コンビニ大手ファミリーマートで発揮した優れた経営手腕のみならず、料理、読書、麻雀、釣り、ゴルフと、多彩な趣味を持つ上田準二さん。ユニー・ファミリーマートホールディングスの代表取締役社長を退任し、取締役相談役となった今だから語れる秘蔵の経験や体験を基に、上田さんが若者からシニアまで、どんな悩みにも答えます。上田さんの波乱万丈の人生を聞けば、誰もがきっと“元気”になる。

連載7回目は、30歳の男性(会社員)の悩み。上司も同僚もアホばかりで、そんな職場で働く自分に強い嫌悪感を抱いています。もう最悪、会社に行きたくない。そんな悩みに上田さんは、「そういう職場こそ、チャンスだ」と回答。そのワケは?

悩み:役立たずばかりのアホな部署に所属しています。毎日、最悪の気分です。

私は、とてもアホな部署に所属しています。現場目線で仕事を捉えることができない人間ばかりが所属しています。この部署におけるアクションプランは、役員の顔色をうかがって設定しております。そして、私の所属する部署には、なんら強みとなるリソースがありません。商材しかり、販路しかり。何もありません。会社の中でも、役に立たない人間ばかりが所属させられているような部署で、役立たずの末路といった印象です。特に課長は、同じフロアにいる他部署の人からも評判が悪く、この職場で働いていても最悪の気分になるばかりです。毎日、会社へ来たくありません。

30歳 男性(会社員)

1946年秋田県生まれ。山形大学を卒業後、70年に伊藤忠商事に入社。畜産部長や関連会社プリマハム取締役を経て、99年に食料部門長補佐兼CVS事業部長に。2000年5月にファミリーマートに移り、2002年に代表取締役社長に就任。2013年に代表取締役会長となり、ユニーグループとの経営統合を主導。2016年9月、新しく設立したユニー・ファミリーマートホールディングスの代表取締役社長に就任。2017年3月から同社取締役相談役。趣味は麻雀、料理、釣り、ゴルフ、読書など。料理の腕前はプロ顔負け。(写真:的野弘路)
1946年秋田県生まれ。山形大学を卒業後、70年に伊藤忠商事に入社。畜産部長や関連会社プリマハム取締役を経て、99年に食料部門長補佐兼CVS事業部長に。2000年5月にファミリーマートに移り、2002年に代表取締役社長に就任。2013年に代表取締役会長となり、ユニーグループとの経営統合を主導。2016年9月、新しく設立したユニー・ファミリーマートホールディングスの代表取締役社長に就任。2017年3月から同社取締役相談役。趣味は麻雀、料理、釣り、ゴルフ、読書など。料理の腕前はプロ顔負け。(写真:的野弘路)

上田準二(ユニー・ファミリーマートホールディングス取締役相談役):先日、ファミリーマートの加盟店のオーナーさんが集まる会で、若い女性から「上田さん、ありがとうございました」と感謝されてね。何かと思ったら、「私にも、まさにあんな彼氏がいるんです」と。仕事が続かなくて、彼女の話もまともに聞いてくれないとね。それで、この前の相談に対する僕の回答をプリントして、彼氏に突き付けたそうですよ(コミットなきイケメン男とは、今すぐ別れなさい)。その甲斐あって、優柔不断な彼氏も、少しは彼女の人生に「コミット」する姿勢を見せ始めたとか。

大竹剛(日経ビジネス編集):若い人にぜひ読んでもらいたいという編集の期待もありましたが、実際、上田さんの回答に共感する若い女性も多いようですよ。もちろん、「東京者」発言(東京者は、恋愛も仕事も刹那的だ)には反発もありましたが(笑)。

上田:あれはしょうがない。相談者が自分は田舎者だというコンプレックスを持っているから、コンプレックスを払拭するために、「東京者はね……」ということを言ったんであって、僕は東京者、大好きなんです。田舎者だから東京者が好きなんだ。

大竹:スマートな「東京者」に憧れがあるのですか。

上田:まあ、そうだよね。確かに自分にない育ち、環境の中でやってきているからね。それは見習うものはありますよ。ずっと、「自分は田舎者だ」と思っていては、卑屈になってしまうから。

大竹:では、そろそろ今回の相談に移りましょう。30歳の男性からです。この方は、従業員数が5000人以上という大企業にお勤めのようですが、相談ではかなり辛辣に所属している部署について批判しています。アホで役立たずの上司や同僚ばかりだと。とはいえ、上司の顔色ばかりをうかがってアクションプランを作るような人は、どんな組織にもいます。相談者のような気持ちを抱いている人は、意外と少なくないのかもしれません。

上田:こういう人は、確かにいるよな。うん。よくいる。だけどそれは、自分が周りを見る目と、上司なり同僚なりが自分をどう見ているかという現実が、非常にアンバランスになっている結果かもしれない。

大竹:「アンバランス」ですか?

上田:アンバランスというか、自分の周囲に対する評価と、周囲の自分に対する評価が、合致してない可能性がある。よく組織の中で、「もう周りはアホばっかりや」と嘆いている人がいるけど、じゃあ、上司や同僚が彼をどう見ているかといったら、まったくとんちんかんな部下、「KY」な奴だと思っているかもしれない。こういう方向でプロジェクトを進めていこうと方針が出ているのに、全然マッチしない話をするとか。「こいつの話は何を聞いても、どこかポイントがずれているな」と評価されているかもしれないよね。

 だから、周りが自分自身を見ている評価と、自分が周りを見ている評価が、全くずれているということはありませんかと、冷静になって考えてみることだと言いたいね。

 まず、周りの価値観、課長の価値観というものを理解する。もし、それでやはりダメだと判断を下したとしても、それで投げ出してはいけませんよ。ダメな奴に囲まれているのなら、その中で自分がどうやって花を咲かせるのかを考えないと。

 いや、課長はこういう方針だけれども、私にはこういう問題があるように思えます。こういう効果が出てきませんよね、ならば、こうやるべきじゃないですか……とかね。全体の方針が決まっていても、その中で商材はどういうものを作っていったら売れるのかとか、販路も今までの販路じゃなくて、もっと違った販路を開拓しませんかとか、そういうことを提案してみてはどうかね。

 例えば、食品メーカーだったら、今まではコンビニでしか売っていなかったけれども、外食だとか、スーパーだとか、こういったところの販路を開拓すべきじゃないでしょうかとか。じゃあ、どうやるのか。コンビニの場合は、毎日毎日商品が変化していっているけれど、量販店なら定番商品というものがあるので、量販店向けの定番商品の開発をしませんかとか。

 商談に行くときも、課長さん、部長さん、コネクションありますかと聞いてみる。それを紹介していただければ、私が向こうへ行って営業をやってきますとね。そんなコネクションはないと言われたら、じゃあ、飛び込みで行きますとかね。

 とにかく前向きに食らいついて提案をしてみる。そうすると、おお、やってくれと、きっとなるよ。こうなると周りがアホではなくて、君のことを買ってくれる存在になる。おそらくこのグループの人たちは、それぞれが自分を除いてほかの人をアホだと思っているはず。停滞している組織というのは、そういうムードになり、それが悪循環を招くんだよ。

大竹:なるほど。自分を除いて、みんながアホだと思っているのは、ありそうですね。そんな人が集まってしまったから、ますます停滞してしまう。

上田:うん。このチームは、全員が自分を除いて周りはアホだと思っているチームじゃないのかなと思うね。課長も、俺の部下はアホばっかりだと、きっと思っているよ。よく聞くじゃないですか。「何で私の課には、こんな会社の役に立たないやつばかりが来るんだ」という不満を。この不人気な課長も、きっとそう思っているかもしれない。

大竹:そういう相手の立場になって、その人がどのように周囲を見ているのかを想像してみるというのは、確かに重要ですね。

上田:ええ。自分を除いては全員そう思っている集団かもしれない。だとしたら、それは実は、彼にとってはチャンスなのよ。

大竹:チャンスなんですか?

“アホ集団”の中でこそ目立てる

上田:うん。おそらく、そういう部署の人は、先を読む力を発揮できていなくて、新たな商品や新たな販路というものを真剣に考えていない。今までの延長線上の商品と販路で、売れた、売れない、値段が高い、安い、いや、もう商品企画が古いだとか、そういうことばかり言っていて、何を新たに作っていこうかという議論をしてないのではないかな。部署を束ねる課長も、それを引き出せていない。であれば、彼にとってはチャンスだよね。こういう“アホ集団”でこそ、チャンスを得られるんですよ。周りがみんな賢くて、論理的で、仕事ができる人ばかりがいる集団だったら、少々優秀なくらいでは埋もれてしまうよ。難しいことにチャレンジして成長する機会だって、十分に得られるかも分からない。

大竹:ようするに、目立てない。

上田:そう。ここはもう、ここで花を開かせれば、次のステップアップの役職なり組織なりに移れると考えるべきだね。5000人以上も社員がいる大企業なら、いろいろな組織があるはずなんでね。

大竹:ですが上田さん。相談の内容から想像すると、もう既にこの方は、いろいろと上司に提案してきたのかもしれませんよ。それで受け入れられなかったからこそ、ここまで憤慨しているのではないですか。

上田:結局それは、自分の自己評価と周囲からの評価が合ってないから、提案が受け入れられないんですよ。自分はいろいろ提案したつもりでも、全然評価してくれない、取り上げてくれないということは、自分は自分の提案が一番優れていると思っているけれども、周りから見たらそうじゃないんですよね。

 どんな組織でも、ある人が提案すると、それで組織が動くというような場合がよくある。その人がどういうことをやっているのかというと、課のミーティングなどでいきなりポーンと突拍子もなく提案したりはしないんです。一度のミーティングで、自分がやりたいことをすぐに理解してもらうのは、なかなか難しいからね。提案を受ける側の理解力の問題もあるけれども。

 従って、正式な提案をする前に、同僚、あるいは課長にも、私はこういうことで販路開拓をしたい、商品企画をしたい、それがこのグループの組織の運営にこういう理由で寄与し、その結果、この組織はこんなふうに強くなれるんじゃないでしょうかと、考えを披露してみる。

大竹:つまりは「根回し」ですね。

上田:最初にいろいろ準備、根回しをしておく。そうしておけば、いざミーティング、会議のときにおいては、それは初めて聞く話じゃないので、周りの人の理解度も増す。そのときに、定性面、定量面をおさえたきっちりとしたプレゼン資料に基づいて、しっかりと説明する。そうすると、お前、なかなかやるじゃないかと、きっとなるよ。自分からは全く提案を出さない課長も、彼の話を聞いて、それでいこうと。ぐうたらな課長もそういう案を聞いて理解すれば、その上の部長に、「私の課では、こういうことをやっていきます」と胸を張って言えるようになる。それは課長にとっても、ちょっといい話でしょう。そのきっかけを、作るんですよ。

大竹:自分がやりたいことが、課長のため、部長のためになるような話の持って行き方をするんですね。

上田:そう。それをやれるチャンスが、彼にあるわけだよね。彼が言う通り、本当に周りがアホであれば。

アホな同僚を味方に付けてアホな上司を根回しで攻略

大竹:アホであればといいますが、アホ過ぎちゃうと、その提案すら理解してくれないという、最悪の事態になるかもしれませんよ。

上田:アホであればあるほど、いいんですよ。アホな課長には、課の方針すら作れないでしょう。だから、彼が事前にある程度、同僚を巻き込んで全体の方針に関して、流れを作ってしまうんですよ。課の7~8割の人に事前に話をしておいて、反対される理由を潰しておくんです。

大竹:アホばかりの同僚も、事前の根回しで味方にしておく。

上田:そうそう。自分がやりたいことをやるために、賛同者を事前につくっておくことが大切ですよ。もちろん、何を言ったって反対する人がいるかもしれない。この課長がそうかもしれないな。

 だけど、そういうふうに同僚なり先輩なりにある程度の話をしておけば、同僚も先輩も、課長が反対したときには、「いや、彼の言っていることはこういうことだと思うので、これをやったら絶対商売が増える」だとか援護をしてくれる。営業戦略上メリットがあると大多数の人が言えば、課長も、そうかなと言わざるを得ない。課長は課長で、まがりなりにも経験を積んできているわけだから、そうと決まったら「じゃあ、こういう部分のところには課題があるから、ここの部分はこうしようか」といった、建設的な話し合いができるかもしれない。

大竹:誰もが「自分以外みんなアホばかり」と思っているチームは、きっとやる気を失ってしまっているんですね。そういう雰囲気を変えるきっかけに、彼の提案がなるかもしれない。

上田:そうなのよ。どうせ自分がこんな提案しても、周りがアホだからと理解されないと、諦めていないかと言いたい。もしかしたら、彼だけではなく、みんながそう思っているかもしれない。だからこそ事前に、そういった話を周囲にしてみるんです。

組織の停滞は上司ばかりの責任ではない

大竹:上田さんのこれまでの会社人生で、周りがみんなアホ、もしくは敵に見えるという境遇に置かれたことはありますか。

上田:周りがアホだなんて思ったことはないです。それなりにみんな、先輩なり上司なりは、それだけキャリアを積んでやってきているわけだから。

 ただどうもこれ、このままでやっていたって商売は伸びないなと考えたことはしょっちゅうですよ。課の利益も拡大していかない、逆にじり貧になるんじゃないかなとかね。でも、例えば、来年度の計画をどうするかといったときに、もうその時点で改まって新たなことを提案したって、なかなか周りも理解してくれないよ。

 日頃から同僚と飲みに行ったり、あるいは上司と飲みに行ったりしたとき、別に飲みに行かなくてもいいけど、オフィシャルな場じゃなくてプライベートな環境の中で、自分の考えを話してみるんです。そうすると、「それ、何かやれたらいいよね」といった反応が返ってきたら、しめたものですよ。

 「やれたらいいけど、これが難しい」といったブレーキがかかることもある。上司というのは、経験上、そういうことを言うものだから。大切なのは、そこで諦めずに「それだったらこうすればやれる」と提案することです。そうすると、ずっとマンネリで、新たなことにチャレンジもしないようなアホ集団でも、1つ突破口が見い出せるかもしれない。それが上手くいけば、「やればできる」と自信を取り戻し、次から次へと、「次に何をやろうか」という好循環になっていく。組織って、そういうものなんですよ。

 課長や部長は、部下が新たな意見をどんどん発言できる場を作って、そこから多様な意見を吸い上げていくのが役割だと思うけれど、じゃあ、部下はどうなのかと。その裏返しで、上司にどんどん提言していくことが大切なんです。だけど、そういうようなことをやらずして、周りはアホばかりだと憤慨してはダメだよ。

あなたが周囲より優秀なら、その境遇を徹底的に楽しめ

大竹:この相談者は、会社に行きたくない、最悪ですと言っていますね。もう、何もかもが面倒臭くなってしまっているのかもしれません。まず、そんな状況から抜け出すにはどうしたらいいですか。

上田:まず、あなたがアホ集団だと言う組織が会社の中にあるのは、会社にとって必要だからだと考えてみてください。そして、繰り返しだけど、その組織の人がアホばかりだと思うのなら、あなたにとっては絶対的なチャンスだと考えることです。

大竹:まずは、とにかくそう思い込めと。

上田:それで、新しい企画を真剣に考えて、月に2回か3回は自分で企画を作ってみて発表してみなさい。ただし、だいたい企画の概要が自分の中でイメージできたら、事前に同僚なり先輩なり課長にも話をしておくこと。

 いろいろな問題点とか何だかんだと言われるかもしれない。あるいは、お前、そんなことやらんでいいんだと拒否されるかもしれない。

 それでも、「いや、これは1回提案させてください」と説得し、何としても提案まで持ち込む。そこまでやって、課のミーティングにおいて、きちんとした企画として発表する。

 そうすると、きっと、アホだと思っていた人の中からも、賛同者が出てきますよ。同じように、何か新しいことをしないといかん、流れを変えないといかん、これまでの仕事の仕方を変えないといかん、というような思いは、誰しもが少しは持っているはずです。

 発表した企画に対して、いろいろな意見が出るかもしれない。その中には、反対意見もあるでしょう。しかし、賛同だろうが反対だろうが、意見が出るということは、既にそれは、あなたがアホ集団を自分のペースに巻き込んだということですよ。それで、1つでも2つでも、新しい企画が決まったら、歯車が回り始めます。一度、周り始めた歯車は、もう毎回前進です。後ろ回転はしない。

 ということで、周りのアホ連中も、あなたが極めて優秀だったなということに気付くでしょう。

大竹:まず歯車を回しましょうということですね。

上田:そうそう。周りがエリート社員みたいな奴ばっかりのところにポンと入ったら、これはこれで大変ですよ。僕だったら、周りがアホばっかりに見えたら、優越感を感じて毎日会社へ行くのが楽しくなるな。

大竹:むしろ、俺は一番頭がいいんだぐらいに優越感に浸り、そんな境遇を楽しめと。

上田:うん。あなたは優秀なんだから。課長や同僚がそう見ていないかもしれないというのは、むしろ、あなたの優秀なところを見せるチャンスじゃないかと。自分が優秀だと思っているだけで、周りはアホばかりだから仕事もしたくないというのは、本末転倒。重大な機会損失ですよ。

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