この冬一番と言われた寒波が通り過ぎた朝のケヤキの梢。
寒々としていますが、近くに寄ると、新芽がふくらみつつあります。
![文言追加 13日 9.00]
建築設計や施工にかかわる方がたが、建築確認申請時の「煩わしさ」について:根本的には、建築基準法およびその関連諸規定に起因する「煩わしさ」なのですが:「愚痴」をこぼしているのをよく聞きます。
一言で言えば、「基準」と称する「規制」が多く、そのなかに、どう考えても「理不尽なこと」つまり「理が通らないこと」が多いからです。
しかし、愚痴をこぼす方がたが、日ごろ「理の通ること」を口にしているか、というと、必ずしもそうとは言えないように思います。建築設計や施工にかかわる方がたの多くが、日ごろ「理の通らない建築用語」、あるいは「理の通らない《常識》」を意に介していないように見受けられるからです。
その状況が、結果として「法の名の下理不尽を蔓延らしてしまっている最大の因」ではないか、つまり、「付け入る隙(すき)を与えている」、専門家であるならば、率先して「理不尽な《常識》」に異を唱えなければならないにも拘らず、むしろその「普及」に手を貸しているのではないか・・・。簡単に言えばいわゆる「オウンゴール」ではないか、と私は思っています。
そこで、ここしばらく、「日本建築構造・中巻」の紹介の合間を縫って、この建築界に蔓延る《常識》について、思うところを書いてみようと思います。
「事例」は、選択に困るほどいっぱいあります。「耐力壁のない建物は地震に弱い」、「瓦屋根の建物は地震に弱い」、「床下の防湿には地面を防湿コンクリートで覆うのがよい」、「(人工)乾燥した木材は伸縮しない」、「防腐剤を塗れば木材は腐らない」、「太い木材を使えば頑丈になる」・・・。
そこで、これらの事例のなかから「代表的な」いくつかを選び、それについて書くことにします。当然、既に何度か書いたことと重複する点がありますが、ご容赦ください。
今回取り上げるのは、「断熱」「断熱材」という用語。
この用語は、今や、建築関係の方がただけではなく、一般の方がたの間でも広く通用しています。
住宅はすべからく「断熱性能」が求められる、あるいは、住宅は「高気密・高断熱」が肝心である・・・・。
これらは、住宅メーカーの広告では、「耐震」とともに多く見られる用語です。しかも、建築関係者・専門家も、あたりまえのように使っているために、世の中に、多くのそして大きな「誤解」を広めている用語である、と私には思えます。
漢字は、言うまでもなく「表意文字」。したがって、「断熱」とは、「熱を断つ」という意、「断熱材」は「熱を断つ材料」との意になります。
しかし、英語では、断熱は“Thermal insulation”そして、「断熱材」は“ Materials used to reduce the rate of heat transfer”になるはずです。つまり、「熱の移動する割合を減らすような材料:熱伝導率の小さな材料」のこと。
残念ながら、漢字の「断熱」「断熱材」からは、 to reduce the rate of heat transfer の意が「読み取れない」のです。
一言で言えば、英語圏では、「断熱可能な材料など存在しない」ことを前提にしている。
漢字圏でも、それは同じはずです。だから、本来、漢字には「断熱(材)」という語彙はなかったと考えてよいでしょう。
正確に伝えるのであるならば、「熱移動低減材」あるいは「熱移動緩衝材。
「保温材」「保冷材」の方が「断熱材」よりもマシかもしれませんが、それでも「温度を一定に保ち続ける材料がある」かのような誤解を生む・・・。
もしも、(完全に)「断熱」「保温」「保冷」可能な材料が存在したならば(そのようなイメージをこれらの語は与えるのですが・・・)、「世の中の常識」はひっくりかえるでしょう。
ところが、そのようなイメージ・誤解を蔓延させながら、「断熱」の語が大手を振って世の中に出回っているのです。
しかも、「専門家」であるはずの「建築界の方がた」の誰も、おかしいと言わない・・・。不思議です。
私が学生の頃は、「断熱」ではなく「インシュレーション」という呼称が使われていたと思います。適当な語がなかったのです。
おそらく、「断熱」という語は、理工系の現代人が造った和製漢語ではないでしょうか。
なぜなら、明治人ならば、このような誤ったイメージを生む語は造らなかったと思えるからです。
明治期に造られたコンクリート⇒混擬土などは言い得て妙な造語ではありませんか。
多分明治人なら「インシュレーション」に絶妙な漢字をあてがって済ましたかもしれません。
「断熱」は、木造軸組工法を「在来」工法と読み替えた《企み》と同趣旨の造語ではないか、と私は推測しています。
そして、こういう語を発明した方がたの「思考」法に、「原子力ムラ」の方がたと同じものを感じてしまうのは、私だけでしょうか。
そこで、なぜこれほどまでに「断熱」という《概念》が《一般化》したのか、知っておいた方がよい、と思いますので、かつて(2005年)、茨城県建築士事務所協会主催「建築設計講座」のために作成したテキストから、当該部分を抜粋して転載させていただきます。
驚くべきことは、1980年の「指針」で「断熱材」が推奨されて以来、「現場」から、木造建築での壁内等の腐朽の急増が指摘されていながら、指針の見直し(それも十分とは言えない内容)が為されたのは1999年、つまりほぼ五分の一世紀後だったということ。その間、多くの建物をダメにし、なおかつ「現場」を大きく混乱させ、その「混乱」は現在にまで及んでいるのです。
今、建築に関わる方がたで、上記の「経緯」をご存知の方はどのくらい居られるでしょうか。「経緯」を知らぬまま、「断熱」の語に振り回されている、というのが「実情」ではないでしょうか。
私は、居住環境を整えるにあたり、「インシュレーション」について考えることは重要なことだと考えています。
しかしそれは、「断熱材」を如何に使うか、ということではないはずです。
そうではなく、「インシュレーションについて考えること」とは、居住環境の熱的性質の側面について、熱の性質に基づいて考えることであると私は考えています。
ところが、「熱」というのは、きわめて分りづらい「対象」です。
温度と湿度の関係、それに材料・物質自体の性質が微妙に絡んでくる。これを「立体的に」把握することは容易ではないからです。
たとえば、南部鉄器や山形鉄器製の急須は、鉄だからすぐに冷めるように思えますが、陶磁器製のそれよりも湯冷めしにくい、という特徴があります。この理由を説明するのはなかなか難しい。
あるいはまた、「土蔵や塗り壁づくりの建物の内部が恒温、恒湿なのはなぜか」、そしてまた「土蔵の壁や煉瓦造の壁は、RC壁造の壁に比べ、日差しを浴び続けても熱くなりにくいが、それはなぜか(土、煉瓦、コンクリートの比熱:温まりやすさ:は大差ないのです!)」・・・この説明も難しい・・・。
ここに掲げた「指針」の場合、居住空間の「室温」をいかに「閉じ込めるか」「一定に保つか」という一点に「関心」が集中したこと、
つまり、「現象」を単純図式化した結果、いろいろな問題を起こしたと考えてよいでしょう。
そのとき、特に、「木材の特質」を無視したことが問題を大きくしています。
そこで、前記講座のテキストに、一般的な熱の性質の「指標」である「熱伝導率」と「比熱」を諸物質・材料についてまとめてみた表がありましたので、以下に転載します。ただし、これによって、何かが分る、というわけではありません。あくまでも「概観」です。
熱伝導率は、註に示したように、置かれた「環境」の温度・湿度で異なる、という点に注目してください。一筋縄ではゆかない証です。
参考として挙げた塗り壁(土壁)、煉瓦壁の特徴も、「熱」の問題が、単純ではないことの一例です。
瓦の土居葺きも、土壁と同じ効能を持っていたのかもしれません。
往時の人びとの建物づくりでも、当然、居住空間の熱的側面も、工夫の対象であったと考えられます。しかし、これらの工夫は、架構の工夫などに比べ、「見えにくい」、つまり「分りづらい」のです。塗り壁づくり、土蔵造りなどは、比較的「見える・分る」事例なのでしょう。「越屋根」なども、その一つかもしれません。
土蔵の詳細については、「近江八幡・旧西川家の土蔵の詳細」で、土蔵の屋根の施工詳細は「西川家の土蔵の施工」で紹介しています。
この例は、直に瓦を葺いていますが、別途土塗屋根上に木造の小屋・屋根を造ることがあります。かつて、東京・杉並の農家の土蔵でも見かけました。
屋根面のインシュレーションについては、これまで私も、いろいろ試みてはきましたが、どうするのがよいのか、未だに確信を持てていない、というのが正直なところです(壁は、大抵漆喰真壁なので、施さない場合がほとんどです)。
「棟持柱の試み」で紹介の例では、二階は天井を設けない屋根裏部屋の形ですが、屋根面からの熱射を避けるためのインシュレーションは、屋根面(天井内)の空気をドラフトで越屋根部で排出する方策を採っています。その設計図が下図。
天井は、垂木下面に杉板を張り、野地板と天井板との間の空気を排出する方策です。同じく、野地板と瓦の間の空気も排出しています。
これは、「煉瓦の活用」で紹介した事例で最初に行った方策の継承。いずれの場合も、一定の効果はあり、屋根直下の部屋でも夏、熱射により暑くはなっていません。
室内は、越屋根の欄間の開け閉めで通風を調整しています。ただ、建てつけの悪さと、収縮により、隙間風で冬季は寒い![文言追加 13日 9.00]
ところが、同じ考えで、仕事場兼自宅の屋根で、下図のように、棟押えの部分に下図のような細工を施しましたが、ここでは、あまり効果がありません。屋根裏部屋は、夏暑くなるのです。
この違いは、ドラフト効果の大小だろうと推測しています。
越屋根に施した例では、通気孔は20mm径@約45㎝、棟板押えの場合は、棟のほぼ全長にわたって排気用の空隙がある。
考えてみれば当然なのですが(後の祭りとは、まさにこのこと!)、前者の方が排出孔が小さい分、ドラフトの速度が大きくなる。つまり、空気がよく流れる。
工事中に、タバコの煙を流入口に近づけると、勢いよく流れたことを覚えています。
それに対し、後者の場合、排出孔が大きいので流れが遅くなり、その分熱せられた空気の滞留時間が長くなるからだ、と思われます。
排出口を限定すれば(小さくすれば)、多分改良されると考えていますが、未実施、つまり確かめていません・・・・!
もう少し、往時の人びとの surroundings の熱的側面への対応のありようについて学習しなければ、と思いつつ、長い間疎かにしてきてしまっているのです。
往時の人びとの知恵に学びたい、と思っていますが、とっかかりが分らない・・・。とにかく、事例を集めることかな?
寒冷地にお住まいの方、是非ご教示願います。(暑い地域の対処法はおおよそ推測できますので・・・)![文言追加 13日 9.00]