2017年09月13日

記紀だけが古代史じゃない!日本古代の“ローカル”な魅力を味わおう!

個人的な趣味の話になりますが、日本の古代の歴史と言うと「古事記」「日本書紀」ばかりが注目されて、各地の「風土記」がほとんど空気のように扱われる状態が、歯がゆくて仕方がありません。

「風土記」は現存数も少ないですし、さらにその中でも完本に近いのは「出雲国風土記」だけです。

ボリュームも記紀(「古事記」と「日本書紀」)に比べれば劣りますし、記紀のような年代を追って編まれた歴史書とは違い、どこか“地方の伝説集”“昔話集”のような雰囲気が漂っています。

しかし、だからこそ「風土記」には、記紀には無い“地方ならでは”の“活き活きした魅力”あるいは“作り込まれた年代記とは違うナチュラルな親しみやすさ”があるのです。

自分が特にそれを感じたのは「常陸国風土記」を読んだ時でした。


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(現代語訳、解説、当時の地名入り茨城県地図付き)


「風土記」も国ごとにそれぞれ雰囲気が違ったり特色があったりするのですが、初めて「常陸国風土記」を読んだ時は、本当に衝撃的でした。

自分はそれまで古事記や日本書紀を読んで、ストーリーや未知なる過去への興味、神話の時代の神秘的な出来事やアイテムに魅力は感じてきたものの、古代の文献だけに正直言えば「何となく読みづらいな」「文章自体はあまり面白くないな」と感じてきました。

ところが「常陸国風土記」はそもそも文章自体が非常に美麗なのです。

過去の出来事をただ淡々と簡潔に述べるのではなく、春には花、秋には錦のようなモミジ、煌々と照る月、松原に渡る風、白砂の上に流れる清流、山に響く猿の声など、その土地の情景がまるで中国文学か漢詩のように詩的に美しく表現されているのです。

現代とは違う独特の漢字の使い方(「金の風」に「あきのかぜ」とルビが振られていたり…)と相まって、読んでいるだけでその文章の美しさに酔わされ、脳が快感でくらくらしてくるようです。

さらに、その流麗な文章で書き綴られるのは、神代の英雄譚ではなく、もっと身近で時にほのぼの、時にちょっぴり切ないその地方の“昔話”や「それ、ダジャレじゃん」と言いたくなるような地名の由来話などなのです。

たとえば、「富士山はとある神様の宿泊を断ったため呪われ、一年を通して雪や霜が降り、寒くて人が寄りつきづらくなってしまったが、筑波山は喜んで神様を泊め丁重にもてなしたため、一年を通して雪が降らず人の集まる山になった」――という「筑波山>富士山」をアピールするような言い伝えがあったり…
 
「初めて歌垣(古代の合コンのようなもの)に参加した幼い少年少女が、それまで噂だけで憧れていた相手に会って恋心を燃やし、でも他の人に見つかるのを恐れて松の陰に隠れ一晩中語り明かしていたら、いつの間にか朝になってしまい、どうすれば良いのか分からないまま、とにかく他の人に見られるのを恥じて、とうとう2本の松になってしまった」という話があったり…
 
「ヤマトタケルがその場所で海の幸を“飽きるほど”食べたため、その土地が『飽田の村』と名付けられた」という話が載っていたりします。
 
(※注意)上記はかなりな意訳の上、いろいろ略しているので、正確性に欠ける可能性があります。)

また、その土地土地の名産品や動植物、どういう山や川があって、そこにどういう言い伝えがあるのかが郡ごとに詳細に語られているので、そのうちにまるで「古代の茨城を旅するためのガイドブック」を読んでいるような感覚になってきます。
 
特に、今回ここでご紹介している講談社学術文庫の「常陸国風土記」には巻末に風土記に描かれた当時の地名を記した茨城県地図も載っているため、それを見ながら読んでいくと、ますます古代茨城を旅している気分になれます。
 
(自分は「常陸国風土記」はこの1冊しか持っていないので、他の出版社さんのものにも地図が掲載されているかどうかは分かりません。)

また、記紀では悲劇的なイメージの強いヤマトタケルが、ここでは活き活きと常陸国を巡っているということも1つのポイントです。

「常陸国風土記」にはヤマトタケルの后として「大橘比売命(オオタチバナヒメノミコト)」という女性が登場します。
 
常陸国でヤマトタケルと会う描写の他、ヤマトタケルが山、后が海に分かれて狩りと漁を行い、収穫の多さを競い合うなどという楽しげなエピソードも載っています。
 
この姫が記紀に出てくる「オトタチバナヒメ」なのか、「大」と付いていることからオトタチバナヒメの“姉”なのかは不明です。
 
しかし、もし彼女が記紀では東国に入る前に悲劇的な別れをすることになるオトタチバナヒメ本人なのだとしたら、何となくこの風土記のエピソードで救われるような、ほのぼのした気分になれるような気がします。

そして、昨今はアニメなど様々なメディアでキャラクターのモチーフや物語の題材として取り上げられることの多い、全風土記の中でも1、2を争うメジャーな神様「夜刀神(やとのかみ)」が登場するのも、この「常陸国風土記」です。

もちろん、夜刀神を主人公にした拙作「花咲く夜に君の名を呼ぶ」も、この「常陸国風土記」をベースとし、そこに他の国の風土記や各地の伝説(天の羽衣伝説など)、神社由来や祝詞、古代史資料や身近なモノの語源・ルーツ等を絡めて書きました。
 
実はエピソードだけでなく、独特な漢字の使い方や文章なども、かなり影響を受けています。
それほどに自分にとっては印象深く、影響力のあった一冊なのです。



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