アルゴ21や富士ソフトなど組み込みソフトの開発会社が、メーカーとの新たな協業体制を模索し始めた。きっかけは、携帯電話市場の構造変化とオープン化だ。



 アルゴ21や富士ソフトなど組み込みソフトの開発会社が、メーカーとの新たな協業体制を模索し始めた。きっかけは携帯電話市場の構造変化と、ソフト開発のオープン化だ。

 主にau携帯電話向けのソフト開発を手掛けるアルゴ21の森陽三取締役兼執行役員エンベデットシステム事業本部長は、「受注したソフトを完成してから端末メーカーに納めるだけではなく、今後は端末の仕様を含めて提案していく必要がある」と明言する。

 2500人もの組み込みソフト技術者を抱える大手の富士ソフトも、「単なるソフトの受託開発にとどまらず、端末の企画段階から上級エンジニアを派遣して、事業者やメーカーとの協業体制を敷く。当社は端末の開発コストを抑えるためのノウハウを提供できる」(今城浩一取締役システム事業本部長)と話す。既に同社は、家電分野で手掛けている地上デジタル放送受信用のソフトを、携帯端末向けの「ワンセグ」に合わせてカスタマイズし、パッケージ化。2006年4月から、携帯電話機メーカーなどに販売し始めた。

 組み込みソフト分野は、2006年からようやく復調に向かい始めたITサービス市場にあって、2けた成長を続けている分野。そのため、国内の組み込みソフトの技術者は人手不足の状況が続いている。経済産業省によれば、国内の組み込みソフト技術者は需要に対し、約9万4000人も不足している計算だ。好況かつ“売り手市場”にもかかわらず、ソフト開発会社が一斉に現在のビジネス形態を超えて、新たな取り組みを目指すのはなぜか。

コスト構造を変える

 携帯電話や家電製品を制御する組み込みソフトの開発はこれまで、メーカーが製品ごとにソフト開発会社へ発注していた。しかし高機能化が著しく進んだ携帯電話となると、「メール機能はA社、カメラの制御はB社」など、個々の機能ごとに開発を委託している。一般企業の業務アプリケーションとは異なり、メーカーによってハード仕様に大きなばらつきがあるからだ。

 しかし携帯電話のソフト開発は採算上、もはや限界に達しているといわれる。例えば、NTTドコモの第3世代携帯電話「FOMA」を1機種開発するのに、100億円単位の開発コストがかかると推定されている。その大半を占めるのが、組み込みソフトのデバッグやフィールドテストだという。

 年間1000万人単位で携帯電話の加入者数が伸び、1機種で100万台以上出荷するケースもあった数年前であれば、100億円単位の開発コストをかけても回収できた。ところが2006年に年間加入者純増数が500万人を割り込むなど、携帯電話の市場はもはや頭打ち。それに応じて、「20万台から30万台の出荷台数でも採算が取れるように、組み込みソフトの開発会社もメーカーもコスト構造を根本から変える必要がある」と話す開発会社も出てきた。

 しかも、2004年にはNTTドコモが、主力サービスをFOMAに移行させる上で、それまでのPDC(personal digital cellular)方式の携帯電話の開発を抑制した。「その結果、多くのソフト開発会社で2004年後半にはソフトの受注単価が2~3割カットされた」(KSKの阿川茂取締役管理本部長)という。FOMA端末向けのソフト開発が軌道に乗っている現在も、受注単価は2004年以前の水準に戻ったに過ぎない。

 「組み込みソフトの開発会社にとっては、今までの体制では受注単価の上昇は望めない。従来型の開発体制を続けていては先細りするだけだろう。2007年からは標準のミドルウエアやOSを用意し、フィールドテストなどを含めた、オールインワンのソリューションとしてメーカーに提供してきたい」(大手ソフト開発会社の幹部)という声もある。



本記事は日経ソリューションビジネス2006年9月30日号に掲載した記事の一部です。図や表も一部割愛されていることをあらかじめご了承ください。
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