知識

2023年08月13日

毎年8月には「戦争」に関する本を1冊紹介していますが…

今回ご紹介するのは、この本です。
 
広島の原爆 (福音館の科学シリーズ)
那須 正幹
福音館書店
1995-03-31


原爆を「物語」として描いた本は数多くありますが…

これは「物語」ではなく、原爆の多角的な「知識」を伝えるために描かれた、子ども向けの「科学絵本」なのです。

作者は「ズッコケ三人組」シリーズで知られる那須正幹(なす まさもと)さん。
 

 
那須さんは広島市の出身で、3歳の時に爆心地から3kmの自宅で被爆していたのです。

「子ども向け」の本だからと言って、侮ってはいけません。

この本では原爆の仕組みや、原爆が落とされることになった経緯、原爆搭載機エノラ・ゲイの当日の飛行記録放射線が人体に与える影響etc…、専門的な知識を交えながらも子どもにも伝わるよう、詳細な図解とともに描いています。

(今年の映画で話題になった「オッペンハイマー」さんの名も出て来ますし、放射性物質の蓄積しやすい臓器や放射性物質の半減期まで書かれています。)

むしろ「子ども向け」ということで、ほとんどの漢字にルビが振ってありますし、絵本ということで図が多用されていますので、大人にとっても分かりやすいのではないかと思われます。

中には文字が細か過ぎて、全てを読むには辛いページもあるのですが…

(戦後の世界情勢や反核運動の年表は、だいぶ細かく複雑です。つまりはその分「詳細」な資料になっているということなのですが。)

この本は、ただ「知識」に終始しているというわけでもありません。

広島という町がたどってきた戦前・戦中・戦後の歴史も、克明な絵とともに描かれています。

綺麗で住みやすかった町が、だんだんと戦争の色に染まっていき、防火帯を作るために建物が壊され…

「その日」には、閃光を浴び、爆風に吹き飛ばされ、炎に巻かれて地獄と化した…その様子が「空から眺めた風景」のように描かれているのです。

原爆の日の光景は、紛れもなく「地獄絵図」ですが、人間が豆粒大の小ささで描かれているせいか、「ひろしまのピカ」ほどには生々しくありません。

(それでも、トラウマになる方はなるかも知れませんが…。)

個人的に胸に迫ったのは、原爆後の広島を、教え子を探して尋ね回った教師の詠んだ歌です。

死者名簿に教え子の名前を見つけると、もはや哀しみも忘れてほっと息をついてしまう…それほどまでに、そこは過酷な有様だったのだと、想像も及ばないその地獄に、震えが来ます。

この絵本の絵を手がけた西村繁男さんは、広島の出身ではありません。

ですが、広島の原爆に並々ならぬ思いを抱き、広島の町並みを絵で再現するために、1年近く広島に住み、資料や証言者と向き合って作業を行っていたそうです。

なかなか気軽に手に取れるような種類の本ではないかも知れませんが…

「広島の原爆」が「どういうものだったのか」――物語ではなく実態として知りたい方には、ぜひ読んでいただきたい1冊です。


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