な例:
A氏「私は子どもが道路で遊ぶのは危険だと思う。」
B氏「そうは思わない、子どもが外で遊ぶのは良いことだ。A氏は子どもを一日中家に閉じ込めておけというが、果たしてそれは正しい子育てなのだろうか。」




テーマ:ことば - ジャンル:学問・文化・芸術

理科離れ対策に「博士」の先生増員を 学術会議が要望(Asahi.com)

「学者の国会」と言われる日本学術会議は22日、子どもたちの理科離れを防ぐために大学院で学んだ「博士」や「修士」の教員を増やすとともに、すべての小学校に理科専任の教員を置くことなどを文部科学省や各地の教育委員会などに求める要望をまとめた。


いかにしてこのプロポーサルを「教育現場(生徒&現役教師)」と「理科専任になる博士」双方にとってWin-Winのかたちで実行するかはまだ未知数であり、その点で批判・不満・不安も多いだろう。

しかし、これは双方にとって大きなチャンスである。「5号館のつぶやき」のstochinaiさんの:

ともかく、できることはどんどんやってきませんか。>すべての皆さん


は正しい。

「大学理系学部側がすべきこと」でとくに重要はことは「いかにして優秀な理科・数学教師を育てるか: 米国でのとり組み」で書いたように:

・研究と同じくらい教育は価値のあることであるというメッセージを本気で学生におくる
・情熱をもって学校教育にとり組んでいる経験豊富な現役教師を招聘し、大学教官とともに学生をメントリング (Mentoring) する


さらに、教師は現場で育つと思うが、第一期生の「理科専任になる博士」には就職後現場で理科専任のプロからの助言をえる機会が得がたいかもしれない(自分以外に理科専任がいない場合がほとんどであろうから)。たとえば、第一期生どおしがお互いに授業を参観して批評しあう”ピアー・レビュー’が全国レベルでネットでできるシステム(ネット授業参観)はどうであろう。

第一期生はパイオニアとして当然リスクを負わなければならないが、先行者投資から得られるものは非常に大きい可能性がある。(つまり、おそらく理科専任博士教師の枠も有限であるので、近い将来ポストはうまり、良い意味でも悪い意味でも希少価値が出る。その価値の生かし方はもちろん本人次第ではある)

関連エントリー:
いかにして優秀な理科・数学教師を育てるか: 米国でのとり組み
<http://harvardmedblog.blog90.fc2.com/blog-entry-91.html>

Ph.D.を優遇する提案:柳田充弘の休息時間
<http://harvardmedblog.blog90.fc2.com/blog-entry-63.html>




テーマ:教育問題について考える - ジャンル:学校・教育

Stephen R. Coveyが言うように個人がHighly effectiveになるためには時間管理術(Time Management)がクリティカルに重要である。同じことが地球温暖化問題(Global Warming)に直面している個人の総体としての社会(ソサイエティー)にも当てはまるのではないか。

Stephen R. Coveyによると、Important(重要性)とUrgent(緊急性)の違いを認識することが個人がHighly effectiveであるために、まず最初に学ばなくてはならないことである。アクティティビティーは「Importantであるかどうか」と「Urgentであるかどうか」で4つの範疇(Quadrant)に分類することができる(下図)。

例えば、デスクで鳴っている電話はUrgentであるが、多くに場合はImportantではないのでQuadrant IIIに分類される。プロジェクトのプラニングや自分の仕事の中・長期的ゴールの設定などはUrgentではないが、クリティカルにImportantなのでQuadrant IIに分類される

Quadrant II Time Management (by Stephen R. Covey):

長期的展望に立ったプラニングこそプロジェクトの成功に不可欠であり、Quadrant IIに分類されるアクティビティーに十分な時間とリソースを投入出来ることがHighly effectiveであるためのカギである。


Quadrant IのアクティビティーはUrgentかつImportantなので、とにかく今すぐとり組まなくてはならない。しかしながらUrgentなアクティビティーは通常Importantの程度に正比例せず、常にvisibleであるため、(1日24時間しかないので)Quadrant IIIのアクティビティーが本来Quadrant IIに投入されるはずの時間を浸食する。
AAA

実際のHighly effectiveパーソンの例としてDeming Prizeを受賞した企業のビジネスパーソン(下図:)とその他の企業のビジネスパーソン(下図:)を比較すると、Quadrant IIとQuadrant IIIにかける時間の比率が逆転しているのがわかる。

また、本来Quadrant IIに分類されるような「締め切りまで30日あるような重要なレポート作成」でも、しっかりした実行のためのプラニングを怠ると、締め切り直前になってあわててしなくてはならないため、Quadrant Iに分類された結果、直前のやっつけ仕事となり(=レポートのクオリティーが低下)、徹夜で作成しスタッフは疲れ果て(=リソースの消耗)、フェデックス(またはバイク便)で送らなくてはならなくなる(=経費の増大)。
BBB


さて、地球温暖化を防ぐためのTime Managementとは:

University of Washington-Seattleの倫理学学者Stephen Gardinerによると

地球温暖化は我々が” the right thing”を遂行する能直を問う"perfect moral storm"である。地球温暖化のインパクトは日々感じるには小さすぎる(が、確実に進行して行く)。したがって、将来のより大きなベネフィット (=Quadrant II) を取るために、今 (=Quadrant III & IV) を犠牲にしなくてはならない。
climate change (represents) a "perfect moral storm" because it uniquely tests our capacity to do the right thing (cut emissions)........ That the most severe impacts won't be felt immediately means we have to sacrifice today to protect generations yet to come.......
-EMOTIONAL RESCUE by Chris Mooney, SEED Maganize-


「ゆでカエル」になることを避けるためには、ソサイエティーのレベルでのQuadrant II Time Managementが必要なのではないか。

関連記事:Time Magazine, "51 Things We Can Do to Save the Environment"



テーマ:環境・資源・エネルギー - ジャンル:政治・経済

プロフェッショナルになるためには、数多くの職業の選択肢を捨て、退路を断ち一点集中にしなくてはならないと書いた。(25回:理系のキャリアの選択肢が狭いことは悪いことか

また、職業人として充実した人生(strong life)をおくるためには、弱点を克服することに主眼をおくよりも、得意なことをひたすら伸ばすStrengths-based アプローチをすべきであるとも書いた。(自分の強みを知り、Strong Lifeを生きる:StrengthsFinder)

そういう観点から見ると、高校の時点で文系と理系進学コースへの半ば強制的な分離は理にかなっている。文系・理系の選択はふつう、英語/国語が得意なら文系で、数学/理科が得意なら理系である。「将来何になりたいか」や、「大学で何を学びたいか」より、むしろ「今何が得意か」で早い時期にキャリアを選択することは議論はあるだろうが、Strengths-based アプローチの教育への導入という観点からは正しい。

「好きこそ物の上手なれ」は必ずしも常には真ではない。むしろ「好な物を上手になりたい」という願望や、「好きな物」と「上手な物」が一致した非常に幸福な人たちの拡大解釈である場合がかなりあるのではないか。

「好き」な対象は成長とともに変化していく(変化し得る)が、「得意な物」は本質的に変化しにくい。

「好き」は可塑性がまだ期待できるが、「得意」は驚くほど可塑性が低い。

本当にしたいこと(=好きなこと)がなかなか見つからないと嘆く必要はない。重要なのは「得意なこと」を見つけることだ。


テーマ:大学受験 - ジャンル:学校・教育

「理系の大学院生は従来のアカデミア以外の職業の選択の可能性を知り、[純粋な] 研究能力だけでなく幅広いスキルを身に付けることでキャリアの選択肢の幅が広がる。」基本的にはこれは良いことであると信じられていると思うし、私も理系のためのノン・アカデミックキャリアの紹介をしてきた。

しかし、ここでバランスをとるためにアンチテーゼを

理系のキャリアの選択肢が狭いことは本当に悪いことか?



1)研究者はプロフェッショナルである。プロフェッショナルは(例えば野球選手にみられるように)キャリアの早い時期に広い選択肢を(結果的に)捨て、退路を断ち、背水の陣でその道に集中することで成功が可能になる(そのうち一部が成功するにすぎないが、野球も、将棋も、受験勉強もしていればその一部になれる可能性はさらに低くなる)。

2)選択肢が多いことは必ずしも幸せな選択につながらない。選択肢の吟味にかけられる時間と労力は限られている。Barry Schwartzの「The Paradox Of Choice: Why More Is Less」が言うように、選択肢が多くなると人は幸せを感じるよりもむしろ圧倒されて選択することに麻痺し、その後何年も選択しなかった可能性について後悔するものである(あっちのほうが実はよかったのではないか)。

「一芸に秀でたるはすべてに通ずる」であり、特殊(=選択肢ゼロ)をきわめることを通して、普遍(=無限の選択肢)を見た方が良い場合が、理系には多いのではないか。

3)これは想像であるが、非典型的なキャリアで成功したひと(例えば医学部を卒業して、紆余曲折の後証券会社のシニアマネージメントになったひとがいるとすれば)は、多くの選択肢があったからそうなったのではないと思う。おそらく当時は本人にとってはその選択肢しかなかったから非典型的なキャリアを選ばざるおえなかったのではないか。そして唯一の選択肢を背水の陣でがんばったから次の選択肢が現れたのではないか。しかし、ふりかえって考えるといろいろなドットが結ばれて別の意味や大きな意味が見えてくる。

大学時代に麻雀をやったが、あまり強い方ではなかった。わたしの麻雀の基本戦略は上がり手の可能性を広げることであった。「三」「四」と続きで持っていて「二」か「五」を待つ方が、「三」「五」を持っていて「四」のみを待つより上がる確率は高いが、上がれるとは限らない。引きの強いひとは「四」を引いてくる。

「専門バカ」は「悪い」のか。おそらく今はそうであろう。なぜなら「専門バカ」が多くて希少価値が低いので。しかし、みんなが幅広く浅い知識とスキルを身に付けた角のとれた人材になっていけば、突出した「専門バカ」の希少価値は上がり、マイクロマーケット(=自分の世界)では「非常に良い」になるであろう。

屁理屈をこねて、あげ足取りのようになったが、理系大学院教育がプロフェッショナル教育でもある(or あるべきである)という視点を強調したかった。


理系のキャリアの選択肢が狭いことは本当にすべてのひとに悪いことなのだろうか?





関連ブログ
20代バイオベンチャー社長の会社経営奮闘記: ブログでバイオ リレーエッセイ 第23回「理系の院生のキャリアの選択肢は狭いのか?」
<http://blog.livedoor.jp/marucom_com/archives/51044335.html>

5号館のつぶやき:【ブログでバイオ】 maruさん第23回へのコメント
<http://shinka3.exblog.jp/6345335>


関連エントリー
理系研究者の新しいキャリアとしてのコンサルティングファーム:実験医学2007年2月号
<http://harvardmedblog.blog90.fc2.com/blog-entry-9.html>

自分の世界でトップになるためにすべきこと:Dip
<http://harvardmedblog.blog90.fc2.com/blog-entry-96.html>

医者をやめる:キャリア・チェンジとプロフェッショナルのサイコロジー
<http://harvardmedblog.blog90.fc2.com/blog-entry-8.html>


PS: Jun 20, 2007 (EST)
WEB2.0(っていうんですか?)ITベンチャーの社長のブログ」さんの提言どおりエントリー名に「25回」を追加。「ブログでバイオ リレーエッセイ」に参加する。

PS: Jun 23, 2007 (EST)
幻影随想の黒影さんが、これまでの「バイオ リレーエッセイ」をアグリゲートしたリンク集を作成してくださいました。
<http://blackshadow.seesaa.net/article/45529118.html>


PS: June 23, 2007 (EST)
私は過去の自分のエントリー「キャリアパスの選択:いかに選択するか」で”理系研究者のキャリアパスの選択の幅が広がることはマクロな視点では間違いなく良いことである......今後は理系研究者はキャリアパスの「選択肢がない」から「選択肢はあるが、選択しきれない」という状況に直面する可能性がある.....大切なのはどの道を選ぶかではなく、選んだ道でどう生きるか”であると書いている。

テーマ:研究者の生活 - ジャンル:学問・文化・芸術

トップ科学ジャーナルのひとつネイチャー(Nature)を出版しているNature Publishing Groupが革命的な動きに発展するかもしれないエクスペリメンテーション(Experimentation)をはじめた。ピアーレビュー(Peer Revieiw; 同じ領域の研究者による査読)なしに投稿された論文を(ほぼ)すべて掲載する新しい科学雑誌Nature Precedingsを立ち上げたのだ。

ピアーレビューは議論はあるが(arguably)現在実質上最も信頼できる論文の審査法であると考えられている。3大トップジャーナル(Nature誌、Science誌、Cell誌)を含むほとんどの科学雑誌や、政府(NIH、NSF)への研究費申請書の審査も、基本的にピアーレビューで審査される。

しかし、ピアーレビューにも問題がある。

問題1:時間がかかる  審査が厳密である分時間がかかることである。ほとんどの投稿論文がピアーレビューであげられた批判コメントや追加実験の要求に応える必要があるため、論文投稿から掲載までは通常数ヶ月から数年(複数のジャーナルにレジェクトされた場合、または数回のrevisonを要求された場合)を要する。

問題2:捏造など不正を完全には見抜けない  最近のいくつかの例からもわかるように、いくら数人(通常2~5人)の専門家が厳しく査読しても完全には不正を見抜けない。また、競争相手など利害関係にある研究者の査読は過度のバイアスがかかる場合がある(一人のレビュアーの「この論文は何ら大きな問題はないが、General interest に欠ける」というバイアスのかかったコメントが、その論文の運命を左右し得る)。

従来のピアーレビューの問題点を解決すべく、Nature Precedingsは投稿された論文はキュレーターとよばれるエディトリアルスタッフのスクリーニングをパスすれば、投稿から24時間程度で掲載されるようだ。

そして、その論文の評価は”みんなの意見”(The Wisdom of Crowds)に委ねられる。つまり、基本的には誰でもコメントでき、よいと思った論文には投票できるvote機能がある。査読はネット上で”みんな”が行うのだ。

私は知らなかったが、このような試みは物理学の領域では長らくarXiv.orgのように、最新の知識をコミュニティーに提供する方法として使用されてきたそうだ。

まさにThe Wisdom of Crowdsがサイエンスの分野で試される時がきた。Nature Precedingsの今後の動向が楽しみだ。


テーマ:研究者の生活 - ジャンル:学問・文化・芸術

論文やグラントを書く能力は研究者として生きて行くためには磨き続けなくてはならない力の一つである。マサチューセッツ工科大学 (MIT) での「Technical Writing」のコースで強調していることの一つがアブストラクトの重要性である。

論文で最も大切なパーツはアブストラクトだ
(ABSTRACT is the single most important section in a report or journal article.)



日々出版される新しい科学論文の数は膨大である。一部のトップジャーナルと自分の領域に直接関係する専門誌に掲載された論文を除いて、普通の週刊誌を読むように目次から論文を読むということはない。ほとんどの論文は雑誌の目次からは読まれない。ただ、Pubmedで検索されるだけだ。

研究者が目を通さなければならない科学論文の数は膨大である。したがって、ネイチャーの目次でもPubmedでの検索リストにせよほとんどの論文はタイトルで読む必要なしと判断される。そして、ほんの一握りの論文のみアブストラクトが読まれ、研究者の貴重な時間を費やして全文を読む価値があるか判断される。よって、読者に全文を読んでもらうには、その気にさせるアブストラクト・ライティングが重要となる。

しかしさらに、一日24時間と限られた時間内で研究者がカバーすべき情報量がますます増えるなか、たとえ同じ領域の研究者においても、Pubmedで表示されるアブストラクト(+タイトル)のみで多くの論文は評価される。

自分の論文はサイエンス・コミュニティーにおいて99%に近い確率で、アブストラクト(+タイトル)としてのみ消費されることを認識(覚悟)する必要がある。

周知のように、

アブストラクトのポイントは (Abstracts focus on:)
・目的 (Purpose of research);
・結果 (Principle results);
・結論 (Major conclusions).



であるが、優れたアブストラクトを書く重要なTipsは:

1)本当に重要(クリティカル)な情報のみを入れる
2)できる限りSelf-containedにする(アブストラクトだけ読んで理解できる)
3)本文が完全に完成してからアブストラクトを書く(自分の中で内容が完全に消化された後で)
4)アブストラクトを書く十分な時間を最初から計算に入れる(これは重要!!)
5)読みやすさ(Readability)を意識する(専門領域外の人からのフィードバックを)
6)略語・略記は広く知られているもののみ使用する


当然のことばかりであるが、すべてを実践するのは容易ではない。



関連エントリー:
Pubmedを賢くする
<http://harvardmedblog.blog90.fc2.com/blog-entry-85.html>


PS: June 23, 2007
関連ブログ:
柳田充弘の休憩時間 Intermission for M. Yanagida「論文を自分で書く





テーマ:教師のお仕事 - ジャンル:学校・教育

アカデミックな研究者は好きなことを追求する贅沢を許された職業であるとか、研究者とは本当に好きなことを追求しなければならない(それをしなくなったら本当の研究者とはいえない)というレトリックを日本で大学院生をしていたときに先輩方から教えていただいた。

「好きなことを(仕事として)する」という言葉にはポジティブに人のこの心に共感するちからがある反面、同時にネガティブなニュアンス(そんなことは実際には無理)も惹起する。

実際に、梅田氏のストレートなメッセージ:

直感を信じろ、自分を信じろ、好きを貫け、人を褒めろ、人の粗探ししてる暇があったら自分で何かやれ。


は非常に多くの反響を呼んだ。

そこで、研究者にとっての「好きなことをする」を解剖してみると、大きく2つのエレメントに分けることができると思う。

1)そのテーマ自身(または方法論)が好き。
これは狭義での「研究者とは本当に好きなことを追求しなければならない」の「好き」に当たる。極論をいえば、そのテーマがどれほど困難であっても、またどれほど競争が激しくとも、また逆に世間が(レビューアー)がそのテーマはどれほど陳腐であると批判しようが、あなたはそのテーマが(そのテーマについて考えることが、そのテーマに関する実験をすることが)好きでたまらない。

2)あるテーマで優れたパフォーマンスを発揮している自分が好き。
これは非常に戦略的な考えで、テーマや方法は問わず、優れた論文を生産し世間(サイエンス・コミュニティー)に大きなインパクトを与えることで達成の喜び「好き」を体感する。基本的的には大きなインパクトは多くの研究費や良いアカデミックポストにつながる。この場合テーマは世間が十分に重要であると認識している(または近い将来認識する)ものでなくてはならないが、困難さと競争の程度は自分がDipをこえてトップになれるほどのレベル(高すぎない)でなくてはならない。

2の亜型として「普遍」に迫るために最も効率のよいテーマ「一つの特殊」を選び、「特殊」という入り口からついには「普遍」まで突き進むという戦略もあるであろう。


アカデミアの研究者は「好きな仕事」を選べる自由度は基本的には非常に高い。しかし、研究費やポストの争奪競争がますます激しくなる中では(1)の好きを貫く贅沢はなかなか許されない。しかし、「好き」をもう少し大きくとらえ、(1)と(2)がほどよくブレンドしたどこかの中間点「少しくらい(1)の好きを曲げても、(2)の好きを大事にしたい」に落ち着かすことができれば、好きなことを追求する贅沢を十分に味わえるのではないか。

関連エントリー
自分の世界でトップになるためにすべきこと:Dip
<http://harvardmedblog.blog90.fc2.com/blog-entry-96.html>

関連ブログ
404 Blog Not Found 「好きを仕事にするな、仕事を好きにしてしまえ」
<http://blog.livedoor.jp/dankogai/archives/50847323.html>



テーマ:教育問題について考える - ジャンル:学校・教育

dip
ヤフーの元マーケティングディレクターSeth Godinはマーケティングのグル(カリスマ)として知られている。Seth Godinの最新刊「The Dip」は素晴らしい。彼の著書のなかでも最高である。そのサブタイトルが「いつ仕事を辞めるべきか(または残るべきか)がわかる小冊子 [A Little Book That Teaches You When to Quit (and When to Stick)]」とあるが、洋書のビジネス書籍のなかでも日本人のメンタリティーに非常によく合う一冊である。

この本の肝は日本人なら誰でも理解できるこのコンセプト:

将来のために今の苦労を厭わない

を戦略的にビジネス・コンサルタント風にリフレイズしたものに近いが、重要なプラスアルファがある。

1)自分の世界で一番になることが成功の必要条件である。
マーケット(商品だけでなく人材も)は高度に多様化し、またインターネットにより瞬時に無限に近い選択肢がアクセス可能である。この無限に近い選択肢は人びとを精神的に豊かにしただろうか。Barry Schwartzの「The Paradox Of Choice: Why More Is Less」が言うように、あまりにも多数の(普通は数十以上)の選択肢を提示されると、ひとは選択肢の豊富さに喜びを感じるのではなく、むしろ圧倒され麻痺してしまい自分でよく考えて選択することを放棄してしまう。そして何らかの(客観的に見える)基準を自分の外にもとめる。多くの場合それが売れ筋ランキングであり、よく売れている(多くの人が使っている)のだから間違いないだろうという発想である。その結果ランキングトップのものはさらによく売れ、メガヒットとなる。つまり「トップになるための最大の戦略はドップになることである」というパラドックスが生まれる。

世界(マーケット)でトップになるのは簡単ではない。ほとんど不可能に近い。しかし、自分の世界(マイクロマーケット)でトップになるのは可能である。なぜなら、「自分の世界」を決める自由度は自分にあるのだから。

例1:あるひとが腰痛を見てもらう世界の名医を探す場合、多くの場合自宅から通院できる範囲内の整形外科医であり、「世界」はめったにその地方外やましてや海外まで広がらない。したっがて、その地方でトップの腰痛専門の整形外科であることは成功の必要条件である。

例2)セミナーの講演者を探す場合にもある特定の分野の専門家で、話しが面白いという評判があり、当日来てくれる(できれば近く)という要件が「世界」を規定する。したがって、全世界に行く前に「まずは自分の研究室、その次には自分の研究所・大学、さらには数時間以内にアクセスできる地方、そして自分の国」で「そのトピック」を研究しているひとたちの集まりが、研究者にとって順次広げていく「自分の世界」である(その中でトップになることが成功の必要条件)。

2)Scarcity makes values
しかし、いくら「自分の世界」設定しようにも自分と同じような能力、スキル、リソースを持った人がたくさんいれば自分は「交換可能」な人材でしかない。ほんの少しだけ早く、安くする人が選ばれ「誇り高きプロフェッショナル」にはなれない。

そこで、経済の基本原則「Scarcity(希少さ)が価値を生み出す」を思い出そう。Scarcityが「自分」を価値のある、交換不可能なものにする。さて、「Scarcity=自分と同じ(市場価値のある)能力をもつひとが非常に少ない」という状況はどんなメカニズムで創られるのであろうか? その肝がDipである。

Dip Chart13)Dip makes Scarcity.
Dipのコンセプトは右図のようになる。何事も最初は新鮮で楽しい。ビギナーズラックも手伝いProductivity/Happiness(縦軸)も上がっていく。しかし、そのうち何事にも壁が訪れる。そこではProductivity/Happinessが極端に落ち、とても苦しく、誰もが辞めたい、途中下車したいと強く思う。これがDipである。

Dipは例えば、
・学歴・資格取得のための長期間の学習
・低収入(無収入)&重労働のトレーニング、インターン、下積み
・高度のストレス、重大な責任
・単調でクリエイティブでない仕事
・長期間の年功序列
・耐え難い職場の人間関係
・暗礁にに乗り上げた、なかなか結果のでないプロジェクト・事業
等々

そして、このDipで多くのひとがドロップアウトしてしまう。Dipを超えたものだけがScarcity(希少価値)を享受することができる。

したがって、Dipの途中で辞めることは、それまでに賭けた時間と努力を無駄にする。

dead endそれでは、何でも辛抱して続ければいいのかというとそれはちがう。上図のようにDipの向こう側でScarcityに伴いproductivity/happinessが著しく上昇する場合のみDipをこえる価値がある。いくら辛抱してもまったく報われないCul-de-Sac (フランス語でデッドエンド、右図)はDipではない。

Cul-de-Sac に貴重な自分の時間を費やしてはならない。その道がDipかCul-de-Sacかを歩き始める前に見極めることが重要である

さらに、一歩進んで、

Dipのあるキャリア・パスを戦略的に選び、希少で交換不可能な「自分」をつくる。

そして、その場合のみ「将来のために今の苦労を厭わない」が正しいキャリアアドバイスである。

そして歩き始める前に4/11のエントリー「世界でトップになるためにすべきこと」にある7つの質問を吟味し、Dipを乗り越えられるかReality Checkをしよう。

Sethによれば、「自分の世界」でトップになれないのは(=Dipを乗り越えられないのは)「きちんと計画できていない」か「ゴールにたどり着く前にやめてしまう」からである。

1. You run out of time (and quit).(時間がなくなって途中でやめてしまう。

2. You run out of money (and quit).(資金を使い果たして途中でやめてしまう。

3. You get scared (and quit).(失敗するのが [または成功するのが] 怖くなって途中でやめてしまう。

4. You’re not serious about it (and quit).(実はそれほど本気ではなかったので途中でやめてしまう。

5. You lose interest or enthusiasm or settle for being mediocre (and quit).(情熱を失いほどほどで妥協してしまい途中でやめてしまう。

6. You focus on the short term instead of the long (and quit when the short term gets too hard).(長期的な視点をもっていないので、目先の困難にくじけて途中でやめてしまう。

7. You pick the wrong thing at which to be the best in the world (because you don’t have the talent).(自分のstrength(s)にマッチしないテーマや仕事にとり組んだため途中でやめてしまう。)


[関連エントリー]
世界でトップになるためにすべきこと
<http://harvardmedblog.blog90.fc2.com/blog-entry-64.html>

[関連ブログ about 交換不可能]
小野和俊のブログ「梅田望夫氏が言うように、好きなことを貫いて仕事にしていくためにはどのようにすればよいのか」
<http://blog.livedoor.jp/lalha/archives/50167531.html>







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元気でproductivityの落ちないシニア研究者と若手研究者へのポストの慢性的不足、これは日本だけの問題ではない。バイオメディカル研究領域での一流誌Nature Medicine2007年6月号のエディトリアルでこの問題がとりあげられている。

まず、この記事より米国での数字をまとめると:

・ハーバード大(Faculty of Art and Science)では2006年テニュア教授の10%が70歳以上(1992年には0%)(なお、米国のメジャーなResearch Universityでは定年退職[mandatory retiremant] はなく、命がつづき、研究費をとれる限りポジションを維持できる)

・米国政府(NIH)より研究費を得ている55歳以上の研究者は2003年度は全体の22.7%をしめる。(1983年には9.7%)(オーストラリアでは米国R01グラントと同等のグラントの50%が50歳以上の研究者で占められ、若手 [30-34歳] は6%)

・Ph.D.習得後5~6年の(ポスドク)の後、独立したアカデミック・ポジション(テニュアトラック)に就くことのできる人の割合は20年間で34%から14%に低下。

・NIHより最初のR01グラントをとることができる(=独立した研究者のあかし)年齢は25年間で37歳から42歳に上昇。(ドイツで同様のケースは現在41歳)



同エディトリアルは

Only a small minority of today's PhD graduates can realistically expect long-term careers in university research(この一文がNature Medicineのエディトリアルに掲載されたインパクは小さくはないと思う。この意味は後々フォローする予定).



という現状を認めたうえで、早期定年退職の導入は「多くのシニア研究者がproductivityを維持している」現状では得策でないとしている。そして、日本やシンガポールの研究機関でむしろ定年を延長していることを紹介している。

それでは解決法は?

シニアと若手の双方のバランスをとることがサイエンスの活性化維持に不可欠であり...
Both young and old scientists need to be nurtured. To achieve this balance, which is essential in maintaining scientific vitality....



としたうえで、(魔法のような解決法はなく)一定の年齢を超えれば、ポジションは後進にあけわたすがproductivityが続くかぎりオフィスとラボを維持する権利をもち、数年毎に契約を更新するシニア・フェロー制度のような米国、カナダ、オーストラリアでの取り組みを紹介している。



さて、一つ大きな仕事をすれば、そして一旦ファカルティーポジションにつけば、それでずっとやっていけるキャリア・モデルは終わりつつある(もう終わっていると思う)。シニアも若手も同じ土俵でポジションと研究費を競い合うフェアーなシステムの実現が必要であろう。また若手を育てるという意味ではある程度ハンディをつけることも必要であろう(NIHがnew PIのグラントの評価を意図的にすこし甘くしているように)。また、多くのキャリアパスやキャリアブランク、さらには再チャレンジを許容し閉塞感を軽減する観点からも、ハンディは生物学的年齢ではなくキャリア・パスでの年齢(Ph.D.取得後の年数や、メジャーなグラントを得た回数)をもとに考慮されるべきであろう。




テーマ:研究者の生活 - ジャンル:学問・文化・芸術

WikinomicsWikinomics: How Mass Collaboration Changes Everything」はマス・コラボレーションとオープンソース・ビジネスモデルの大きな可能性についての現時点でのまとめである。Wikinomicsの例としてとりあげられているものには:
・Linux
・Wikipedia
・MySpace
・YouTube
・Flickr
・Human Genome Project
などがある。


この中ではFlickrを「写真をベースにした社交の場で、多くの綺麗で面白い写真がながめられて楽しいな」くらいのものととらえていた。しかし、Blaise Aguera y Arcasの開発したインタラクティブ3DスペースクリエイションソフトPhotosynthを見て、私がいかにFlickrのポテンシャルを過小評価していたか思い知らされた。

マイクロソフトのPhotosynthのデモ


(私の理解では)PhotosynthはFlickrで共有されている風景写真のデジタル情報をもとに(衛星からの情報などなしに)地上のあらゆる構造物を3次元(インタラクティブ3Dスペース)に再構築でき、さらにWeb上の個々の風景写真とそのインタラクティブ3Dスペースとをハイパーリンクでつなぐことができる。たとえば、自分の撮った1枚の金閣寺の写真をクリックすればCollective Intelligenceである立体のバーチャル金閣寺につながり、マウスで操作してあらゆる角度から金閣寺をながめることができる。

同様のコンセプトを巨大なバイオメディカルの業績の集積 (Collective Intelligence) であるPubMedにも応用できないだろうか? 論文の画像を集めてて3次元に再構成するレベルのことを提案しているのではない。論文の情報を関連づけそれを3次元の意味のある形に投影できないだろうか。現在でもPubMedは関連した論文を自動的に表示するが、感覚的には1次元である。今は「3次元PubMed」をうまく言葉にできないが.....すごい可能性があると思う。

関連エントリー:
Pubmedを賢くする
<http://harvardmedblog.blog90.fc2.com/blog-entry-85.html>

少し時間のある方はBlaise Aguera y ArcasのTED Talkでのプレゼンテーション(約9分)もご覧下さい。

Blaise Aguera y ArcasのTED Talkでのプレゼンテーション



テーマ:映像・アニメーション - ジャンル:学問・文化・芸術

政府官僚と現場の科学者との価値観の大きな違いが科学 & 技術革新における国際競争力を落としている大きな要因である。日本の話ではない。6月3日のワシントン・ポストのオピニオンによると:

科学者の仕事(技術革新)とはリスクをとることであるが、官僚の仕事はリスクをさけることである。この世界観のミスマッチが予算の不適正配分を引き起こし、グローバル化の進む21世紀において米国の(科学)技術力での”一人勝ち”状態維持を難しくする。これは国家安全保障を脅しえる重大な問題である。
Technology is about taking risks. Government bureaucracy is about avoiding mistakes. The mismatch between the two is creating a funding squeeze that could undermine America's dominance of the new technologies that will be crucial to the nation's security in the 21st century.)



米国政府のバイオメディカル研究費の大部分を配分するNIHは同記事によると非常に保守的な予算配分をしてる。ブッシュ政権ではNIHの総予算ののびが止まったこともあり、NIHグラント (R01) を得るにはそのプロポーサルが成功することをほぼ保証するようなpublicationと詳細な予備データが必要であり、

NIHは”未来でなく過去をファンドしている”
(The NIH) is "funding the past, not the future," one scientist complained.



という不満も少なくない。

米国国防総省関連のDefense Advanced Research Projects Agency (DARPA)はマイクロマシーン、バイオテロリズム、災害医療などに関連した基礎研究に対する予算を配分し、NIHよりはるかにリスク・テイカー (risk taker) であったが、そのDARPAでさえplay safeになりつつある。

リスクをとらなければ米国が一人勝ちを維持できないのは明らかである。なぜなら、世界中にはリスクをとることを恐れないハングリーな人々、リスクをとることを何とも思わないほど情熱的な人々が数多くいるからだ......



テーマ:政治・経済・時事問題 - ジャンル:政治・経済

アル・ゴア:かっては(自称)インターネット普及の提唱者を売りのひとつとして大統領選に臨んだがブッシュに敗れ、一時は”OUT”になったかと思われた。しかし、今度は環境問題(地球温暖化)の活動家として自分を”Re-invent”した”不都合な真実”のアル・ゴアの動向を私は興味をもって見ている。

タイム・マガジンのフォトエッセイに出ていたゴアのオフィスの写真は大変興味深い。3連のモニター(アップル?)はコンピューター通らしいし、壁の熱帯雨林にいそうなカラフルはカエルのオーナメントは環境問題活動家にマッチしてないこともない。

しかし、デスクの書類の山はすごい!!

整理整頓できることとProductivityやAchievementとは相関がないという話しを A Perfect Messで読んだことはあるが....

Al Gore’s Office

テーマ:政治家 - ジャンル:政治・経済

サイエンス誌2007年6月号に「PREPARING TEACHERS」と題して中学・高校教育をになう優秀な理科・数学教師を育てるための大学理系学部の取り組みが特集されている。以前は教育学部の仕事であった理系教師の育成を、Research Universityの理系学部(理学・工学・農学部などに相当)が本気でとり組もうとしている。

その背景にあるのが、2005年にNational Academyが出した564ページにわたる詳細な提言「Rising Above The Gathering Storm」である。この提言はLamar Alexander & Jeff Bingaman 両上院議員からの”質問”

「米国がScience&Technologyの分野で世界を凌駕し、21世紀でも引き続きグローバルな覇権を握るためのトップ10の戦略とは何か?」
What are the top 10 actions, in priority order, that feral policymaker could take action to enhance the science and technology enterprise so that the United States can successfully compete, prosper, and be secure in the global community of the 21st century? What strategy, with several concrete steps, could be used to implement each of those actions?



に答えたかたちをとり、そのトップに来るものが:

10,000 Teachers, 10 Million Minds, and K-12 Science and Mathematics Education



という教育リフォームの政策である。これは1万人の優秀な理科・数学教師を育て(そのために、ひとり年間2万ドルの奨学金(返済不要)を4年間あたえる)、一人の教師が将来的に1,000人の理系学生を育て上げれば、1,000万人の理系学生が生まれるというスローガンである。(K-12とは幼稚園 [kinder] から12年生 [高校3年生]という米国でのfree public educationのこと)

しかし、教育リフォームは簡単ではない。サイエンス誌の記事によると、Research Universityが優秀な理系学生を優秀な理科・数学教師に育てるために必要なことのトップに上がっているのが:

「(研究と同じく)教育は価値のあることであるというメッセージを学生におくる」
Sending talented undergraduates the message that teaching is valued.


ことである。日本の多くのResearch Universityと同様に米国でも「研究」に比して「教育」は低く見られる傾向にあり、サイエンス誌の記事によると「研究キャリアに進むものが勝ち組、教育キャリアに進むものは敗け組とみられがちである。」このような意識を改革することは簡単ではないが、ひとつのとり組みとしての:

「情熱をもって学校教育にとり組んでいる経験豊富な現役教師を招聘し、大学教官とともに学生をメントリング (Mentoring) する」
Enlisting experienced classroom teachers in shaping curriculum, mentoring students, and working with faculty members.



ことがある。大学の理系教官による指導だけでなく、学生に実際の教育現場で”機能”している元気なひとの情熱とエネルギーに直接触れてもらうことは「教育は価値がある」というメッセージをおくるストレートな方法であろう。

PS: June 24, 2007
関連エントリー:
「Ph.D.を優遇する提案:柳田充弘の休息時間」
<http://harvardmedblog.blog90.fc2.com/blog-entry-63.html>





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生物学者やエンジニアが例えば地球温暖化 (Global Warming) について聞かれたときに、専門外なのでよく知りませんと平気で答えてしまうことがあろう。しかし自分の専門科学分野をかためるあまり、専門外の科学領域での無知を恥じず、むしろ「ある特定分野での専門の深さの証(あかし)」のように考えるのは科学者の傲慢であるという意見をどこかで聞いて、なるほどと思った。

ところで昨日、ブッシュ大統領がついにCO2削減に前向きな声明を発表した:
ニューヨークタイムズ”Bush Proposes Goals on Greenhouse Gas Emissions
朝日新聞”「来年までに温室ガス削減目標」米大統領、協議を提案

これを機会に地球温暖化と米国政府の政策について、子供に聞かれた時には答えられるぐらいの知識は身に付けようと思い「週末1時間で地球温暖化が学べる」オンライン・リソース、とくにムービーを探した。

おすすめはPublic Broadcasting Serviceの硬派のドキュメンタリーシリーズFrontlineの「Hot Politics」。約8分のムービーが8本の約1時間で:

「地球温暖化が問題にされはじめたのはいつごろ、どんなふうに?」
「”不都合な真実”のアル・ゴアがクリントン政権の副大統領だったときは何をしていたの?」
「どうして米国はCO2削減に乗り気でない(なかった)のか?」

などの質問には答えられるようになる。(英語の勉強にもなる)

とくに3本目のムービーでは石油会社などのEnergy Industryが広告代理店(コミュニケーター)や科学者を雇い「CO2増加は実は地球(人類)に良いことである」という間違ったメッセージを伝えようとしていた様子は滑稽で、興味深い。その一部がYouTubeにあがっていた。

"Carbon Dioxide: they call it pollution; we call it LIFE." ????









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プロフィール

Motomu Shimaoka

Author:Motomu Shimaoka
島岡 要:三重大学医学部・分子病態学講座教授 10年余り麻酔科医として大学病院などに勤務後, ボストンへ研究留学し、ハーバード大学医学部・准教授としてラボ運営に奮闘する. 2011年に帰国、大阪府立成人病センター麻酔科・副部長をつとめ、臨床麻酔のできる基礎医学研究者を自称する. 専門は免疫学・細胞接着. また研究者のキャリアやスキルに関する著書に「プロフェッショナル根性・研究者の仕事術」「ハーバードでも通用した研究者の英語術」(羊土社)がある. (Photo: Liza Green@Harvard Focus)

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