2018年09月11日
身近な木を観察したくなる“深い”木の描き方・絵本
今回紹介する本はこれです。
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タイトルから「木の描き方を教えてくれる本なんだろうな」というのは分かるかと思いますが、この絵本には、ただそれだけに留まらない不思議な“深さ”があります。
この絵本は、木の描き方を教えながらも、「絵の描き方」だけには留まらず、読者の目を、木の持つ法則性――ひいては自然の“理”にまで向けさせてくれます。
最初の方のページに、レオナルド・ダ・ヴィンチの描いた木のスケッチが小さく出て来るのですが、レオナルド・ダ・ヴィンチが人間を描くために筋肉のつき方や解剖図などを描いて人体の構造を把握しようとしたように、この絵本も木を描くために木の持つ法則性に目を向けています。
まずは種から芽が出て、伸びて、枝が生えていく様子から始まり、木の幹からどんな風に枝が分かれていくのかを、この本はシンプルな木の絵とともに、子ども向けの科学の本のようなタッチで語り始めます。
それはきっちりとした法則性があるようでいて、あるものは曲がりくねったり、あるものは枝が折れてしまったり、好き勝手に枝を伸ばしたり……規則だけに縛られず、自然環境の中で形を変え、一本一本姿の違う、個性ある木の様子を、この本は丁寧に描いていきます。
そして、そんな自然な木の営みに、時に人間社会を重ねて語っていたりもするのです。
「木をかこう」という、いかにも絵の描き方の本のようなタイトルでありながら、やさしい自然科学の本のようでもあり、時に哲学的でもある……人によって様々なとらえ方のできる不思議に深い本です。
ただ、それだけに読み手を選ぶ本かも知れません。
絵本でありながら、絵はとてもシンプルな木の絵ばかりですし、内容もある意味、ひたすら様々な木の形をじっと観察していくだけの内容ですので、興味を持てない人にとっては退屈かも知れません。
ただ、自分が生きるこの世界や自然に好奇心を持っていて、今まで見えていたものを別角度から見直してみたいという方には、この本がそんな新しい物の見方、新鮮な驚きを与えてくれるかも知れません。
この本を読み終わった後には、今まで何とも思わず見過ごしてきた身近な木々に、改めて注目して、じっと観察してみたくなるかも知れません。
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