「誰も見たことがない施設をつくりたい」。工藤浩平建築設計事務所(東京・台東)を主宰する工藤浩平氏は、大阪・関西万博に意欲を見せる。
工藤氏を含む若手設計者20組が万博会場内で、合計20の施設を設計している。公募で選ばれた20組のうちの1組である工藤浩平建築設計事務所は、「休憩所2」の基本・実施設計を手掛ける。20組の中で休憩所を設計するのは4組。若手に割り当てられた万博施設の中でも休憩所は規模が大きく、実績が豊富な設計者が担当している。
実際、柱やケーブルの建て方が進んでいる現場を見に行くと、「これが休憩所の工事なのか」と思えるほど大掛かりで驚く。
誰も見たことがない施設とは、どんなものか。工藤氏が考案したのは、約750個の石を通したケーブルがネックレスのように何本も並ぶパーゴラ建築だ。膜材を使った軽やかなパビリオンなどが多い万博会場で、重量感たっぷりの石を多用する休憩所2は異質で強烈な存在になるだろう。
「石のパーゴラ」の構造は鉄筋コンクリート(RC)造、一部鉄骨造。パーゴラの下に平屋または一部2階建ての施設が分棟で並ぶ。休憩所や男女別のトイレ、案内所、応急手当て所、警備センター、バス停留所があり、水遊び場も設ける。キッチンカーも乗り入れる予定だ。建物は木造で、最高高さは約6.7m。延べ面積は約500m2だ。
工事や撤去などの建設費は、住建トレーディング(秋田市)が4億2200万円で落札した。竣工は24年12月を予定している。
パーゴラは本来ぶどう棚を指す。日本では藤棚もパーゴラの一種だ。ルーバーや格子状の壁や天井に植物が絡まって日陰をつくり、軒下のような空間が生まれる。庭先に設ける屋根付きのバルコニーやデッキのような空間もパーゴラである。
工藤氏は植物ではなく石を用いて、1855m2ある休憩所2の敷地を覆う。石のパーゴラは高い所で約9.5mと見上げるほどだ。つるす石の総重量は約90トンに及ぶ。
重さが1個90~250kgもある複数の石を鋼製ケーブルに通してつるす。石を貫通するケーブルが敷地の頭上で列を成し、日よけになる。ただし、ケーブル同士には隙間があるので日陰はできても、雨にはぬれる。
下の写真は石に孔(突き抜けた穴)を開け、ケーブルに通してつるす試験をしたときの様子だ。石は大阪・夢洲(ゆめしま)に近い瀬戸内海沿岸部で採れる花こう岩を使う。
愛媛県の「大島石」や岡山県の「万成(まんなり)石」、香川県の「小豆島石」及び「庵治(あじ)石」と、中国・四国地方の銘石ばかりだ。石材会社は地元の石が万博会場で披露されることに大きな期待を寄せている。
休憩所2は万博会場で建設中である大屋根(リング)のすぐ外、西側にできる。周辺にはユニークな外観デザインの「民間パビリオン」が並ぶ。敷地内にはバス停留所やトイレもあるので、会場の西側エリアに密集する民間パビリオンを巡る人などは休憩所2を利用する可能性が高い。