先回に続き、“FALLINGWATER”から、落水荘の施工過程についての写真、解説図を紹介します。
上掲の図は、工程を追った解説図。①~⑤の順に工事は進みます。
その下の図は、「落水荘」の構造を示す断面図で、塗りつぶしてあるところが「落水荘」の構造を担っている部分です。
工事は、先ず「落水荘」を支える「柱脚」の設置から始まります。それが①の図。
その段階を撮ったのが下段左の写真。「柱脚」の上に接続用の鉄筋が見えますが、その上に見えている壁のように見える白い部分が何なのか分りません。
「柱脚」の上に載る「床版:スラブ」と同時に打設するのが普通ですが、ここでは、あたかも現代の橋梁工事のように、分離して施工しています。
このようにしたのは、多分、その上に載ってくる主階の床のつくり方によるものと考えられます。
通常のRCでは、柱に梁をかけ、そこに床を載せる、という方式を採りますが、「落水荘」の方法は、「柱脚」の上に、いわば「引出し状の箱」を載せるやりかたです。
下段右の写真で分るように、「落水荘」では、「手摺」にあたる部分も、構造に一役かっているのです。したがって、「引出し状の箱」は、コンクリートで一体に仕上げる必要があります。
そうかと言って、「手摺」~「柱脚」全部を同時に打設することは至難の技。そこで、「柱脚」を先につくっておき、「引出し状の箱」をそれに載せる、という手順を踏んだのでしょう。
註 こういう構造は、現在の法令規定遵守の方々からは
おそらく、認められないでしょう。
なお、「引出し状の箱」の底の部分に、「梁」状の箇所が等間隔に並んでいます。これは通常「逆梁(ぎゃくばり)」と呼び、箱の底を補強する役割を担っています。
「逆梁」は、仕上がると何のことはないのですが、この施工は難しい。この梁の打設用の形枠は、スラブの厚さ分、宙に浮かせてセットしなければならないからです。
コンクリートは、先ずスラブに流し込みます。場合によると、「手摺」の上端、「梁」の上端からも流し込みます。スラブ全体に所定の厚さになるようにコンクリートを拡げます。その厚さ分、「逆梁」の形枠は浮かせてあります。
スラブの打設が終ったら、ある程度コンクリートが固まるまで、しばらく時間をおきます。時間をおかないで「逆梁」にコンクリートを流し込むと、スラブの方にまわってしまうからです。
断面図で分るように、「落水荘」の天井は、コンクリートに直接仕上げてあります。
その代り、床はコンクリートに直仕上げではありません。
説明によると、「逆梁」の上に、レッドシーダー(米杉か?)の根太兼大引を敷き並べ、板床を張り、石を張る仕上げのようです。
この仕上げ法にはいささか驚きます。石板を木材で支える、などというのは先ずしないからです。
「逆梁」の高さ分、床下に空洞ができますが、ライトは、その空気層のもつ保温効果(現在の常用語でいう「断熱」効果)を考えていたようです。
註 ライトは、土の保温性を利用しようと、
盛土の上に住居をつくることもしています。
解説図の②~⑤からも同様の工程を踏んでいることが分ります。
なお、断面図で分りますが、この建物の「重心」を求めると、おそらく「柱脚」の中央部の上あたりにくるはずです。2階、3階が山側に引いて置かれているからです。解説によると、ライトは、滝の上への跳ね出しを維持するために、全体のバランスの平衡を考えていた、とのことです。
「逆梁」工法は、実験室や調理室など、床下に各種の設備配管が必要で、それらの保守・点検が必要な場所向きの工法です。床を剥せば、配管類が一目瞭然に分り、上から作業ができるからです。
ただし、RC工事には手間がかかります。6階建ての実験室棟をこの方式で設計したことがありますが、設備配管工事はきわめて楽です。その代りRC工事は神経を使ったことを覚えています。
以上見てきたように、ライトは、新しい工法:RCを、その理屈:原理をもって理解していた、と考えられます。RCの特徴を見抜き、架構の「立体化」にきわめて効能がある工法、と理解したのだと思います。
そうでなければ、「引出し状の箱」で架構を考えたり、あるいはまた「逆梁」の発想など、生まれてこないと思えるからです。やはり、大変な人物です。
最近巷に生まれる建物を見ていると、私は、今あらためて、材料・工法について考えなおさなければならない時期に来ているのではないか、と思えてなりません。現在の建物は、ベルラーヘではありませんが(下註)、まがいものや虚偽に満ち満ちている、と私には思えるのです。
註 「まがいもの、模倣、虚偽からの脱却・・・・ベルラーヘの仕事」