「両社のシナジー効果は何ですか?」
ソフトバンクグループによる英半導体設計会社、アーム・ホールディングスの大型買収でも、日産自動車による三菱自動車の救済劇でも、記者からの質問は同じ課題に集中した。
グループ企業になるからには、1+1で2以上の成果を生み出さなければならない。そんな要求がグループ企業には往々にして突きつけられる。
シナジーないことがメリットにも
しかし、日経ビジネス8月1日号の特集「新・グループ経営論」に登場した富士通の山本正已会長は「古河グループでは、お互いのシナジーがそんなにない」と指摘する。そもそもシナジー効果を追い求めなければ事業間の関連性を強める必要がない。各会社の独立心が強くなるし、カニバリズム(食い合い)も起こりにくいというメリットもあるというわけだ。
グループが目指すべきシナジーの形は一様ではない。戦略面でのシナジーを追求するよりも、徹底してバックオフィスの効率化に注力している会社もある。IHIだ。
同社は本社に海洋・鉄構、エネルギー・プラント、航空宇宙など9つの事業部門を抱え、その下に国内約50社、海外約60社の関連会社がある。総合重工業企業の宿命か、専門性の高い事業部門・子会社の間で人事交流は少なく、縦割り意識が強い。連携してシナジーを創出するのは難しい。
そこで、IHIが2014年から本格的に始めている「本社業務改革」では、総務、人事、財務、物品調達といった「本社業務」の人員を削減することでシナジー効果を生み出そうとしている。本社業務といっても、こうしたバックオフィス部門は各子会社にもあるので、グループ内で一括して効率化を目指している。
150人分の業務を削減
どんなグループ企業でも重複するバックオフィスの解消は課題になっているだろう。IHIの改革の特徴は、斎藤保会長が提唱した「本社業務の工場化」と呼ばれる視点だ。ものづくりの改善活動のように、ムリ・ムダをはらんでいる事務作業を徹底的に洗い出し、計画的に効率化する。改革を主導する坂本譲二副社長は「前年度までに150人分の業務を削減する成果があった。さらに50人分の上積みを目指す」と鼻息が荒い。
最初に実行したのは業務の棚卸し。各事業部門・子会社の事務作業を、戦略性が高い業務、重要な通常業務、単純作業の通常業務の3つに色分けさせたのだ。この内、単純作業を新設したBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)センターに移行していくことで効率化を図る狙いだ。
しかし、各部門・子会社は「単純作業」を自ら提示してこない。坂本副社長は「今までやってきた業務を自ら否定するようなことを、サラリーマンは中々出来ない」と苦笑する。
そこで、坂本副社長は先に「人手が足りなくて、やりたくても出来ない業務」を提示させた。「単純作業」で削減した分の人員をリストラせず、「やりたいこと」に振り向けることを確約。事業成長に向けた前向きな改革だというメッセージを打ち出した。
BPOへの業務移管にはもう一つハードルがあった。会計の例外処理の基準など、業務手順がグループ内で統一化されていない事例が多数見つかったのだ。
会計問題がきっかけに
IHIには忘れがたい苦い教訓がある。2007年にコストの見積もりの甘さが原因となって、過年度決算を大幅に下方修正。東京証券取引所から投資家に注意を促す「特設注意市場」に割り当てられる事態になった。
この事件の際にコンプライアンス統括室長を務めていた坂本副社長は内部管理体制の改善に着手。各部門の会計基準がばらばらになっている事態に気付き、本社業務改革を始めるきっかけにもなった。2014年に新規に発足したグループ業務統括室に各事業部門・子会社の業務手順を集約させ、グループ統一のマニュアル作りに着手した。
こうした対策を経て財務関連のデータ処理や書類の作成などは「6~7割がBPOに移すことが出来た」(坂本副社長)という。
今回の改革は、一見すれば本社が業務手順を統一化して事業部門・子会社への管理を強めているようにも映る。しかし、IHIは昨年、本社の取締役会で取り上げる議題の基準を引き上げて、事業部門・子会社が独自で判断できる権限を広げた。
バックオフィスの業務削減で人的資源に余裕を持たせることで、成長事業に自ら取り組む独立性の強い組織に作り変えようという狙いがある。特集記事のテーマである「縛らず統治するグループ経営」を模索する動きといえる。
日立製作所グループの改革を主導した川村隆名誉相談役は「会社は毎日行けば給料をくれる良い場所だな、なんて思っている社員は一杯いる」と嘆く。いわゆる大企業病に陥らず、有機的に動く組織を作れるか。老舗のグループ企業ほど悩みは深い。IHIも「まだ成長事業を立ち上げた成功例は出てきていない」(坂本副社長)といい、改革の成否が見えてくるのはこれからだ。
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