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ボストンで13年働いた研究者が、アカデミック・キャリアパスで切磋琢磨する方法を発信することをめざします。
就職難博士に「求職中」マーク 応用物理学会が考案(朝日新聞2007年07月29日16時41分

大学院で博士号を取得した人の就職難が深刻化するなか、国内屈指の大学会である応用物理学会(約2万4000人)が、求職中を示す「キャリアエクスプローラーマーク(下図)」を新設した。同学会は企業人が約半数を占めることから、求職中の博士らが学会で発表する際にマークを明示することで、企業への就職に役立ててもらいたいとしている....
......口頭発表ではスライドの1枚目のタイトルページに、掲示発表ではタイトル付近にこのマークを表示できるようにする。学会には企業の研究所長や部長クラスも参加しているので、興味があれば、その場で「面接」することも可能になる.....



career個人的にはこれはかなりいいアイデアであると思う。ハーバード大のキャンパスで開かれたジョブフェアーやセミナーに参加したが、そこで一様に言われることは「ジョブハンティングで最も重要なことはネットワーキングである」。しかし、ネットワーキングは簡単ではない。見知らぬ重要なひとに初対面で自分を売り込むことは簡単ではない。まず"shyness"を克服しなければならない。会話を始めるきっかけを見つけるのは簡単ではない。「キャリアエクスプローラーマーク」は「形から入ることで」この最初の障壁を下げることができるのではないか。発表のスライドだけでなく名札につけてポスターセッションやレセプションでネットワーキングに生かせば良いと思う。

ネットワーキングはある程度までは学習可能なスキルである。何回か失敗して恥をかけば、その後は"shyness"や”fear"もずいぶん少なくなるであろう。学会会場をネットワーキングのトレーニングやワークショップの場と考えれば「キャリアエクスプローラーマーク」は有効な「ファシリテーター」として機能する可能性が十分あるだろう

デザインは好き嫌いがあると思うが、シンプルで「求職」を暗示しないもののほうがよかったかもしれない.....




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エントリー「Googleの戦略をまねするのは簡単ではない」でコメントさせていただいた5号館のつぶやき「20%ルールって 【追記:関連記事】」に100以上のコメントが寄せられポスドクの雇用問題等で白熱した議論が続いている。議論の焦点は広義での当事者:「ポスドク」「研究室主催者(教授)」「大学」「企業」「政府」の誰にどういうようにアプローチするかである。

ポスドク本人の自己責任や企業の雇用方針を攻める意見も一理あるが、私は「ハードSFと戦争と物理学と化学と医学」のinoue0さんのコメントに賛同する。

....(ポスドクの雇用が困難な [or 困難になる可能性の高い] 現状は)求職者個人の努力ではどうにもならなくて、大学による採用支援活動が必要なんです......大学側からのアプローチが必要とはそういうことです。指導教授のコネだけでも不足ですね。



アカデミアが生み出す知的価値は獲得予算額・発表論文数・特許の数などで短期的には評価されるかもしれないが、中・長期的にはどんな人材を生み出したかで評価される(べきである)。米国に比べ企業の中途採用の難しい日本では、理系大学のPh.D./Postdocに対する就職支援機能を高めることは非常に重要である。個々の研究室レベルではなく大学のカリキュラムとして体系的に行うできであると思う。個々の研究室では「研究の方法」を全体のカリキュラムでは「仕事の方法」をトレーニングし、「事務」で就職支援をする。

米国ではファカルティーのプロモーションの審査では、今までトレーニングした学生・フェローの全員の名前と現在の就職先とポジションを自分のC.V.に記入するが、この部分はメンターとしての能力を評価する非常に重要な指標となる。教官(ひいては大学)のメンター力をプロモーションや社会での評価に体系的に組み込むことは、学生・ポスドクのトレーニングや就職支援に教官(や大学)がエネルギーを注ぐインセンティブになる。

カリキュラムの充実には予算が必要であるが、質の高い教育と職業トレーニングを提供ことができるのなら授業料も米国レベルにまで引き上げることも必要になるかもしれない。奨学金やグラントからの給料として出すシステムが完備するまでは、米国のように低金利ローン等でサポートするしかないであろう。

ポスドクは米国のシステム(ポスドクのあとはすぐに独立したファカルティーで、ノンアカデミックのポジションもある程度豊富)ではうまく機能している。トータルのジョブ・セキュリティーはあまり高くないが、米国ではポスドクは「挑戦して失敗してもやり直しのきく」キャリアの1ステップである。ポスドクは自分で積極的に行動することは求められるが、未熟でもよい。したがって、米国のアカデミアでは就職支援システムもそれほど必要とされない(とりあえず、挑戦したほうが早いので)。

日本でも10~15年前までは、バイオメディシンを研究している人はそれほど多くなく、領域も発展途上であった。情報量は少なく飛び込むには勇気(または無知)が必要であったが、未熟でも許された。私も含め現在アカデミアでファカルティーをやっている人(の多く)はその時代のひとである。未熟であることで批判などされなかった。しかし、現在は多くの領域が成熟してしまったので、情報量は多いが競争は熾烈である。未熟ではやっていけない。未熟であることが「人間力」に欠けるなどと批判される。逆説的に聞こえるかもしれないが、成熟した領域においてこそ支援が必要である

7/29追記:
関連ブログ:
5号館のつぶやき「博士の就職」
stochinaiさんが100以上のコメントによる議論をまとめていらっしゃいます。

大隅典子の仙台通信「誰がアクションするのか?」
大隅さんが同様のお考えでグローバルCOEを画策中です。”一緒にチャレンジしてくれる博士やポスドクさんがいたら大歓迎です”

テーマ:科学・医療・心理 - ジャンル:学問・文化・芸術

米国の大学院でPh.D.を取得するにはどれくらいかかるのであろうか。私は日本でPh.D.を取り、ポスドクから米国に来たので大学院の事情(統計データ)は正直言ってよく知らなかった。ハーバード大学では5~6年程度との印象があるが...

Nature誌7月号で取り上げられたthe Council of Graduate Schools(教育委員会のようなもの)の29大学316のPh.D.プログラムの調査では、

57%の学生が大学院10年生までにPh.D.を取得している。(4割が10年目までにPh.D.を取得できていない)


この結果をどう見るか?Nature誌のGene Russo氏のコメントはむしろポジティブで

そんなに悪くない(Completion rates aren't as bad as some had feared)


としている。歴史的にみると良くなってきているらしいのだ。(Council of Graduate Schoolsによるデータを下に示す。)

確かに米国のPh.D.学生の仕事は素晴らしいものが多いと感じる。ポジティブに見ればこれだけじっくり贅沢に時間をかけたPh.D.プログラムを維持できる教官と世間のメンタリティーさらに社会のインフラ(奨学金や低金利ローン)が米国の底力であろうか。


Phd-1


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メディカル・イラストレーターとは (Wikipedia):

ビジュアル・アートを使いこなすサイエンス・コミュニケーター(意訳)
A medical illustrator is a professional artist who interprets and creates visual material to help record and disseminate medical, biological and related knowledge.


メディカル・イラストレーターDavid Bolinskyの作った細胞の中の営みを美しく表したコンピューター・アニメーションをYouTubeですでにご覧になった方も多いと思う。今回、BolinskyのTEDtalkでの約10分のトークがアップロードされたので早速紹介する。

David BolinskyはScientific Animation Company XVIVOの創始者の一人であり、かってイェール大学医学部のシニアメディカル・イラストレーターであった。彼は現在行われているサイエンスの教育はあまりに高度化されすぎ、生命の美しさを学生に伝え切れていないことに不満を感じていた。そして、ハーバード大学分子生物学部門のファカルティーと共同で細胞の営みの美しさを学生に伝えるためにThe Inner Life of the Cell is a Biovisions at Harvard initiativeに参画した。

百聞は一見にしかず。このアニメーションよりうまく細胞の美しさを学生に伝えることができるであろうか。

David Bolinskyは2つの点においてパイオニアである。まず、コンピューター・アニメーションがサイエンス・コミュニケーションの非常に強力な武器であるということを見事に表現した(YouTubeなどWeb2.0も彼に味方した)。さらに彼はサイエンス・コミュニケーションでビジネスをたちあげることができることも示したのだ。

3分間の”The Inner Life of the Cell”を含むDavid Bolinskyの10分のトークを楽しんで下さい。


テーマ:科学・医療・心理 - ジャンル:学問・文化・芸術

Eメール管理術をうまくまとめたプレゼンテーションをオープンソースのひとつslideshare.netで見つけた。Inboxは少し油断すると多数のメールでいっぱいになってしまう。これは精神衛生上良くないこときわまりない。David Allen がGet Thing Done (GTD)で言っているように、Productivityを上げるための時間管理術の基本は頭の中のRAMを最大限に空にしておくことである。人間の頭脳のRAMは有限 (finite) であり、また1日も24時間と有限である。小さなことでも気にしなければならないことを複数かかえていると、頭脳のRAMを占有してしまい、本業のクリエイティブな仕事のために使用できる精神のRAMをくわれてしまう。また、RAMに何かを抱えているといつまでも仕事が終わった気がしない。逆に頭のRAMを空にできれば仕事が終わった達成感を味わえ”ストレス・フリー”の精神状態を保つことができるというのがGTDの考え方。

そこでRAMを空にする”ストレス・フリー”の仕事術の基本を、Eメール管理術で学ぶことができる。




Merlin Mannのプレゼンテーション「Inbox Zero」によると、Eメール管理術のポイントは「アクション指向の”プロセス”」をすることでInboxを常に空にする(=ストレス・フリー)こと。

Eメールを”プロセスする”とは単に”チェックする”ことより少しだけエネルギーを要するが、”レスポンスせよ”ほど高い要求でもない。”プロセスする”とはEメールを受け取ったら次の5つのどれかのアクションを起こすことである。

1) Delete
必要ないメールはすぐにDelete(削除)またはアーカイブする。

2) Delegate
自分に関係ないまたは、自分には時間的and/or能力的に対処できなければ、適切な人にまかせる(Delegate by Forward)。

3) Respond
すぐに返事できることで、かつ返事すべきであればRespondする。

4) Defer
すぐに(数分以内に)適切なアクションが思いつかなければ、別のBoxに移して後で考える。(このBoxにメールがたまる可能性があるが、Inboxを空にしてストレス・フリーの状態をつくり、Productivityを上げることがprimary goalであるので良しとする。)

5) Do
メールの内容によっては、すぐすべきことがあればすぐDoする。

日々「Inbox Zero」を目指しているが、時として(バケーションなどでメールの”プロセス”を怠ると何百というメールがたまることがある。全部”プロセス”すれば1日かかる。そんなときの最終手段は(ある本で読んだのだが)全部Deleteすること。本当に大事なメールなら返事がなければ相手は必ずもう一度連絡してくるはずである.....





テーマ:スキルアップ - ジャンル:就職・お仕事

『「ニート」って言うな!』の著者のひとり本田 由紀氏の朝日新聞でのコラムより:

...「人間力」を磨けなどと言っている場合ではない...
...世の中が不透明化し、煙が渦を巻きながら立ち込めているような状況で、個人はどうやって対処していけばいいのか。とても大変な課題です。その中で、教育界や財界、政府などがそれぞれ、「人間力」とか「社会人基礎力」とか「就職基礎力」を身に着けさえすれば何とかなるといった言説をせっせと生み出している。一般の若い人にとっては「そんなこと言われても」と戸惑うような漠とした無責任な要請を、権力や諸資源を手にした年長世代が投げかけている。

 ほんの一握りの起業家を目指すような若者は、確かに主体的で創造的な個人でしょう。もちろんそういう人はいるけれど、そのイメージをすべての若者に当てはめて働く意欲を喚起・動員するという発想は、成功や失敗の責任を個人に転嫁しているだけで、何の解決策も提示していない。せめて、周囲から、完璧な強い人間になれと若者を追い立てることはやめて欲しいですね (2007/06/03)


(はてなダイアリー)ー人間力とは
学力やスキルだけでは量ることのできない、人間としての総合的な魅力のことらしい。

「人間力」という言葉は”哲学用語”であり、思考を停止させる。
本田氏の意見に同意する。「人間力を磨けは」哲学としては許されるが、仕事上で本気で要求するようなことではない。(少なくとも新人のリクルートで要求するようなものではない。リーダークラスの人材のヘッドハンティングでは許されるかもしれないが...)

なぜなら、「人間力」という「超包括的概念」を持ち出した時点でスペシフィックな「各論」を議論する価値がなくなる(もしくは、まともに議論する意欲がなくなる)。「人間力」とは何でもありである。人間に関することは何でも人間力といえる。人間が生きていくためにすることは何でも「人間力」と言うことができる。

しかし、勉強やトレーニングで磨くことができるのはスペシフィックな「各論」としてのスキルやナレッジのみである。100のスキルも一つ一つなら学習可能であるが、漠然とした「超包括的概念」のままではどうしようもない。「この仕事には”人間力”が必要である」と本気で採用側が考えているのなら、それは本当に必要な人材の資質やスキルがわかっていないのと同じである。この仕事には「カリスマ」が必要ですといっているのとあまりかわらない。

「人間力」は哲学である。哲学者とての意見でないのなら「人間力」のひとことで総括する前に、スペシフィックな「各論」としてのスキルをあげたほうがいい。

「人間力」の重要な構成因子としてよくあげられる「コミュニケーション力」も玉虫色で超包括的ある。「アカデミックの人間はコミュニケーション力に欠ける」といわれると非常にこころ苦しい。

コミュニケーションは技術より人柄とモラルだということ

ーfinalventの日記「社会に出た後で学んでおくべき12のこと」よりー



アカデミックの人間は人柄とモラルに欠けるのか?『「君はコミュニケーション力に欠ける」って言うな!』



テーマ:労働問題 - ジャンル:政治・経済

「博士余り」解消へ「20%ルール」!?物理学会が提言
 若手の研究者は、仕事時間の20%を自由に使って好きな研究を――。日本物理学会(坂東昌子会長)が、こんなユニークな提言を発表する。「20%ルール」は米企業「グーグル」などが取り入れて、社員のやる気を引き出しているが、学会が呼びかけるのは異例。背景には、博士号を取得しても、希望する研究職につけない「博士余り」の問題がある。若手博士の視野と発想力を広げ、企業など幅広い分野で活躍させるのが狙いだ。(2007年7月16日3時4分 読売新聞



この提言に対して5号館のつぶやきのstochinaiさんが示された「違和感」に私も同意する。

まず、この提言にネガティブなコメントを2点:

1)多くの優れた伝説的戦略は「たった1つのキーワード」で語り継がれるので、一見シンプルに見えるが、実際には複数のクリティカル・コンポーネントからなるものである。
グーグルの「20% Free time」戦略も、その前提にあるものが(a)最高に優秀で創造性の高い人材をリクルートし、 (b)インタラクティブで知的刺激にあふれた労働環境を与えることである。
(a)Google Labs Aptitude Testなど、単なる秀才以上の人材をリクルートすることにグーグルは莫大なエネルギーを注いでいる。
(b)グーグルは"small, focused teams and high-energy environments"の提供にコミットしている。(参考:Top 10 Reasons to Work at Google

2)どのような優れた戦略でも弱点や問題点があり、長所のみを取り入れることは基本的にはできない。清濁合わせ飲まなくてはならないのだ。
グーグルの「20% Free time」戦略は玉石混合のアイデアを生み出すブレインストーミングである。この戦略をProductiveなものにするめには、玉石混合したなかからダイヤモンドを見つけ出す能力をもったマネージャーの存在がキーである。(キャリア・デベロップメントの点からも、せっかくのアイデアを否定されればもティべーションは低下するが、むやみにほめるだけでは生産性は上がらない。)

したがって、この物理学会の提言成功のキーは「若手博士」の”ブレインストーミング力”だけでなく、むしろ、マネージャーである教官の審美眼にかかっているといえる。

最後にポジティブなコメントをひとつ(精神論ですが...):
一般的に”トップダウン”式の提言や戦略の多くは現場にマッチしていない。しかし、(正しいか別にして)”トップダウン”が惹起した第一歩(=Free time)をレバレッジにして、若手博士は自分の独立心を磨くことはできるはずだ。


テーマ:教育 - ジャンル:学校・教育

Meryl Streep-Aメリル・ストリープはハリウッドを代表する演技派女優である。ディア・ハンター(1978)、クレーマー・クレーマー(1979、アカデミー助演女優賞受賞)、ソフィーの選択(1982、アカデミー主演女優賞受賞)、マディソン群の橋(1995)、そして最近ではプラダを着た悪魔などに出演し、現在円熟期にあるといえる。

メリル・ストリープはニュージャージーに生まれ育ち、ニューヨークのVassar Collegeでドラマを専攻した(1971年卒)。彼女が1983年に(1982年にソフィーの選択でアカデミー主演女優賞を受賞した直後の絶頂期)にalumniのひとりとしてVassar Collegeの卒業式で行ったスピーチ「Welcome to the Big Time」は人生とキャリアに関する重要な教訓が語られている。彼女は大学で学んだ理論(ディシジョン・メイキングの方法)やスキルとナレッジで武装し、万全を期して社会に出たのであるが、次の10年に実社会で学んだことは、

Real Life is actually a lot more like high school....Excellence is not always recognized or rewarded. What we watch on our screens, whom we elect, are determined to a large extent by public polls. Looks count. A lot.



もちろん彼女の体験はハリウッドでのことであり、一般の社会にくらべて誇張されている。しかし、Harry Beckwithの「You, Inc.: The Art of Selling Yourself」でもメリル・ストリープのこのスピーチを引用して、

実社会ではアカデミアで重視されるMasteryよりも、ハイスクールでの日常のようにPopularityが遙かに影響力がある


ことを、(とくにインテリ層は)理解しなければならないと述べている。

プロフェッショナルを目指す研究者としてはもちろんMastery(専門性をきわめること)が人生の最重要課題であるが、実社会で生きていく上では(とくにサイエンス・コミュニケーションにおいては)”Real Life is actually a lot more like high school (R.L.H.S.)”を意識しなくてはならないであろう。

イラストレーション FOR TIME BY LARA TOMLIN

テーマ:俳優・男優 - ジャンル:映画

The Synaptic Leapはバイオメディカル領域でのオープンソースリサーチであり、科学者のWisdom of Crowd(集団の叡智)を集めて新しい治療法の開発をめざしている。ミッションステートメントは:

バイオメディカルサイエンスを分断することはできない (indivisible) 。サイエンスコミュニティーを物理的・精神的な壁で分断することは自然の摂理に反する非生産的行為である。オンライン・コラボレーションがこのギャップを埋め、分断された情報を集約する自然な方法である。これにより従来の方法では解決不可能であった問題に新しい解決の糸口を見つけることができるであろう。The Synaptic Leapのミッションは科学者をに夢を実現する力を与える (empower)ことである。

Biomedical science is indivisible. The physical and psychological barriers that divide scientific communities are ultimately artificial and counterproductive. We see online collaboration as a natural way to bridge these gaps and pool information that is currently too fragmented for anyone to use. An open, collaborative research community will find new ways to do science, answering questions that current institutions find difficult or impossible. The Synaptic Leap’s mission is to empower scientists to make the dream a reality.


The Synaptic Leapのストラテジーは非常に興味深い:
The Synaptic Leapが標的にするのはマラリアなどの主として熱帯の貧困層が罹患する病気である。その理由は
1)金銭的利益が全く見込めないため、金銭的利益をインセンティブとする従来のビジネスモデルは成立不可能である。
2)しかし、逆に金銭的利益インセンティブが成立しえないということは、オープンソースモデルに最適である。なぜなら、情報を囲い込む(秘密にする)利益・不利益も成立しがたいので。

現在はマラリア(Malaria)、住血吸虫症(Schistosomiasis)、トキソプラズマ(Toxoplasma)、結核(Tuberculosis)に関するプロジェクトが進行中であり、オンラインでできるリサーチ・コラボレーションが基本であるので、データベースの構築や、モデリング、データマイニングが中心となっている。

さて肝心のThe Synaptic Leapのパフォーマンス(生産性)であるが、現在までのところは世の中に大きなインパクトを与えるレベルにはいたっていない。同サイトのブログポスト「If you build it, will they come?」でも指摘されているように:


.....残念ながらThe Synaptic Leapは力を失っているように思える....
(I must admit that I am somewhat discouraged that TSL has been around for over a year, had some rather high powered publicity at kickoff, but seems to be languishing.)




問題点としては:
1)「マラリアなどには金銭的利益インセンティブが成立しえないので、情報を隠す必要がない」は短期的には正しいかもしれないが、長期的には正しくないかもしれない。もともとマラリア用に開発された薬や技術でも、思いもしなかった他の疾患や、さらには幅広いバイオの研究に応用でききる可能性があり、簡単にはIP (Intellectual Property)を放棄しない。
2)バイオメディカルとくに治療法開発ではウエットな実験系がクリティカルに重要であり、オンラインでできることには限界がある。等々

先駆者としてまた、バイオメディカル領域でのオープンソースリサーチの問題点を提示した点でThe Synaptic Leapの存在意義は非常に大きい。まだ、始まって1年半程度なのでこれからに期待したいが、The Synaptic Leapは今大きな転換期にあることは間違いない。


テーマ:経営学 - ジャンル:政治・経済

They’re Beautiful!」は”virtual, degrading objects”を利用した新しいインターネットサービスであり、バーチャル花束を好きな相手に贈ることができる(フリー)。花は”水”をやらなけかれてしまう(たまごっちを思い出す)。もらった花束はブログにEMBEDできるところが”Web 2.0版たまごっち”的である。



関連ブログ:
O'REILLY Radar, They're Beautiful: virtual flowers from Jackson Fish Market
<http://radar.oreilly.com/archives/2007/07/theyre_beautifu.html>

テーマ:インターネット - ジャンル:コンピュータ

アル・ゴア副大統領の首席スピーチライターを努めたのち、フリーエージェントとなったダニエル・ピンク氏は企業に雇われない「個の独立した自由な職業スタイル=フリーエージェント」を提唱している。彼は「ハイ・コンセプト「新しいこと」を考え出す人の時代 」「フリーエージェント社会の到来―「雇われない生き方」は何を変えるか」などの著書で知られる。転職・キャリアのためのPODCAST「Fコミュ」にダニエル・ピンク氏の「フリーエージェント社会の到来」に関する30分程度の英語の講演(日本語講演要旨付き)がアップロードされていたので聴いてみた。よくまとまっていて面白かった。

まず、「フリーエージェント」は日本でいう「フリーランス」に近く、日本語の「フリーター」と混同してはならない。「フリーエージェント」は英語の「Organization man」・日本語の「サラリーマン」の対局概念である。

講演要旨の見出しは以下のとおり:

■ ホワイトハウスからフリーエージェントへ
■ カリフォルニアでの定職者はたったの3分の1
■ 才能と機会が取引される雇用形態
■ 縦型から横型へ変化した忠誠心
■ フリーエージェントに保障なし?
■ フリーエージェントになる理由
■ 見返りなしでも会社にとどまる?
■ フリーエージェントの成功とは?




とくに興味深かった点は「フリーエージェントに保障なし?」である:
フリーエージェントには”Job Security”がないと考えられがちであるが、大企業に比べて本当に”より不安定”なのであろうか。大企業に雇用されていても、常に倒産・合併・リストラの危険にされされている。大企業にも”Job Security”があるとは限らない。ピンク氏はフリーエージェントとして、ビジネスの相手と顧客をMutual Fundのように”Diversification"させることのほうがはるかにリスクが低いと語っている。

フリーエージェントのメリットは”Job Security”が自分でマネージできることからくる個人のaccountability & authenticityであるとしている。

”Job Security”については、ピンク氏以外にも現在までに多くのひとが、多くを語っているが、50年以上前のヘレン・ケラーの言葉には含蓄がある。

Security is mostly superstition. It does not exist

in nature, nor do the children of men

as a whole experience it.

Avoiding danger is no safer in the long run than

outright exposure.

Life is either a daring adventure

or nothing.


-Helen Keller, The Open Door, 1957-








テーマ:ビジネス・起業・経営に役立つ本 - ジャンル:本・雑誌

サイエンス誌7月号は大学の学部レベルでのScience Educationに関する特集「The World of Undergraduate Education」を組んでいる。同誌は6月号で米国での理科教師育成に関する特集をしているが(参照:いかにして優秀な理科・数学教師を育てるか: 米国でのとり組み)、今回は海外(米国以外)での学部教育への革新的な取り組みも数多く紹介している。

オーストラリア(AUSTRALIA: 'A Crisis in Student Quantity and Quality'
米国(UNITED STATES: 'This Is the Front Line ... Where I Can Really Make a Difference'
イギリス(UNITED KINGDOM: 'Much of What We Were Doing Didn't Work'
フランス(FRANCE: Opening Up to the Rest of the World
ブラジル(BRAZIL: 'I Do Not Make a Distinction Between Teaching and Research'
ロシア(RUSSIA: 'The Teacher Is Still the Central Figure'
南アフリカ(SOUTH AFRICA: 'I Wish ... I Could Give [Them All] Computers'
オーストリア(AUSTRIA: 'Can't Have a Career... Without English'
インド(INDIA: Beyond Islands of Excellence
中国(CHINA: 'It's Important to Ask Students To Do Some Work on Their Own'
韓国(SOUTH KOREA: 'A Strong Voice' For Course Reform
日本JAPAN: Spreading Knowledge of Science and Technology



日本では科学者(Biophysicist)秋山 豊子氏(慶応大)がPCRなど分子生物学のラボ・クラスを交えて、文学や政治経済学を専攻する文系の学部生に自然科学を教えるユニークな授業が紹介されている。同誌によると授業を受けた文系学部生の80%が自然科学を学ぶことは価値があり(worthwhile)、90%がラボ・クラスは有意義である(meaningful)と考えているようだ。

これは、非常に面白い取り組みであり、将来的に大きな可能性とインパクトを秘めているとオプティミスティックなビューを私はもっている。
1)プライマリーにはサイエンス誌のエディターDonald Kennedy氏が言うように

ノン・サイエンティストに現代社会で生きていくために必要な”サイエンス・リテラシー”を吹き込むことであるが...
how well we instill in the others enough curiosity and basic understanding to qualify them as useful citizens of the modern world


それ以外にも:
2)サイエンスの「クール: cool」な部分を選択的に(戦略的に)文系の学生にすり込むことにより、中長期的に社会での「文系 v.s. 理系」の心理的ギャップ(お互いが理解不可能な別世界の人種であるかのごとく思いこむ)を埋めていけるのではないか。そして、サイエンスの「クール」さを将来の官僚、政治家、シニアマネージメント候補生にすり込むことは研究費拡大やポスト増加の布石となり得るのではないか。

サイエンス(とくに実験科学)は「クール」な部分だけではないが、「文系学生への自然科学教育」では、戦略的に「クール」な部分を十分に理解してもらえるように教えるべきである。バランスは重要であり嘘はつくべきではないが、ともすれば陥りがちな「自嘲的な」メッセージは避け「politically correct」なストレートなメッセージを伝えたい。学生の誰かは将来科学研究費配分に影響を何らかの形で与える可能性があるかもしれない。もちろん、だれも日々そんなことを考えて授業はしないであろうが、フレームワークを作る時点では”戦略的”でありたい。


関連エントリー:
いかにして優秀な理科・数学教師を育てるか: 米国でのとり組み
<http://harvardmedblog.blog90.fc2.com/blog-entry-91.html>




テーマ:教育 - ジャンル:学校・教育

クローズアップ現代「にっぽんの“頭脳”はいかせるか・苦悩する博士たち」に関する5号館のつぶやきのstochinaiさんのエントリーを読んで、あらためて日本のポスドク問題の深刻さを痛感した。

もちろん「ポスドク問題」は雇用の問題であるが、エントリー「いかにメッセージを伝えるか」で書いたように

「今私たちは困っているから助けてくれ」というメッセージ以外にも「私たちは社会に価値あるものを創るので投資してくれ」というメッセージを発信する戦略的二枚舌を理系研究者は学ばなければならない。


有利な世論を形成するためには、戦略的コミュニケーションが必要だ。したがって、私は「雇用的側面」ではなく「日本のポスドク」が科学&技術に効率的に貢献できるシステムかどうかという観点で、この問題をattackしてみたい。

米国でもポスドクの雇用の不安定性の問題は日本同様にあるが、ポスドクが米国の科学&技術の発展に対する貢献は非常に大きく、少なくともバイオメデカルの分野においてはポスドクは最大で最強のプロフェッショナル研究者集団である。そして、その強みはポスドクという名前からは想像出来ない。米国でのポスドクというメカニズムの強みは「Post-doc:博士のあと」にあるのではなく「Just one step to PI (principal investigator)」にある

たとえば、先月までポスドクであった彼/彼女が、来月からはAssistant Professorとして年間数千万円のスタートアップ、1000万円近い年収をもらい、数人の学生/ポスドクを雇いPIとしてラボを経営する。米国ではポスドクは「Just one step to PI」であり、ハイリスク(雇用が不安定で給料も安い)が、ハイリターン(=Just one step to PI)である。日本のポスドクのように「one step to another to another ...to PI」ではない。

この構造の差は研究者のproductivityとOriginality(そして、その総和としての国家の競争力)に重大な影響を与える。研究のOriginalityのクレジット(コレスポンディング)は通常PIにある。ポスドクが実際に実験をしても仕事の知的所有権の大部分は通常PIにある。したがって、ポスドクが独立するときには独自の新しいテーマを追求しなければならない。そうしないと自分のOriginalityは認められない。戦略的に(強制的に)研究テーマを変更しなくてはならないのだ(通常はポスドクの仕事をもとにして、関連した新しいテーマを追求することが多い。)その後はひたすら自分のOriginalityを追求し、それが長期的にはその国の科学&技術の国際競争力増強につながるというキャリア・モデルである。

戦略的・強制的な研究テーマ変更はOriginalityの創出には欠かせないが、バイオメデカルの分野においては国家に必要とされるレベルのエキスパートになるには、その専門分野で最低10年は集中して研究している必要があるのではないか。したがって頻回の戦略的・強制的な研究テーマ変更は「知の創出」を阻害する

日本のようにポスドクの後もPIまでさらにいくつものステップがある場合には、そのたびに、戦略的and/or強制的な研究テーマ変更が必要であり、国家に必要とされるレベルのエキスパートが育成できないし、新たな知を創出する環境も整備されない。(「雇用問題」とあわせて「ポスドク問題」をattackするときに「相乗効果」創出を期待する。)

ポスドクは「博士のひとつ後」かつ「PIのひとつ前」でなければ米国のようには機能しない。




「戦略的・強制的な研究テーマ変更」に関連したエントリー:
どのようにして新しい研究プロジェクトを始めるか:[Zoom Plus]
<http://harvardmedblog.blog90.fc2.com/blog-entry-6.html>


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Nature誌6月号の記事によると、80余りの米国のカレッジを含むthe Annapolis Group of private collegesがU.S. News & World Reportによる大学の格付け(ランキング)のボイコットを唱えている。

Nature 447, 1139 (June 2007)
Prospect:Rankings are flawed, but are they a worthwhile tool nonetheless?



U.S. News & World Reportによるランニングは数ある全米レベルでの大学格付けの最もメジャーなものである。各大学のアンケートに対する回答とエキスパートへの調査を元にして“総合的"に判定されたランニングであり、大学の社会的評価ひいては入学希望者(消費者)の動向に大きな影響力をもっていると考えられる。

ちなみに2008年度の大学院のランキングは:

ビジネススクール(総合)
1. Harvard University
2. Stanford University
3. University of Pennsylvania (Wharton)

メディカルスクール(総合/研究中心)
1. Harvard University
2. Johns Hopkins University
3. University of Pennsylvania


Annapolis Groupのランキングに対するボイコットの”オフィシャル”な理由は
(1)ランキングの決定の過程が公平でない
(2)ランキングの決定に使用されたデータが正確でない
の主として2点である。

しかし、ランキングにAnnapolis Groupが反対する真の理由は、現行のランキングが下位にランクされるものにとってまったくメリットがないからであろう。「たとえ下位にランクされても、ランキングが上昇することをインセンティブにして切磋琢磨し、がんばればよい」と言うのが正論である。しかし、一個人(消費者)が総合的に大学の価値を評価することは容易ではなく、公表された便利な”総合”ランキングが重要な(しばしば最大の)判断基準となるため上位校へのさらなる人・金・リソースの集中を生み、上位グルーと下位グループの差は益々大きくなる現象が起こりえる。

さらに、現行のランキングシステムは一部の上位エリート大学に有利にできている。(または、 一部の上位エリート大学は現行のシステムで高く評価される術 [ランキング決定に重要な意見を述べるエキスパートへの影響力を含む] を長い歴史で身につけてきた)よって下位にランクされる後発の大学が「一部の歴史あるエリート大学に有利な現行のルール」で戦って勝てる見込みは非常に低い(*)。

では、どうすればよいのか、その答えをAnnapolis Groupはよく知っていた。だからU.S. News & World Reportによる大学の格付けをボイコットをしたのだ。

答えは「自分に有利な別のルールで戦う」ことである

College group plans new ranking system (Baltimoresum.com)



自分に不利な現行のルールに甘んじる必要はない。ルールとは思われているほど絶対的なものではないし、ひとつでなくてはならない絶対的な理由もない。ルールは常に作ったものに有利なのである。




(*)複数の大学が合併し魅力的な研究・教育プログラムを作り、現行のルールで戦えるだけ強くなるという正攻法ももちろんある。英国での大学壁を超えた6大学理学部間のアライアンス”The Scottish Universities Physics Alliance (SUPA)”が紹介されている。

Editorial:Nature 447, 1031 (28 June 2007)

All for one...
Many medium-sized university departments feel they are engaged in an unequal struggle against larger and more-entrenched rivals. But there is a way in which they can fight back.


テーマ:教育 - ジャンル:学校・教育

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プロフィール

Motomu Shimaoka

Author:Motomu Shimaoka
島岡 要:三重大学医学部・分子病態学講座教授 10年余り麻酔科医として大学病院などに勤務後, ボストンへ研究留学し、ハーバード大学医学部・准教授としてラボ運営に奮闘する. 2011年に帰国、大阪府立成人病センター麻酔科・副部長をつとめ、臨床麻酔のできる基礎医学研究者を自称する. 専門は免疫学・細胞接着. また研究者のキャリアやスキルに関する著書に「プロフェッショナル根性・研究者の仕事術」「ハーバードでも通用した研究者の英語術」(羊土社)がある. (Photo: Liza Green@Harvard Focus)

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