スーパーマーケットのリノリウムはまるでカーリングの氷上のように美しい。
しかしその実情は、使命感に燃えて焼失寸前の管理職が投じたストーンがフェンスに激突していくだけのエンドゲームである。
いえいえ!まさか!
お客様の生活を支えていくため、今日もリノリウムの売り場を闊歩してストーンガン無視のわんぱくスウィーパー諸君とともに「おはようございます!いらっしゃいませ!」とご挨拶をしているのです!ホントだもん!ホントに心から挨拶してるんだってば!
わんぱくスウィーパー達の陳情を聞いて回るのが出勤してからマストにこなすべきルーティンである。
彼らのスウィーピングが望めなければ即コンシードなこの業界。いくら私が「いきますよ!」と喚いてもそっぽを向かれてしまったらさすがに立ち尽くすしかない。
つまり、現場が動かなければ、どんな判断もただの独り相撲になる。
私は観客席にストーンが飛んでいく悪夢に魘されながら、ガチのマジでヒアリングに命を削っている。
他のスキップたちがどうなのかは知らない。
品出しスウィーパー君!どうしてそんなに陳列棚を占拠しているんだい?
ウンウン、台車を使ってコンパクトに品出ししないとお客様が棚に近づけなくて困っちゃうから気をつけようね!
そうだね、グルメレースですらピタリ賞回はレアなのに発注も毎回ピタリ賞とはいかないよね!でもお客様は他店を選ぶ楽さよりこの店で買う快適さのために言ってくれたんじゃないかな?私の目、真実を語っている目だと思いませんか?思わない?そっか……。
さて、スウィーパーという名の従業員各位に私のコールサインが届いたかというと……。
私は私なりに会社経営のエトセトラを飲み下し、そして噛み砕いて彼らに教え伝えているけれど。
例え彼らがそれを口に含んだところで「やり遂げたあとに感じる達成感」や「やり遂げるために感じる緊張感」として消化されるわけではないのだ。
あるとすれば「まあ俺たちみんなあの店長にめっちゃ話しかけられてたよな」という「同じ釜の飯を食った連帯感」をうっすらぼんやり認識してくれること。
それだけを頼りに私はピーチク囀ずり人の飯を売って飯の種にしているのだ。
今日も明日も私はリノリウムの売り場を闊歩して 「おはようございます!いらっしゃいませ!」と挨拶をする。ブラシを握った己の手の感触と、尊敬していたスキップたちの背中だけを胸に。